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荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
80/80

さらば⑦

「凪! 」


叫んで、翼は走った。人ごみをかき分けて進んだ先に、凪が固まっていた。


「凪、元気で良かった……」


息切れして膝に手をついた。凪は相変わらず痩せていて小さかったけれど、顔色は見違えるほど良くなっていた。


 急に走ったからか、まだ肩を上下させている翼の背を軽く叩いた人がいた。


「君も元気そうで何よりだ。前は半透明だったけど、今日は生身だ。それにしても背が伸びたね。いきなり走ってくるからびっくりしたよ。まさかまた会えるなんて」


「報セさんもお元気そうで何よりです」


「お陰様でね」


報セは毛玉だらけの黒い外套を着て、微笑んでいた。


「まさか会えるなんて……」


報セの言葉を復唱するうち、翼の頬が濡れていった。走ったからじゃない。別の理由で、息がしにくくて堪らない。


 まさか会えるなんて。奇跡みたいだ。すごく会いたかった。会えて嬉しい。二人とも無事で良かった。


 だけどもう会えない人のことが、頭から消えてくれない。無事じゃなかった人に、人達に、会いたくてたまらない。どうしようもなく胸が苦しい。


 生きている人。もう会うことのできない人。まとまらない思いの中で、翼は生きようと思った。戦うことを誓った。


 生き残った人がいる限り、物語は続くから。その結末が悲劇か否かを、決めるのは自分だから。


 失恋は長い人生の中の小さな悲劇だ。楽しかった思い出が、苦いものに変わってしまうから。心中は残された者にとって悲劇だ。


 悲劇で終わる恋物語が悲恋ならば、片方が死んだところで悲恋かどうかはわからない。まだ物語は終わっていないから。


 最初から最後まで片恋だ。恋の終わりは自分で決めればいい。死ぬ時か、今は想像もつかないが別の誰かに恋した時か、それはわからないけれど。そしていつの日か、感謝とともに懐かしく振り返ることができたなら、それはもはや悲劇ではない。


 悲劇の女主人公なんてつまらない。きっと君ならそう言うから。大好きだよ、これからもずっと。


 袖で汗を拭って、翼は伸びをした。


「どこに行くんです?この辺りなら道案内できますよ」


「あ、じゃあ北改札から乗り換えたいんだけど、どっちかな。右にも左にも改札があってわかんないんだよ」


「今、背中向けてる方です」


「え」


「送りますよ」


翼は凪が持っていた荷物を受け取って、北改札に向かった。


 物語は続く。


 黒キ翼の、人生という名の冒険は、まだ始まったばかりだ。

これにて完結とします。

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