対峙すること②
「さあ逃げるぞ、クソったれぇぇぇ! 」
覚醒後、耳に飛び込んできたのはセンジョの言葉だった。センジョは手袋をし、米俵でも担ぐように翼を抱えて走っている。
「元気で家に帰るんだ! 親御さんが心配してるだろう? 精霊の言うことなんか聞かなくていい。この島で起きていることは、君には関係ないことだ。家に帰って全部忘れなさい。戦うのは哀しいことだ」
「センジョ!我の目の前でなんてことを! 」
シイ神さまが口を挟む。
「うるせえ、黙れ!恥を知れ!お前も、俺もみんな恥知らずだ。怒鳴ったり望んでもない力を与えたり、なんでもかんでもガキに押し付けて、そのくせ正義面してるんだ。恥を知れよ、まったく! 」
センジョは片手を振り上げて、勢いよく振り下ろした。突風が追いかけてきた兵士を薙ぎ倒した。
「え……つよ」
シイ神さまから頭の足りない感想がまろびでるほどに、センジョは鬼気迫る形相である。
「ふっ飛べぇぇぇ‼︎ 」
センジョはもう一度突風を巻き起こすと、全速力で走った。首を斬られたと思ったらぶん回されて、翼としてはたまったものではなかったが、翼はおろかシイ神さまや川の神さえ、センジョを止めることはできなかった。
「神よ感謝いたします。貴方が我に与えたもうた全てに従い、その大いなる手に全てを委ねます。願わくば全ての同胞に……いや、全ての人に貴方の愛が降り注がんことを」
凪が食後にしていたように、センジョは彼の神に祈った。祈りは無駄にはならない。それならば願おう。今、ここに生きている人間たちの幸福を。そして
「仲間を殺した恨みだ、くらえぇぇぇ! 」
もう一度だけ、センジョは振り返って、投げつけられるだけの力を全て怨霊どもに叩きつけた。吹き飛ばされる者、引きちぎられるように消えていく者、様々だったが、それをかいくぐってセンジョに迫る影があった。
「たわけが」
低く呟いて斬りかかってきたのは、長ノ海嶺である。翼と戦った武将だ。
「危ない! 」
そう叫んだのは誰だったか。とにかく翼は投げ出され、受け身をとらねば頭を打つところだった。