対峙すること⑨
「大虎」
懐かしい声がした。声の主は少年と青年の中間くらいの年頃の、よく日焼けした男。
「見ろよ、あれが皇帝のいる島だ」
黒キ鳳である。三百年以上前のこと。武人たちはまだ南東諸島の蛮族にすぎず、氷上帝国は怨霊と疫病と争いが跋扈する国だった。初代大将軍はそれを憂いて兵を挙げ、鳳と大虎は一介の将に過ぎなかった。
混沌とした時代だったが、希望に満ちていた。初代大将軍という旗印のもと、なんの躊躇いもなく命をかけて守りたいものを守れる時代だった。
「皇帝さんの役に立って、サクッと領地、頂いちまおうぜ! 」
不遜に笑う鳳は薄汚く、若々しかった。
「鳳、お前……」
そう答える大虎の声もまた若い。これは記憶の断片だ。
「深刻な顔してどうした、大虎? 」
口をついて言葉が出てきた。
「お前は今度の戦いで死んだらどうする? 」
鳳は腹を抱えて笑った。
「そんなの決まってら。生まれなおして好き勝手やるわけさ」
「でも生まれなおして、とんでもない世界だったら? 」
「そんなの俺が叩き直してやるまでよ。だがな大虎、死んだらなんて縁起でもないこと言うんじゃねえ。この世界は命あっての物種さ」
……そうだった。
消える直前、大虎の瞳が少年を捕らえた。鳳、お前はそこにいるんだな……。