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荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
39/80

ここにいるのは①

 膝を抱えて座っていると


「翼」


声をかけられて、翼は振り返った。


「一人で悩むと、ろくなことがないわよ」


リンはそう言って微笑んだ。


「リンは落ちたら死んじまうだろ。危ないから帰れよ」


闇に紛れているとはいえ高所に立つのは、落下だけではなく射殺される危険もある。翼の主張は理にかなったものだったが、


「嫌よ」


と素気無く断られた。


「私がこうしたいの」


そう言われてしまうと、追い払いようがない。翼は一人になるのを諦めた。リンは翼の隣に腰掛けた。口を開いたのは、翼が先だった。


「……さっきはありがとう」


「必ずしも貴方の為じゃないわ。私、ああいう雰囲気大嫌いなの。気にしちゃ駄目よ。アレはただの最低な八つ当たり。貴方の見た目がいかついおっさんだったら、誰もあんなこと言わないもの。怒って当然だけど、怒りに支配されないようにね。怒るのって疲れるから」

風がリンの長い髪を軽くなびかせた。夜風に吹かれているその少し縮れた髪を、翼は美しいと思った。


「正直あまり怒ってはいないんだ。たくさんの人に怒鳴られたから驚いたけど、センジョさんには謝られたし。カジカのことほったらかして、リンに任せっぱなしなのは良くないと思う。だけど、そんなこと言ってられないくらい、あの人が追い詰められてるのは充分すぎるほどわかったから」


リンは額に手を当てた。


「理解があって嬉しいわ。センジョは今はあんなだけど、頼れる人がみんないなくなって、以前とは変わってしまったのよ。カジカの面倒見てるのは、私も納得してることだから気にしなくていいわ。翼に言われたこと気にしてるみたいでね、夜はセンジョが面倒見るって」


「そう」


翼はぼんやりと遠くを見ていた。もうすっかり夜だった。


「リンは帝国が憎くはないの? 」


「好きではないかな。色々あったから。でも国なんて馬鹿でかいもの、憎んだってしょうがないでしょ。私に見えている帝国と、貴方に見えている帝国はまったく違うだろうし、どちらが正しいってもんでもないわ。帝国のせいで青の民が苦しんでるのは事実かもしれないよ。でも青の民の現状を、帝国だけのせいにもできない。少なくとも私を家から追い出したのは帝国じゃない。現在というものは、何か一つの原因から出来上がるわけじゃなくて、たくさんの過去が組み合わさって出来るのよ」


センジョとは対照的に、至って平静にリンは帝国について語った。


「そうかな」


翼は納得がいかなかった。


「そうよ」


翼はどちらかといえば楽観主義者だったが、今は何もかも悪いようにしか考えられなかった。リンの言葉も裏があるのではないかと疑ってしまう。


「でも、リン自身も苦しい思いをしたでしょう? だから俺のことだって……」


好きではない、よね。そんな言葉が浮かんだけれど、口に出すのが辛かった。リンが少しでも肯定する素振りを見せたら、もうここにはいられない。

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