怨霊討伐大作戦③
早朝、いよいよ出発となり、翼は挨拶をしようとリンを探した。朝早くから、人々は行動を開始していた。
リンは持ち込んだ受信機で無線放送をかけながら、洗濯と負傷者の手当てに勤しんでいた。鹿毛馬市には医師はおろか看護師もおらず、負傷者の手当ては元衛生兵だという老人と、連盟軍にいる元医学生が中心となって行われていた。連盟軍には元々医師がいたらしいが、すでに戦死していた。そんな状況のため、リンをはじめ動ける市民は手当てに駆り出されていた。
市庁舎には体液の臭いと腐敗した肉の臭いが充満し、拭いきれない死の臭いとなって人々を包んでいた。気温はさほど高くないとはいえ、夏である。どこからかやってきた蝿が、死につつある人々に止まった。晴れ渡った空はどこまでも青く、雲は山頂に残るいつまでも溶けない雪のように白かった。蝉がジワジワ鳴いていた。忙しく働く人々の額を汗が伝った。
芳しくない状況にもかかわらず、リンは朗らかと言ってよいほど元気だった。
「おはよう僕の太陽
全ての幸福は君の友達」
受信機から流れるこの場には明らかに合っていない歌に合わせて軽やかに歩いているリンを見ていると、周りの風景と鼻が曲がりそうな臭いの方が冗談みたいだ。と、翼は思った。
「行ってきます。報セさんと凪をよろしく」
と声をかけると
「任されました。いってらっしゃい」
と応えてくれた。それが嬉しかった。きっとこの場所に帰ってこよう、翼は決意をした。