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荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
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対峙すること④

 心の中でリンの声が響いていた。


『今あるものを、昨日の明日を、過去の未来を、切り開いてきたのは貴方でしょう。今日を創りあげたのは、貴方でなければならなかったの』


 リン、俺は間違えてないよね?この場所でできる精一杯のことをしてるよね?俺は今ここで、価値ある人間になれてるのかな?


『生きている価値なんて、生きている途中の人間にはわからない。それこそ神のみが知るもの』


 そうだね。死んだらわかるかな?死んでみるにはまだ早すぎる。


『疑いようもなく、貴方は良い子だもの。良い子っていう言い方、私は好きじゃないけどね。でも、報セさんを牢から出したのは、貴方でしょ。凪を連れ出したのも、貴方でしょ。こうやって私と話しているのも、貴方でしょ。私は貴方と話せて楽しいよ。貴方がいてくれて本当に嬉しい。それはきっと、報セさんも凪も一緒』


 リンが言うなら、きっとそうなんだろう。


『貴方が生きていることが、心から嬉しい。大袈裟かしら?そんなことないと思うわ。他の誰でもない貴方と、こうして語り合えることを私は神に感謝している』


 リンにとって神って何?青の民の神って一人しかいないんでしょう?ああ。でもリンって普通の青の民と違うよね。異端者だっけ。同じ宗教を信じていながら、正統な信仰の仕方でない人のことって言ってたよね。でもだいたいは集団に馴染めない人のことよって。


 リンが信じてる神って、たぶん俺が神と呼ぶシイ神さまみたいな神さまとは違って、もっと偉大な人格の何かだろう。人格もないかもしれない。人格があるのなら、この複雑極まりない世界を放っておくわけがない。


 リン、俺はこのまま進んでいいんだろうか。


『貴方より上手くできる人がいたって、そんなことはどうでもいいのよ』


 でも不安なんだよ。取り返しのつかないことになるのが怖い。


『貴方は祝福されて生まれてきた』


 俺は正直まだ、俺は兄上の補欠だって思ってる。俺の人生十三年かけて育ってきた劣等感だ。簡単にはいなくなってくれないよ。憧れが裏切られ続けてきた今でも、俺にとって兄上はそういう存在だ。くだらないとは思うけど。


『顔を上げて、周りを見て。貴方を中心に、世界が広がっている。その全てが間違っていたと思う?貴方はそんなにこの世界が嫌い? 』


 世界なんて馬鹿でかいもの、好きも嫌いもないだろ?


『国なんて馬鹿でかいもの、憎んだってしょうがないでしょ。私に見えている帝国と、貴方に見えている帝国はまったく違うだろうし、どちらが正しいってもんでもないわ』


ほらね。似たようなこと言ってるじゃない。リンもそう思うだろ? 


『現在というものは、何か一つの原因から出来上がるわけじゃなくて、たくさんの過去が組み合わさって出来るのよ』


そうだよ。俺はわかってるんだ。


 だから俺は、今あるものを、昨日の明日を、過去の未来を、切り開いてきた全てを愛さないわけにはいかないんだよ。今日を創りあげたのは俺でなければならなかったのか、そんなことわかんないけど、どれか一つでも欠けたらリンには会えなかったから。


 俺はリンと話せて楽しかったよ。照れくさいから言わないけど、リンがいてくれて本当に嬉しい。それはきっと、報セさんも凪もカジカも、たぶんセンジョさんも一緒だよ。


 その愛おしい今日は、俺という人間が色々うじうじ考えて導き出したもので、強い神さまの言う通りにしてできたものじゃない。うじうじ考えて、時には衝動のままに動いてしまったり、信念と矛盾してしまったり、一つ一つにためらいながら、出来上がったものだ。


 人を消すのにためらわない怨霊が、どうこうしていいものじゃないんだよ。今日という日も。世界も。


 翼は振り返ってひたと甲冑の男を見据えた。二人はほぼ同時に刀を抜いた。


「お手合わせ願おう。我こそは黒キ翼」


「受けて立とう。我が名は青キ大虎」


戦いの火蓋が切って落とされた。

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