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荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
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彼らの処遇①

時を少しばかり遡る。所は市庁舎。報セ山藤が目を覚ますと、もう昼だった。


「あれ……」


朦朧としながらも報セは辺りを見た。まだ腰が痛い。が、報セは眠りが浅く朝寝坊をしない性質なので、すぐに違和感を感じた。なぜこんなにも眠りこけていたのだろう。


「翼と凪はどこに……? 」


誰かに問いかけたわけではないのだが、すぐに返事があった。


「翼なら怨霊を倒しに行ったわ。シイ神さんと一緒に」


リンがすぐ側にいた。


「なんだって‼︎ 」

飛び起きた拍子に腰に激痛が走り、報セはその場でのたうちまわった。


「僕が寝ている間になんて事態に!怨霊ってなんだ! 」


「順を追って話すから落ち着いて。ほら座って。今動きまわったら本格的に痛めるわよ」


リンは報セに説明した。怨霊騒ぎと報セの置かれた立ち位置、シイ神さまが報セの反対を懸念して眠らせたこと。


「つまりなんだい?翼とシイ神さまに全てを任せて、僕は何もせずにここで待てと?随分と舐められたものだ」


報セは不満だった。当たり前だ。まあ百歩譲ってセンジョが報セを利用するのはわかる。霊能者ではない報セにはイマイチ脅威がわからないが、青キ大虎の怨霊とやらを倒さなければならない時、シイ神さまを味方に引き入れたい、そのために報セを利用しよう、というのは大いにあり得る。まあその提案にシイ神さまがのるのも理解できる。しかし当事者である報セになんの相談もなく、あまつさえ眠らせて事を進めるのはいかがなものか。曲がりなりにも神であるシイ神さまはともかく、巻き込まれただけの翼をまたも戦わせるのは、申し訳ないを通り越して胸糞が悪い。たとえ翼が望んだとしてもだ。


「凪は? 」


「カジカと一緒にいる。会いに行く? 」


「いいや。もう少ししてからにする」


意地で立っていたものの、腰の痛みに耐えられずその場に腰を下ろしながら、報セは首を振った。


「辛そうね。水を持ってこようか? 」


「そうしてくれるとありがたい」


リンが水を持ってくるまでのわずかな間、報セは一人ぼんやり空を見上げた。思えば随分と奇妙なことだ。報セは無神論者ではないが霊能力はないし、今まで神や霊の類に遭遇したこともない。ここ数日で、一生分の霊を見た気がする。三十二年の人生の中で、死を覚悟したことは何度かあるが、死の向こう側、というか死を超越した者の存在をこれほどハッキリと感じたことはなかった。


「はい、どうぞ」


「ありがとう」


「相変わらず世話になるね。ありがとう、リン」


「どういたしまして」


喉を潤しながら、報セは考えをまとめた。


「……リンは、止めてくれると思ったよ」


誰を、とは言わなかったが通じたようだ。


「あの子の意志を尊重したかったの。私はあの子が強いことを知っているから、信じてみようと思ったのよ」


リンの瞳に嘘や気遣いの色はなかった。意思を尊重したい、という言葉には、それも道理だと思った。翼の人生は翼のもので、従ってその判断も彼のもので、外野が口を出すことではないのかもしれない。


「でもなあ……」


リンの言うこともわからないではないが、それでも報セはぼやきたかった。


「まあ私が止めたところで、あの子は聞かなかったと思うわ」


それもそうかもしれない。報セは納得した。それはそれとして、彼自身の考えは変わらなかった。


「せんかたないか」


「へ?なんて言ったの? 」


仕方がないか、と言ったのだ。


「いや、大したことじゃないよ」


先程は急に立ち上がったことがよくなかったので、報セは今度はゆっくりと立ち上がった。ゆっくりゆっくり伸びをする。痛めたわけではなさそうだ。


「僕は僕にできることをしよう。凪のところに連れて行ってくれないか」


リンの先導に従って、報セは市庁舎前の広場をゆっくりと歩いた。


 少しばかり市民の視線が痛いが、菱の島の夏は過ごしやすい。本島の殺人的な暑さに比べれば涼しいと言って構わないだろう。


 広場から見る市庁舎はその堅牢さに反して、無機質なりの美しさがあった。要の美というのだろうか。石造りの建物には馴染みの薄い報セも、この建物には高度な技術が使われていることが想像できた。


「リン、この建物はいつごろ建てられたんだい? 」


リンは目を丸くした。思ってもみなかった質問らしい。


「さあね。かなり昔よ。帝国が建てたものだと思うわ」


「そうか。帝国でもなかなか見ない造りだから気になってね」


「そうなの。カジカと凪は市庁舎の中にいるわ」


リンは靴のまま、市庁舎の中へと入った。報セも続いて中へ入った。

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