鹿毛馬市の長い一日②
翼の読み通り、報セ達は止め足を使って、草むらを急いでいた。
「けっこう重いな」
と報セがぼやくと、シイ神さまが鼻で笑った。
「風呂桶だの箪笥だの持ち出したのはお前ではないか。ただでさえ写真機があるのに。やれやれ、足跡を消すのも一苦労なのだ」
シイ神さまが草に霊力を注ぐことで、草が倒れないようにしているのだ。
「感謝します」
その通りなので言い返せない報セであった。報セなりに考えあっての行動なのだが、それにしても荷物が多すぎたと反省はしている。ただでさえ草むらを歩くのは骨が折れる。夏場なので虫も多い。
実は報セは山道には慣れているのだが、凪はそうではないようだ。相変わらず手を擦りながら、俯きがちについて来るだけだが、それでも歩きづらそうだ。凪も報セも履き物を持っていなかったので、リンとその祖母のものを借りている。報セの場合は草履から足がはみ出すだけで済んでいるが、凪は踵がカポカポと浮いている。足取りが重いのは山道のせいだけではない。
しかしそれでも急がなければならない。報セは襲撃者に見つかることを恐れていた。もう少しすれば舗装された道に出る。それまでの辛抱だ。
その舗装された道に出た途端に問題が起きた。襲撃者に見つかったのである。道は一本道、やり過ごす手段はなかった。まったくもう、なんでこう次から次へと……。ぼやくのは心の中だけにして、報セは敵をシイ神さまに任せて一目散に逃げることにした。シイ神さまに目配せすると、わかっているとばかりにため息を吐かれた。この間、一秒にも満たない。
凪にも合図しようと振り返って、それは無理だと悟った。瞳が揺れ、足は震えている。人間は恐怖で泡を吹くと知っていたが、泡を吹いている人間を見たのは初めてだ。襲撃者、つまり革命軍に連れ戻されることを、凪は恐れているのだ。
「凪、掴まってろ! 」
報セは凪を肩に担いで、全速力で走った。
いくら骨と皮ばかりに痩せていても、肩に乗せるには重い。それでも火事場の馬鹿力で、なんとか走ることはできた。
僕も君も、ここで死ぬわけにはいかないからね。
そう声をかけたかったが、流石にそんな余裕はなかった。




