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荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
44/80

ここにいうのは⑥

「リン……」


「何? 」


「んー、やっぱ何でもない」


「何よ、気になるじゃない」


「気になるだろうけど、教えなーい」


今この瞬間を大切にしよう。今が思い出になっても、後悔なんてしないように。言いたいことや、きいておきたいことはちゃんとしよう。でもまあ、今言わなくてもいいかなって思うことは、また今度で。


「そういえばリン、恋人はいる? 」


「あら何、急に。いないわよ」


「そうなんだ。ならいいんだ」


「なんなのよさっきから。何か言いたいことあるんでしょ。白状なさいな」


翼は、リンが恋人のもとに行くと思い込んで家の中を尾けまわしていたことを白状した。リンは腹を抱えて笑った。


「……そんなに笑わなくてもいいじゃん」


「ごめーん」


そう言いながらまだ笑っている。


「恋人、いないんだ」


「そうよ、仕事が恋人なのよ。悪い? 」


「別に」


翼はまた星空を見上げた。


「流れ星とか見えないかな」


「さあ、どうかしら」


「見えたら、願い事するんだよ」


「何をお願いするの? 」


「そうだな……。まずは無事に帰れますように、かな」


「それがいいわね」


 その時、空を赤い光が走った。大地から空へ、貫ぬくような光。爆発や火事ではない。その証拠に物音はせず、鳥や獣が騒ぐ気配もない。


「流れ星? 」


翼は訝しがったが、さほど重大なこととは思わなかった。


「え?私には見えなかったわ」


「あれ? 」


かなりの明るさだったので、リンにも見えたと思っていた翼は、もう一度光が見えた方角を向いた。確かに薄ぼんやりと赤い光が見える。リンには見えないということは、怨霊が関係しているのだろうか。


 そんなものに構いたくはなかったが、そうもいかなくなった。


「墓が暴かれた。怨霊が押し寄せてくるぞ」


声に驚いて振り返ると、シイ神さまが宙に浮かんでいた。


「いつの間に……」


「いつでもいいのだ。これは由々しき事態ぞ」


シイ神さまの深刻な顔と、目に見える光景が結びつかず、翼は首を傾げた。


「俺にもわかるように説明してくれませんか?  」


翼が尋ねると、シイ神さまは露骨に面倒くさそうな表情をしつつも、説明を始めた。


「怨霊についてはどのくらい教えたかな? 」


「死人でしょ? 」


シイ神さまはため息を吐いた。


「待って、待って、それだけじゃなくて!この世に未練があって、あ、あと!怨霊は死者の魂が変化したもので、霊はそもそもそういう存在で、自分はシイ神さまが魂と人格に霊としての肉体のようなもの、霊体を与えることで霊として存在させていただいたもの! 」


「まあ、そうなのだ。よく覚えていたな」


シイ神さまは腕を組んで頷いた。


「怨霊は死者の魂、というより、生きていた頃の怨念が凝り固まったものなのだ。それから、お前の霊体は我がお前の肉体を模して作ったものだが、普通の霊は霊能者ではない人間に見えるようにする方が大変だ。我も普段は人目に触れないようにしている。こうして普通の人間にも見えるようにしているのは、山藤と会話ができないのは困るからだ」


「あら、じゃあ今は私のために姿を見せてくれてるの? 」

リンが口を挟む。


「いたのか、失礼女」


「まあ、ひどい」


シイ神さまは憎まれ口を叩きながらも、視線を宙に彷徨わせた。


「実はな……。翼の霊体を作った時に、肉体に寄せすぎてな。霊能者のようには『視えない』のだ。翼は」


「あら?翼は墓地の結界も怨霊も視えてたわよ?さっきも流れ星みたいなのが視えるって言ってたじゃない」


翼もリンと同じことを考えていたので、深く肯いた。今の翼は肉体の中にいた時の翼とは明らかに違うものが視えている。


「そりゃあ霊体である以上、身に危険を及ぼすようなものは視えるだろうが……我のような善良な神が視えるかは別でな……」


薄々勘づいてはいたが、シイ神さまは場所を移動したり翼を生き霊に保ったりするので精一杯なのかもしれない、と翼は改めて気がついた。神である以上、人間相手に能力の限界を話すことはしないが、シイ神さまの力も無尽蔵ではないのだ。


「まあ我が視える視えないの話はどうでも良いのだ!それより問題はアレだ! 」


シイ神さまが指差すのは、例の光が視えた場所である。翼はシイ神さまの言わんとするところをまとめた。


「話しを整理すると、今の自分はリンみたいな普通の人よりは怨霊とかが視えるけど、霊能者ほどは視えない状態。つまり自分にも視えたアレはかなりの怨霊ということですね」


「そのようだ」


新たに増えた声に振り返ると、そこにはセンジョがいた。シイ神さまは慌てて姿を消した。

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