怨霊討伐大作戦④
墓地を囲んでいる森に差し掛かると、一行は足止めを食らった。木がなぎ倒され、何か大きなものが暴れた痕跡があった。
「ひどいな、これは」
誰かがボソリと呟いた。
先頭のセンジョが、棒で邪魔な物を薙ぎ払いながら前に進んだ。翼はセンジョのすぐ後ろにいた。何故か増水している川を横目に一行は黙々と足を運んだ。たまにがさりと物音がした。内心怯える者も少なくなかったが皆、口にはしなかった。
そんな中、霊能者の一人が足を滑らせた。悲鳴をあげ、転がり落ちていく彼を待っていたのは川だった。増水した濁流には、折れた枝だの倒された柵だのが浮かんでいた。
「おい、大丈夫か! 」
助けようと川に降りかけたセンジョを押し除けて、兵士二人が助け出した。
「大丈夫です」
霊能者の一人、鹿毛馬市で仕立て屋をしているビャクシンは口ではそう言ったが、これから起こるであろうことへの恐怖も相まって、顔色は蒼白であった。センジョは士気のことを考え、いったん休息をとった。
兵士も霊能者も気味悪がって翼には近づかないので、自然と二人は一団から離れて座り込むことになった。シイ神さまは力を温存するためか、姿を見せなかった。
「一つ、ききたいことがあるんだが」
ぽつりとセンジョが言った。
「どうぞ」
下手なことを言っては困るので、翼は努めて口数を減らしていた。
「あの子、革命軍か」
誰のことかは言われなくてもわかった。凪のことだ。
「なんで、そうだと? 」
「状況からして。それから腕の焼印を確認した」
センジョは茜色に染まる西の空を見上げた。
「革命軍の右腕の上の方には、決まって同じ焼印が入っているんだ。正三角形の」
「そんなものが……」
翼はとぼけたわけではない。単純に知らなかったのだ。右腕上部の焼印は、普段なら袖で隠れてしまう。わざわざ確認しようとしなければ、わからないものだった。
「わかったら、どうするんです? 」
恐る恐る翼は尋ねた。センジョの表情は穏やかだった。
「……どうもしないさ。彼は同胞だ。少なくとも今は」
「同胞」
「そう。同じ宗教をもつ仲間だ。我らが民族、ハナンシュナリだ」
「ハナン? 」
「ハナンシュナリ。ハナンは信じる、シュナリは仲間という意味だ。昔、静かに滅びていった我らの言葉だ。俺も少しの単語しか知らない。我らを繋ぐのは信仰のみ。それなのに争ってばかりいる」
センジョはゆっくりと息を吐いた。
「お前はどうして、我らに味方する? 魔女に何か言われたか? 」
翼に睨まれて、センジョは肩をすくめた。
「すまない。リンにそうしろと言われたか? 」
翼はゆっくりと話し出した。