表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
71/80

対峙すること⑧

 お互いが限界に近づいてくると、なるだけ相手に動いて欲しくなる。


「鳳の子孫とは他愛もないな。残念だが、まあ変な名乗りだったからこんなものか」


大虎が煽ってくるのはそういう理由だ、と翼は推察する。


「うるさい、うるさい、ばーか」


大虎を見習って脚を狙ったが弾かれた。


「お前の先祖は、若い頃からもっと強かったぞ」


「知るか阿呆! 」


今度は大虎の鋭い突きを躱す。すんでのところで、喉を串刺しにされずに済んだ。


「弱い、弱い弱い、弱いぞ情け無い。鳳の子孫ならば…

…」


「さっきから鳳鳳うるせえんだよボケ! 」

脛を蹴飛ばしたが岩のようにびくともしない。それでも攻撃の手を緩めなかった。


「たしかに先祖は誇りだけど、俺はそれだけじゃ、ないんだよ」


「そうか」


首を斬られ激痛が走った。両手で首を押さえて後ろへ逃げる。数秒で治る。大虎がそうはさせまいと追いかける。


「ならばお前は何者だ、ここで惨めに逃げ回っているお前は⁉︎ 」


「うるさい逃げ回ってない!戦略的撤退だよばーか! 」


首がくっついたので刀をきちんと持ち直し、肩の付け根に振り下ろす。弾かれた。刀が宙を舞う。


 思わず翼は目を瞑った、が、いつまで経っても追撃がこない。目を開けると、センジョが大虎と翼の間に割り込んでいる。


 センジョの身体は半透明で、青く輝いていた。


「センジョさん……」


センジョは笑顔で振り返った。


「悪い!死んじまった! 」


悲壮感がまるでない。むしろ憑き物が落ちたような柔らかな笑顔である。


「押しつけてすまないが、お前は生き延びてくれよ。俺からのお願いだ」


続々と現れる青い兵士たちが、怨霊を押し込めていた。彼らの顔には見覚えがある。なぜ彼らが力を貸してくれるのか、それがわからない翼ではなかった。


「……元から死ぬ気はないです。ばーか! 」


温かな笑い声が翼を包んだ。


「その調子だ、気張れ! 」


ロソウらの声援に背中をどやされるようにして、翼は再び刀を握った。


 風が、翼の髪を靡かせた。大虎を見据える。


「俺が何者かだって⁈もう一回名乗ってやるよ!俺は黒キ翼、黎明より将軍に仕えた太陽の一族に生まれ、武人として歩む者! そんでもって俺は、かっこいい親父と礼義正しいお袋の息子で、優しい兄貴の弟で、シイ神さまに呪われて、報セさんと凪と三人、なんとか逃げてきてリンに救われ、センジョさんに怒鳴られて、そうやって頑張ってきた南風市立中学三年二組、現在は生き霊!ちなみに出席番号十番!どうだ参ったかくそったれの怨霊がぁぁぁ! 」


腰を落とし膝を斬った。すぐに弾かれたが翼の切っ先は確かに大虎の膝を抉った。


 大虎は後ろに飛び退って構えなおす。翼の追撃を弾く。


「要らんことばかり吐かしおって!お前はそれでも武人の子か?我が苦心して築いた国の子か?我らの血を吐くような思いは踏みにじられた。それに怒って何が悪い!唾棄すべきは運命だ!今の世だ!我はお前を討ち果たし、世を正す!今すぐ我が刀の錆となれ! 」


「やなこった! 」


大虎の刀が掠って、脇腹が血を吹いた。それでも翼は下がらない。本能が警鐘を鳴らす。それでも。攻撃は最大の防御だ。


 吐いて、吸って。吐いて、吸って。


 呼吸と相手の刀が、己を形作っていく。


 大虎の刀が翼を動かし、翼の刀が大虎を動かす。


 彼我の境界が曖昧になっていく。


 一瞬が永遠になっていく。


 吐いて、吸って。吐いて、吸って。


 翼は大虎の首を斬り落とした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ