表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
52/80

怨霊討伐大作戦⑤

「リンに言われたわけじゃないです。リンはたぶん、連盟軍に勝ってほしいとか、革命軍をぶっ潰せとか、そんなことは思ってないんだと思います」


よく考えて、翼は言葉を探した。


「自分がそうしたいと思って、行動してます。貴方に怒鳴られて、自分なりに考えてみました。この島のこと、住んでいる人のこと。なんにも知らなかった。知ろうともしてなかった。自分の国が何をしてきたのかも。でも氷上帝国は……祖国だから。みんなが理解しあって仲良く、なんて綺麗事ですよね。でもそんな綺麗事に本気になるくらい、自分は、何不自由なく、苦労もせずに育ってしまって。……聖人じゃないし、なれないけど、悪人ぶって自分まで偽るのは嫌だから」


みんなが理解しあって仲良く。センジョの口元に皮肉な笑みが浮かんで消えた。


かつてそういう理想を掲げて、この島を離れた少年がいた。頭が良く、体が丈夫で、心根の素直なその少年は、村の期待を背負って旅立った。老人の忠告もろくに聞かず、心を弾ませて帝国行きの船に乗った時、少年の瞳には明るい未来が見えていた。


 この海を制する軍人になって、生まれた村に錦を飾ろう。貧しいこの村のことを、もっと多くの人に知って欲しい。いつか最高の仲間とともに、この菱の島に立つんだ。純な野望を抱きしめて村を離れた少年を、燦々と輝く太陽が照らした。暖かい気候と凍らない海が少年を待っていた。少年ことセンジョが学校に入るために故郷を離れたのは、十四歳の冬だった。


センジョの笑みを、どう受け取ったものか。迷いながら翼は話し続けた。


「あの、調子が良すぎますよね。笑ってください、身勝手だって。アハハ。全くその通りなんだから。どんなに血塗られたものだと知っても、俺は家族や故郷を嫌いになれないし、なければいいなんて思えなくて。奪ったものだとわかっていても、返すことができないし。家族や故郷を、その、否定したくないんです。あの人達が酷い人だなんて思えない。きっと話せばわかってくれる……なんて」


センジョは黙ってきいていた。翼の拙い言葉が、あまりにもかつて自分が見ていた夢に、抱いていた野望に似ているから。青臭いその夢は、打ち砕かれてしまうと知っている。ありえないと嘲笑うことは簡単だ。


だけど、とセンジョは思う。俺は大人になってしまった。この子だって、いつかは大人になっていく。それまでは、夢を見るがいいさ。大人になるにつれて失ってしまうもの、それは大人には馬鹿げて見えるものだけど、誰かが奪っていいものじゃない。


夢は実現するかはわからない。それでも夢を見るのは、少なくとも悪いことではない。


「言いたいことはわかったよ。勝手にするといい。止めやしないさ。昨日は怒鳴って悪かった」


センジョはそう言って、兵士達の元へ足を向けた。


「凪のことは? 」


「誰にも言いやしないよ。確認したかっただけだ。彼のことは鹿毛馬市の市民として、我が青の民連盟軍が保護しよう。というか、元からそのつもりだよ」


「あの」


「なんだい? 」


「自分のことは翼と呼んでください」


「わかったよ、翼」


翼に背を向けて、センジョは元いた場所へと戻った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ