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10 SilentKnight

 レイがエコー達のクランに参入してから早半月以上の時間が経過した。


 この間にレイもみるみる実力をつけていき、エコー達と肩を並べるのに遜色ない実力を身に着けてきた。レイが成長すると同時にエコーもステータスを強化していることは言わずもがなである。


 そしてステータスの強化と同時に彼女の装備も一新されていった。ほぼほぼ初期装備に最低限の弾帯を装備していた状態から最高の装備へと更新された。そのアドバイザーは勿論エコー達だ。


 上下ODの戦闘服はそのままにショットシェルキーパーとSIG P226の予備マガジンのポーチ、それに無線機を収めたポーチが取り付けた黒のLBT-6094プレートキャリアを身に着けている。腰には動きを阻害しないようにP226が収められたホルスターに1本のナイフだけといったシンプルな装備になっている。そして首周りにはエコー達と同じODのメッシュストールが巻かれている。


 だがレイだけはそれを被ってはいない。その代わりに頭にはどこで見つけたのか、大きな猫耳が付いた黒い帽子が被されてある。


レイ曰く「これ凄くカワイイ! これを私のトレードマークにする! 戦闘だと目立って不利? そんなのよりこだわりの方が大事! 不利になるかどうかはテクニックと連携でカバーする!」だそうだ。


 こだわりや好みだと言われればエコーはそれ以上何も言わない。人の趣味にどうこう言うつもりはない。むしろ似合ってると思っているほどだ。


 ちなみにこれらの殆どを揃えたのは例のブラックマーケットだ。同時にここでエコーやトーゴーも同じように細かな装備を更新していた。











 そんな彼等は今日もフィールドワークに勤しんでいる。今日は砂漠のど真ん中で戦車などの兵器が朽ちて捨てられた場所に出払っているようだ。


「レイはそのまま前進。トーゴーは彼女のバックアップ。俺は連中の背後に回って奇襲をかける。レイ、俺のことを間違っても撃つなよ?」


『こちらトーゴー、了解』


『レイ、了解です。間違ってもエコーさんを撃つようなヘマはしませんよ』


 砂漠のど真ん中でいくつもの発砲音が響き渡る。エコー達は誰かと交戦しているようだ。


「敵は何処だ! 何人いる!?」


「すばしっこい猫耳のショットガンのチビが一人! あとは二人……三人……いや、もしかしたらもっとだ!」


「連中一体どれだけの規模のクランなんだ!? ちょっかい出したのは失敗だったか!?」


「チクショウ、気配すら感じられねぇ」


 先に手を出してきたのはエコー達ではなくどうやら彼等のようだ。それに応戦する形でエコー達は戦っている。今現在敵に視認されているのはレイただ一人だけだ。残りの二人はまだ発見されておらず、彼等にとっては見えない脅威となっていた。


 そして彼等は一人、また一人と数を減らしている。だがまだ数では彼らの方が有利。数にものを言わせて攻めればエコー達は彼等にやられてしまう。


「よし! 猫耳のチビを抑えた! 絶えず撃ち続けろ! 火力で相手を圧倒する! 残りの敵はコイツの後だ!」


 そうしているうちにレイが集中砲火を浴びて孤立させられてしまった。このままではレイはやられてしまう。


「エコーさん、トーゴーさん。敵に囲まれちゃいました! 助けてください!」


『そこだと射線が通らない。ポイントを変える、少し待て。エコーは何処にいる?』


『俺はあと30秒……いや、その半分の時間で連中の背後を取る。レイ、そこで暫し耐えてくれ。……死ぬなよ?』


 レイの無線からは彼女を救出するために必死になっている二人の声が聞こえてくる。その声よりも今はタタタン、タタタンと何度も響く発砲音。それと周囲の廃棄車両に弾が当たった音の方が断然大きかった。


 それをレイの恐怖心を何度もなぞっていた。


(残弾も少ない、リロードする余裕さえない。この状況、どう切り抜ければ?)


 恐怖を感じていてもレイはまだ戦う気でいた。負けていなければ、生きていれば勝機は何時でも訪れる。そう信じていたからだ。


 そしてその時は来た。


『レイ、待たせたな。後は任せろ』


 時間通り、迂回して敵の背後を取った。レイに囮になってもらったお陰でエコーは誰にも気づかれずに絶好の位置につく事が出来た。


「レイ、そのまま動くな。トーゴー、位置についたな? 脅威度の高い奴から順に仕留めるぞ」


『問題ない、始めよう』


 完全にレイに夢中になっている敵集団に向かってパスパス、パスパスと静かで重い一撃が幾度も飛んでいく。一撃で確実に仕留められる箇所を狙って――。


「敵っ!? 新手かっ――!」


「遅い、遅すぎるぞ……」


 反応の遅い敵に悪態も付きつつもエコーは更に撃ち続ける。そして別地点からトーゴーも同じく撃つ。


 勝負は一瞬で決した。彼等は皆一様にエコーの姿を視認することなく頭上でデッドマーカーを浮かべて敗退した。彼等の死体は数分間その場に残った後に無数のポリゴンとなって消滅する。その間そのプレイヤーは何もない通称待機部屋で待機させられ、フィールドからアバターが消滅したと同時にシティエリアへ強制転送させられる。


 尚、デッドペナルティとして所持している蓄積経験値の数パーセントが自分を倒した相手へと強制的に譲渡される。


「クリア――。周辺に残敵無し」


 エコーが周囲を軽く見まわし、完全に敵を無力化したことを告げた。それでも警戒を続けることは止めない。


『こちらもクリアーだ』


 続けてトーゴーも宣言する。


「出てきても大丈夫だぞレイ。安全を確保した。ポイントマンご苦労、この辺で一度小休憩といこう。装備を整えるぞ」


『もうっ! 人を囮に使って自分だけ経験値を稼いで! すごく怖かったんですからね!』


「はははっ、それは悪かった。じゃあ今度はレイには存分に暴れまわってもらおう!」


『でもお陰で襲ってきたクランを返り討ちに出来たって訳だ。そこれもこれも全部レイが敵を引き付けてくれたお陰だ』


 無線越しに軽い会話をしながら二人はエコーの元へと近寄る。周囲に人影は無し、三人は完全に戦闘態勢を解除していた。


「ようし、周りには人影もない。この戦車の残骸を陰にして休憩しよう。それからまた次のクエストに出発だ」


「はーい」


「了解」


 身近な戦車の陰で三人は休憩を始めた。


 休憩の間、彼等は消費して空間が出来たマガジンポーチにストレージから新たなマガジンを補給したり、ステータスや最近のゲーム内での情報の確認をしたり、今世間で流行ってるアーティストの音楽を聴いていたりとそれぞれが好きなように過ごしていた。


 それでもここはフィールド内。三人は最低限の警戒は欠かさずしている。


「あ、そういえばエコーさん達来月ある大会のことって知ってる?」


 さっきまでイヤホンで音楽を聴いていたレイがふと思い出したようにエコーに聞いた。


「大会? 定期的にある予選を勝ち残った100人が最後の一人になるまで戦うあのいつものバトルロイヤル戦のことか? 確かあれはバトルオブグラウンドとか言ったか?」


「それか最近一部で流行り始めてる1チーム5人編成で室内とかの閉所空間で戦うトーナメント戦のことか? この大会はあまりいい噂を聞かないから出るのはお勧めしないぞ?」


「違う違う! そのどっちでもない! 私が言ってるのはこっちの大会」


 そう言うとレイはコンソール画面を表示してその大会の告知画面を二人に見せてきた。


「「Unit Battle Royale?」」


 偶然エコーとトーゴーの声がはもった。


「そう、ユニットバトルロイヤル。略してUBR。なに、お二人さん? このゲームそこそこやっているのにそんなことも知らないのぉ?」


 レイは二人にこのイベントを知らなかったのかと聞いてきた。その時のレイはドヤ顔をしながら、なにか勝ち誇ったかのような顔をしていた。


「大会みたいなイベントには今まであまり興味が湧かなくってな。基本スルーしてきた。トーゴーは?」


「俺も同じだ。特に興味がなかったからな」


「あぁ分かった、レイはもしかしてこのUBRに出たいんだな?」


「……そのまさかです。よかったらでいいんですけど、このメンバーで参加しませんか?」


 どうやら図星だったようだ。レイはこの大会に興味が湧き、この三人で出場してみないかと打診したのだ。


「はぁ……、参加するかどうかは詳細を見てからだ。それでもいいか?」


「はい、それでも大丈夫です」


 エコーはコンソール画面を開き、インフォメーションから件のUBRの詳細画面を表示させる。そして少し画面をスクロールして参加するにあたっての条件などが書かれた画面でスクロールする手を止めた。


 詳細はこうだ。開催日は来月の7月の第2日曜日、時間は日本時間の午後6時から。1チーム最大6人まで参加可能、本大会に参加するチーム数の上限は無し。戦闘エリアは今大会専用の特設エリアにて。縦横各16KMの広大な戦闘エリア、そこは市街地、森林、山岳部などの複数のフィールドの特性を持っている。優勝条件は最後の1チームが決まるまで。一人でも生き残っていればそのチームが優勝となる。使用する武器の制限も特殊ルールもなし。尚、上位入賞チームには景品あり。


 そして最後の一文にこう書かれていた。『仲間を信じよ、己の実力を信じよ。それこそが勝利のカギだ!』と。


 一通り目を通してからエコーの意は決した。


「いいだろう。このUBRとやら、俺達も参加しようじゃないか。トーゴー、それでいいか?」


「エコーが決めたなら俺は何も言わない。それに付いていくさ」


 そして全体の意見がまとまった。


「という訳だ。レイ、参加するにあたって俺達の目標はただ一つ、優勝だけだ。それ以外は眼中にない。死ぬ気で戦って勝ちにいくぞ!」


「はい! 頑張りましょう!」


「そうと決まればそろそろ正式なクラン名が必要だな。何か案は有るか?」


 クラン名はどうするかとエコーは皆に聞いた。それにすかさず答えたのがレイだった。


「はい! いい案が有ります!」


 彼女は挙手しながら元気よく答えた。


Silentサイレント Knightナイトってのはどうでしょう? 二人とも音もなく静かに戦うから……」


「ははっ! それは妙案だな。じゃあその騎士に守られてるレイはお姫様ポジションってか?」


 真っ先に反応したのはトーゴーだった。


「なっ!? そんなつもりで考えたんじゃないです! お姫様扱いなんてやめてください! 私だって一緒に戦えます!」


「いや冗談冗談、悪かったな。レイは一緒に戦う頼もしい仲間だ。それにしても三人の騎士ってなんだかダルタニャン物語の三銃士を彷彿させるな」


「一人はみんなのために、ってか。まあ冗談もここまでだ。俺達は以後クラン名をSilentKnightサイレントナイトと呼称する。大会まであまり時間がない。残りの日数を有意義に使い、装備の拡張及びスキルの強化に励むぞ。俺達の目標は優勝ただ一つだ。各々気張っていくぞ!」


「「おぉ~!」」


 三人のクラン名が正式に決まり、そして今後の活動方針が決まった。彼等は来る来月の大会、UBRに参加するために、そこで優勝を目指すために各々自己のスキル強化などの鍛錬に勤しんでいった。

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