怨霊討伐大作戦①
「少し場を外してくれ。翼と話がしたい」
唐突なシイ神さまの言葉で、リンとセンジョは広場へと戻って行った。
「あの、申し訳ございません。勝手なことを……」
翼の謝罪の言葉を肯定も否定もせずに、シイ神さまは宙に浮かんでいたが、やがて口を開いた。
「解っていたよ」
翼は説明の言葉を待ったが、沈黙が続いた。
「あの、報セさんには俺から説明します」
「その必要はないのだ。我が凪ともども眠らせた。明日の昼頃まで起きぬ。センジョが約束を守ったなら、無事に帝国までゆける」
翼には一つ気がかりなことがあった。
「凪は、どうなるのでしょう」
シイ神さまは顔を曇らせた。
「さあな。山藤に任せるしかあるまい。あの子の幸せがなんなのか、我にもわからん」
「そんな……」
自分が勝手に連れ出したせいで、凪はより不幸な目に遭うのではないか。そんな翼の思いを汲み取ったのか、シイ神さまは肩をすくめてこう言った。
「なに。革命軍よりマシさ。考えてもみよ。あの子はお前が連れ出さなかったら、あの粗末な芋粥さえ食えなかったかもしれないのだ。いや粗末は言い過ぎだな……」
シイ神さまは珍しく慎重に、言葉を選んでいるようだ。
「我は山藤と約束をしたのだ。山藤を帝国に送り返す上で、お前に危険が及ぶようだったら、すぐに帰すと。山藤はこう言った。『翼は僕よりよほど強いかもしれませんが、それでもほんの子どもです。無理も無茶もするでしょうし、もし何かあったらあの子を大切に思う人達に申し訳がたたない。助けていただいている立場ではありますが、これだけはお願いです』と」
短い付き合いではあるが、報セならば言いそうなことだ。翼は申し訳ない気持ちになった。報セを理由にして、勝手なことばかりしていることが。あまり期待を裏切りたくない。翼は報セの前では『良い子』ではいたかった。いや。誰に対しても、嫌われるのは怖かった。『良い子』は『都合が良い子』だけど、その立場まで失いたくない。シイ神さまはそんな翼の思いを知ってか知らずか、話を続けた。
「けれど青キ大虎の怨霊が、この町を襲おうとしていることに気がついた時、我はこう思った。これも何かの定めだと」
「定め? 」
思わず聞き返した翼に向かって、シイ神さまは重々しく頷いた。
「我が、そしてお前がここにいることが。お前の因縁を片付けるために、我はここに呼び寄せられたのかもしれない」
翼の因縁。
「俺のせい? 」
心当たりがない。シイ神さまは首を横に振った。
「いいや。言葉ではうまく表現ができない」
シイ神さまは翼の瞳を覗きこんで言った。
「お前は今この時、この場所に選ばれたのであろうよ。我も付き合おう。それが我の定め。山藤は強い。牢から出た時点で、我の助けなど要らなかったやもしれん」
シイ神さまはその瞳に寂しさの色を浮かべた。
「我はいつも、小さな手助けしかできぬ」
「……」
翼が何も言えずにいると
「それではな」
とぞんざいな一言を残して、広場へと消えてしまった。
とりあえずシイ神さまが力を貸してくれることはわかった。出来る限りのことをしよう、と翼は決意を新たにした。