対峙すること①
川の神の案内で、怨霊が通るという場所まで移動すると、センジョ一行は草むらに隠れた。足が痺れ我慢の限界に達しかけたとき、
「来たぞ! 」
とシイ神さまが言った。
整然と隊列を組み、川に突き進んでくる怨霊の群れを川の神が阻んだ。
「死者は蘇らぬのが世の定め。墓に帰れ下郎ども! 」
川の神は多面多臂の巨大な姿へと変化し、腕を一振りして先頭から三列分の兵士を吹き飛ばした。
兵士たちは果敢に槍や刀で立ち向かったが、たちまち薙ぎ倒されて消えていった。怨霊の群れは総崩れになり、川の神を倒そうと駆け寄る兵士と、逃げ戻ろうとする兵士の間で押し合いへし合いの大騒ぎとなった。
その間にも川の神は兵士をちぎっては投げ、ちぎっては投げ、ある者は地面に叩きつけ、ある者は川に引きずりこんで、兵士の数を減らしていった。
その時ある声が聞こえた。
「弓兵構え! 」
指示を出しているのは、長ノ海嶺であった。翼とやり合った青キ大虎の部下である。
「放て! 」
これには流石の川の神も閉口させられた。斜め上に向かって放たれた矢は、鏃の重さで放物線を描く。一つ一つの命中率はさほど高くなくとも、雨のように降らせることで、敵を仕留める作戦だ。
川の神は後ろに隠れているセンジョとシイ神さまを守るため、あえて矢を受けた。血が川を赤く染めた。が、川の神は動じなかった。涼しい顔で、弓兵に向かって手を伸ばす。可哀想に、勇気ある兵士から犠牲になっていった。
その時である。甲冑の男が、川の神の指を切り落とした。
「化け物が」
そう不遜に言い放ったのは、青キ大虎に相違ない。その姿は彼にまつわる言い伝えそのものだった。
「今だセンジョ! あいつだ! あいつに向かって刀を投げろ! 」
川の神に任せきりで、大人しくしていたシイ神さまが叫んだ。
全く。都合が良いように使いやがって。内心舌打ちしつつ、センジョは刀を投げた。刀は真っ直ぐに大虎へと飛んでいき、胸当てに当たった。
刀はたちまち光を放ちながら、人の形になっていく。時が止まったように、誰も身動きしなかった。首が体目掛けて飛んでくるという珍事もおこしながら、光は半透明の人間になった。
翼は地面から浮かんで、目を閉じていた。いつもの紺色の衣服ではなく、大虎のような甲冑をつけている。甲冑は漆黒に鳥の装飾。ところどころに金の飾り。羽を模した腕飾り。頭帯は鮮やかな牡丹色。甲冑の下の衣服も牡丹色である。煌びやかであるのと同時に、全体的に淡い色の衣服を着た怨霊たちと対照的である。
翼は目を覚ました。