ここにいるのは⑧
菱の島が氷上帝国の領土となったのは新氷上暦元年、初代将軍光ノ大地が現在の氷上帝国の礎である本島、南東諸島などの島々を国家として統一した時である。
大将軍を名乗ったその男は南東諸島出身の武人で、それまで本島を支配していた神官たちとその長である皇帝から権力を譲り受ける形で、帝国を統一した。
神官たちは権力を譲ったものの祭事を受け持つ宗教的指導者になり、皇帝は形式的な支配者として、領地はそのままに残された。
この時から本島と南東諸島の民は混血が進み、現在の氷上帝国人の多数を占めるようになる。翼たち緋の民はこの混血である。武人たちは南東諸島の血を濃く引き継いでおり、翼の癖っ毛などは南東諸島の住民に多い特徴である。
大将軍の側近である青キ大虎は、唯一神を信ずる青の民を統治するべく遣わされたのであった。こうして氷上帝国による菱の島統治が始まった。
青キ大虎による統治時代は、青の民が尊重され、何より菱の島全体が発展していた。帝国人が来るまでの青の民は、ヤギを飼って山に暮らす遊牧民や漁民、狩猟民の集まりであり、寒さが厳しく豊かとは言えない土地のせいで、特に北部では生活が苦しかったが、心石が発見され、帝国人との交易が始まると生活は豊かになった。そんな訳で青キ大虎による統治は、青の民にも支持されていたのだ。しかし青キ大虎は実の息子との権力争いに破れ、最期は自害に追い込まれた。
時代が下るに連れて帝国人は横暴になり、青の民は不満を募らせた。心石を使った技術が発展してからは島のあちこちで反乱が起きるようになっており、未だに解決していない。