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荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
31/80

鹿毛馬市の長い一日⑤

「全く寿命が縮んだのだ」


センジョの姿が見えなくなってから、シイ神さまは姿を表した。


「無駄に煽ったのはわざとか?神に心配をかけるのもいい加減にするのだ」


「いやー」


報セはまた頭を掻いた。


「いけすかない野郎だったんで、つい。こっちは重い荷車持って全力疾走した後だから虫の居所が悪くてね」


「……助かりました」


ボソリと翼が言った。翼は未だに緊張が解けずにいた。


「本当にすごいですね。手伝えなくてすみません」


病み上がりの半病人であるにも関わらず、状況を的確に判断し、その上凪も無事に連れ出すのは至難の業であったと推察される。にも関わらず報セは、困難などどこ吹く風、飄々とした態度を崩さない。シイ神さまが助けたいと願うのも、さもありなんと感じる。状況に振り回され、その場をどうにかするのに精一杯だった我が身を振り返り、翼は尊敬の念を深めた。


「いやいや君こそ無事で良かったよ。僕のことは心配に及ばないよ、僕は不死身なのさ。……報セ山()だけに」


だから少しばかり寒い洒落を言おうと、してやったり、みたいな表情をしようと、それは欠点というより、人間味というべきだろう……。


「藤だけに! 」


いや、しつこいぞおっさん。行動は格好いいのに、どこか締まらないというか、決まらないというか、報セはそういう人物だった。


「……無事でよかったです」


翼は、駄洒落を無視することにした。


 実際のところ報セは、翼が思っているほど格好良く物事を解決したことはない。先程のやり取りにしても、霊能力者の出現に気が動転していた翼と比べれば冷静であっただけのことだ。それでも思春期のどうしようもなく大人になれない人間には、その姿が妙に眩しく見えるのだ。


「申し訳ありません。自分は……あまり役に立てなくて」


俺がいなくてもきっと、この人は大丈夫。生き霊になって、なんだか勘違いしていたみたいだ。翼は気分が落ち込んでしまった。


「力もないくせに手伝うとか、なんとか……。粋がっててすみません」


報セとシイ神さまは目を見合わせた。


「生き霊が粋がるとはこれ如何に」


「山藤いい加減にしろ」


「いや失敬。翼、あのね……あれ? 」


深刻な雰囲気を和らげようと、報セは努力していたのだが、当の本人がいない。


「お前がつまらない洒落を言ってる間に、どっか行ったのだ」


「止めてくださいよ!なんか落ち込んでたじゃないですか!迷子になったらどうするんですか! 」


広場は人でごった返しており、はぐれるのは心配だった。


「お前のしたり顔の励ましとか、死ぬほど聞きたくないと思うぞ。ああいう面倒くさい態度の時は放っておくのが一番なのだ。構って欲しいだけなのだ。かまってちゃんめ」


「かまってちゃんって、そりゃないでしょう。翼は真面目ないい子ですよ。無事だったからいいですけど、さっきまで命の危険があったんだから、感傷的になっても仕方ないです」


そう反論しつつ、確かに無神経だったかもしれない、と報セは反省した。したり顔で励ますつもりはなかったが、そう捉えられても仕方がない。シイ神さまは人間のことをよく見ている。


「真面目とかまってちゃんは両立するぞ。真面目な無意識かまってちゃんほど厄介なもんはないのだ、全く。思わせぶりなこと言いおって。お前の劣等感なんぞに付き合っておれるか! 」


「十三の子どもに、随分厳しくありませんか? 」


今に始まったことではないが、シイ神さまはやけに翼に厳しい、と報セは感じている。


「ふん!このくらい普通なのだ。それより早く荷物を置くところを探さねば。翼と一緒でないとなると、リンがどこにいるのかわからぬ」


「そうですね、心配です」


凪も含めその場にいる全員が、リンの安否を気にしていた。翼が立ち去った理由もそこにある。


「あ、命は無事だとは思うぞ。気配を感じる」


「本当ですか⁈それは良かった」


報セ一行は鹿毛馬市の人々に混じって、リンと荷物を置く場所を探した。


 数分後、報セは火事場の馬鹿力が途切れ、全身の激痛に七転八倒することになる。責任を感じたのか凪はその場を離れず、水をもらったり食べ物をもらったり、基本的な物事をこなした。ぶうぶうと不満を零していたシイ神さまも、姿を見られないよう気をつけながら手伝いはしたので、報セはなんとか休むことができた。

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