怨霊討伐大作戦⑦
「お前は生き霊ってことはさ、普段はやっぱ都会に住んでんの? 」
「都会……と言えるかはわかりません。地方なので」
「なんだよ、帝都じゃねぇの? 」
「はい」
ロソウの意図がわからず困惑していると、ロソウは自分の思う帝都について語り出した。
「おれはな、一回だけだけどよ、出稼ぎの伯父さんに帝都の葉書をもらったことがぁんだよ。写真のな。こうな、丘から海にかけてバァーっと建物があってな、ピカピカ光ってるんだ。夜にだよ。母ちゃんが後生大事にしている宝石箱をひっくり返したって、あんなにピカピカ光らないぜ。あれは星空だよ。お星さんが手の届くところにいるんだ」
いかにも反乱軍の兵士という風体の男が、夢見がちな少年のような瞳をしていた。思いがけない無邪気さに当てられて、翼は胸の奥が鈍く痛んだ。
翼は帝都に行ったことがある。両親と兄と四人で、夏休みを利用して長く親戚の家に泊まった。最初は物珍しかったけれど、一週間もいればすっかり飽きてしまって、慣れない家で行儀良くしていなければいけない息苦しさと共に、あまり良い思い出はなかった。確かに夜景は綺麗だったけれど、それを星空だという感性は翼にはなかった。
「お前は帝都行ったことぁんか? 」
「あります」
内心しぶしぶ答えると、ロソウはいっそう瞳を輝かせた。
「どうだった⁈やっぱり綺麗だったろ⁈ 」
「ええ」
ロソウは満足気に息を吐いた。
「おれはな。この島に帝都を作りたいんだ。キラキラのピカピカの星空をここに。良い夢だろ?ヒバマタは馬鹿にすんだけどよ」
ヒバマタという名前には聞き覚えがある。おそらく兵士の一人だ。ロソウの肩には人を殺せる凶器がかかっている。その無邪気な夢で、いったい何人を殺したのか。死んだ軍人の中には、帝都に家族がいる者だっていただろう。
「良い夢だろ? 」
もう一度ロソウが言った。
「はい」
無駄に威勢よく答えてしまった。翼はもう理解していた。ロソウにはこの道しかなかったことを。馬鹿にされるような夢を、一滴の血も流すことなく叶えられたら良い。翼は、そういう夢を見ることにした。
一度話してみると、ロソウは気さくな男だった。ロソウはこの鹿毛馬市の近くの、山岳地帯の出身だという。同い年のヒバマタという兵士とは竹馬の友で、何をするにも二人でいるようだ。ロソウの思い出話は、ヒバマタの思い出でもあるのだろう。ロソウには三人の姉がいるが、男きょうだいがいなかったこともあって、兄弟のような関係らしい。ただし、あくまでロソウからの伝聞で正確なところはわからないが、お互いに自分の方が兄だと思っているようだ。
「おーい」
とその時、霧の中を正面から誰かが近づいてきた。
「おーい、こちらロソウだ」
味方だと思ったロソウはその誰かに近づいてしまった。
その誰かは抜刀し、ロソウに斬りかかった。
「危ない! 」
センジョがロソウを突き飛ばしたおかげで、ロソウは斬られずにすんだ。