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荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
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さらば③


「そう。私に限らず、誰かの恨みを抱える必要はないの。貴方はいつだって自由だし、背負うべきは恨みじゃなくて愛情よ」


「自由なら誰のためにどう生きようと俺の勝手だろ!放せよ!俺ならリンの仇をとれる! 」


「だめ」


リンは軽く翼の背中を叩いた。


「だめよ。裏切り者を殺して、貴方はどうなるの?怨霊にでもなるの?絶対にだめ。……いいえ。どう生きようと貴方の自由よ。でも私にも止める自由があるわ」


そっとそっと、壊れ物でも触るみたいに、リンは翼の髪を撫ぜた。


「貴方には死んで欲しくないの。貴方が好きよ、可愛い子。私は死ぬけど、死んでしまったけど、貴方には生きていて欲しいのよ。わかるでしょう? 」


声が震えていた。釣られて涙が再び頬を伝った。


「俺だってリンに生きていて欲しかった。慰めようとしても無駄だよ」


どちらからともなく鼻を啜った。


「無駄なんて言わないでよ、翼。貴方は生きて、貴方が望むように。貴方が生きたいように。約束よ、ねえ。私のお願いよ。叶えてくれないの? 」


哀願だった。


「そういう言い方は狡いよ……」


確かに狡い言い方だ。翼は怨霊ではない。死にゆく人間の頼みを、断れるはずがなかった。リンはその事をよく知っていて、こんな言い方をしているのだ。


「なんとでもおっしゃい。わかったわね。素敵な人達を愛して、慎ましく楽しく暮らして、それだけで充分よ。貴方ならできる。他人のことは放ってもいい。誰かのためじゃなくて、自分のために生きなさい」


素敵な人達を愛して。そう、翼は幸せだったのだ。リンに、センジョに、ロソウに、カジカに出会えて。幸せだったから、奪われた事が、もう二度と会えないことが、こんなにも悲しい。


 怒りはだんだんと萎れ、悲しみが翼の心を染めていった。


 二人して抱き合って泣いた。

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