彼らの処遇⑤
カジカを寝かしつけてから、どうにも眠る気になれず、リンは広場を散歩した。そのうち裏紙に鉛筆で絵を描いている報セに会った。
「こんばんは、何を描いているの? 」
「こんばんは、リン。この広場を描いているのさ。写真機が壊れてしまったからね」
「何のために? 」
「何ってそりゃあ、記録するためさ。まあ本にしてくれる出版社があるかはわからないが」
報セは分厚くなった紙の束を指差した。兵士や市民から聞き取ったことを、殴り書きしたものだ。リン自身の証言も含まれている。
「そんな記録に価値があるかしら」
「あるよ。君のような市民の証言はとても貴重だ」
「何か変わるかしら」
「わからない。でも今記録しなければ、未来に振り返ることができないだろう? 記録を残すのは、何も現在の人間のためだけではないよ。僕自身は、真実の欠片も掴めない可能性だってあるけど、僕の残した記録を元に、誰かがもっと確実な何かを見つけるだろうね」
「貴方は前向きね。翼のこと、心配じゃないの? 」
「そりゃあ心配だよ。だけど僕は僕にできることをしているんだよ。心配しながらでも仕事はできる」
「合理的ね。貴方は明日早いでしょうから、もう寝たら? 」
「もう少ししたらね」
ふと夜空を見上げると、今夜も星が綺麗だった。リンは胸のつかえがとれた気がして、カジカのそばへ戻った。安らかな顔で眠るカジカに、思わず笑みが溢れた。