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荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
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対峙すること⑥

 苦しい。


 翼は息を整えようと、深呼吸をした。


 苦しい。


 鼻から大きく息を吸って、ゆっくり吐く。吐けば勝手に吸うから、吐く方が大切だ。


 だんだんと呼吸を速めていく。吐いて、吸って、吐いて、吸って。


 雑念を捨てろ。負けたら死ぬぞ。


 吐いて、吸って、吐いて、吸って。軽く目を瞑って呼吸に集中する。


 が、青キ大虎は甘い男ではなかった。呼吸が整うのを待つことなく、とどめを刺しにくる。


 相手は強い。


 翼は防ぐ一方であった。


 青キ大虎とその部下達の使う刀術は、翼の使う鳳一刀流と比べて一撃が重い。まともに喰らっては腕が痺れる。

 翼は重心を移動させて鍔迫り合いを避けた。


 翼は年齢の割に大柄で、去年の冬には母親の背を越していたが、大虎の方が体格が良い。劣っているのは体格だけではないが。気迫、技術、経験、あらゆるものが足りない。


 しょうがないじゃん。ばーか、ばーか。あほー。


 心の中で毒づいた。


 しょうがないのだ。若輩者が勝てる相手ではないのは。仮にも武将だったのだ相手は。弱いわけがない。でも負けるわけにはいかない。死ぬからじゃない。


 この世界では、弱い人間が一生懸命に頑張って生きているんだ。それを否定してはいけないんだ。怨霊が大暴れする世界は、もしかしたら今よりずっといい世界かもしれないけれど、それでもこの世界は、生きている人間がもがくためにあるんだ。


「負けてたまるか、くそったれぇぇぇ! 」


振りかぶって首を狙った。


 大虎は迎え討つと見せかけ、僅かに屈んで翼の膝を斬った。


「反則だぞボケ! 」


転がってとどめを避けた翼は悪態をついた。


 確かに、現代の刀術において脚を狙うのは反則だが、乱世の刀術に反則などあるはずがない。が、大虎は顔を顰めた。翼の悪態に心を痛めたからではない。斬ったはずの翼の脚がまた元通りになっているのを見たからである。


「反則はどっちなんだか……」


翼には神が味方している。シイ神さまの言ったことは嘘ではなかった。


 お互いにわかってきたことがある。翼と大虎の間には実力差があること。しかしながら未だ大虎は翼にとどめを刺せないでいる。翼はしばしば攻撃を喰らっているのだが、大した傷にならずに済んでいるのだ。甲冑が翼を守っているのみならず、翼自身も生身ではありえないほど回復が早い。


 大虎の刃筋に焦りが滲み出した。形式を重んじた武将らしい態度がなりを潜め、乱世を生き延びた一人の強者の顔が覗く。


「さっさと消えろ」


大虎は上段に構え、一気に振り下ろした。


 上段の構えは、胴が空くため試合ではあまり使われない構えだが、その隙を突かせぬ速さである。高いところから振り下ろすため、その一撃は威力が増す。


 翼は飛び退って逃げた。逃げるのは恥だが仕方ない。消されたら終わりだ。


 シイ神さまのおかげで生き延びていると思うと癪に触るが、翼は作戦を変えることにした。


 正攻法をやめ、とにかく体力もとい霊力を削る作戦をとることにした。焦るということは、大虎には限界があるということである。翼が大虎に勝るものがあるとすれば、おそらくシイ神さまが送ってくれる霊力以外ないだろう。


 つまりひたすら逃げ回るということだ。


 翼は瞳を動かして周りを確認した。兵士に円形に囲まれている。が、その数が最初より少ない気がした。

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