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荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
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怨霊討伐大作戦⑩

「大将はお前か」


センジョは頷いた。


「お前が彼らをここまで連れてきたのか」


センジョはまた頷いた。


「そうか」


と無感動に怨霊は言った。怨霊を封じようと市庁舎を出たセンジョたちはこの時、自分たちの目的がなんと無謀なことだったのかを理解した。墓を暴かれ出てきたものは単に故人の恨み辛みではなく、強大な敵意だった。


 ごめんねカジカ。兄さんはもう駄目みたいだ。センジョは死を覚悟した。金縛りがセンジョを襲った。甲冑の怨霊は部下に合図をした。


「お前たちはもはやここまでだ。祈りを捧げよ」


怨霊の重々しい宣告を、センジョたちは神妙に聞いていた。


 これでいい。これで終わりだ。奪われる前に奪う日々を断ち切られる時がきたのだ。誰一人、逃げ出すことはなかった。身体中の血を凍らせたかのような金縛りは、同時に甘やかな安堵を運んできた。もう家族を喪うことも、お腹が空くこともないんだ。


 口にこそ出さないが、生きることを諦めざるを得なくなった瞬間から、怒りは絶望へと変わり、絶望は心の安寧を運んできた。


「神よ……」


ロソウが低く呟いた。怨霊が刀を抜く。センジョは静かに目を瞑った。


 風が吹いた気がした。


 センジョは目を開けた。センジョ一人を遺して、みな死んでいた。


「な、なんで……どうして……おれは、おれは……」


膝をついて怨霊を見上げた。甲冑の怨霊、青キ大虎が口を開いた。


「せいぜい生き恥を晒すといい」


残酷なこの怨霊は何かを投げて寄越した。思わず受け取ったセンジョは声にならない悲鳴をあげた。首だった。生き霊の首。


「子どもには興味がなくてな」


翼はまだ生きている、とセンジョは感じた。だからといって何ができるわけでもなかった。


「き、きさ、さ」


なんとか罵倒してやろうという努力も虚しく、怨霊たちは霧の中に消えていった。

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