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荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
23/80

リンドウの罪と罰⑤

 しかしながら、リンの明日の用事は言葉の通り仕事だった。それがわかったのは、リンが何やら分厚い本を引っ張り出して読み始めた時である。


「医学大全科? 」


本の題名を読むとそう書いてある。


「そうよ。仕事に必要だから少しでも知識を入れておこうと思って。文字読むの苦手だから、ちまちま辞書を引きながらだけどね」


「仕事って明日の? 」


「ええ、そうよ。産婆をしてるの」


あっさりと職業を教えてくれたことに、翼は驚いた。明日の用事は本当に仕事らしい。自分の推測がまったく見当違いの妄想だったことに気がつき、翼は頬が熱くなった。


「どうしたの?顔が赤いけど」


「あ、赤くなんてなってないから! 」


「いや赤いから。あ、産婆の意味わかってる?変な意味じゃないからね」


変な意味ってどういう意味だよ。


「馬鹿にすんなよ!産婆の意味ぐらいわかってる。要は助産師だろ? 」


リンは意味あり気な表情で


「まあ、そんなところよ」


と答えた。


「あれ?違うの」


「違わないけど、私が助産師を名乗ってはダメよ。国家資格ないもの」


「……それ違法じゃないの? 」


リンはとぼけた顔で口笛を吹いた。


「あら。助産師らしき何かではあるけど、助産師ではない何者かが、人を助けてそのお礼に少しばかりお金をもらっているだけよ。そりゃあ私だって資格は欲しいし、キチンとした知識がなければ危険だってこと、よーくよーく身に染みているわよ。でもこの近くに医者はいないし、勉強しに行くお金も時間もないのよ。帝国側に渡れなくなって久しいからね」


そういうことかと理解はできるものの、翼はどうしても引っかかることがあった。


「こんな状況で子ども生まれるのかな」


純粋な疑問のつもりだったが、背筋が凍りつく思いがした。何故、と問われてもわからない。強いてあげるとすれば勘が働いたのだ。言ってはならないことを言ってしまった、と。


「ごめんなさい」


リンは何も聞かなかったかのように、読書にふけっていた。しばしば読めない字を翼に尋ね、不自然なほど没頭していた。


 もうすぐ夕食の時間だという頃合いで、辺りを散歩していた報セ達が帰ってくる物音がした。


 低い声でリンが呟いた。


「翼、意味は分からなくていいから覚えていなさい。兵士のいるところには女がいるし、女は子どもを産むわ。戦上手で有名な武将は、女と子どもから殺したそうよ。女は子どもを産み、子どもはいつか仇討ちをするから」


子どもを産むことは、追い詰められた人々の仇討ちだと、そう言いたいのだろうか。翼にはリンが何を考えているのかわからなかった。リンはそれ以上何も語らなかった。


 散歩に出かけていた彼らは、辺りの偵察をしていたらしい。


「川の向こうには、帝国軍の天幕があちこちに張られてたよ。けっこう厳重な態勢だね」


と報セが話していた。


「向こう側には渡れそうですか? 」


「うーん。簡単ではなさそうだな」


報セは難しい顔をしていた。


「良好な雰囲気とは言い難いのだ。やれやれ」


シイ神さまもため息を吐いている。凪は相変わらず黙っている。一同、不安を抱きつつ明日のために早く寝ることになった。

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