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荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
21/80

リンドウの罪と罰③

 リンが帰って朝食を作り、食べ終わると、報セが話しかけてきた。


「お世話になってしまったね。本当にありがとう」


「いえいえ。困った時はお互い様よ」


報セの傷は順調に良くなっていた。


「帝国側に渡りたいんだが、川の渡り方を教えてくれないか? 」


「ああ、それがね……。青の民連盟軍のことは知ってる?」


「知っているよ」


「その人達が見張ってるから、簡単には渡れないわ。森の中を突っ切るのは危険だと思う」


「停戦中ときいたんだがなあ。簡単にはいかないか」


「明日、私が鹿毛馬市に入る時に一緒にくればいいわ。ちょうど仕事があるのよ」


「ああ、それはありがたい。何から何までありがとう」


こうして、明日の予定が決まった。


 翼は、刀を振り回す他はリンについて回った。凪とシイ神さまは報セの側にいるので、自然と二人で行動する流れになる。邪魔と言えないこともなかったが、リンは好きなようにさせておいた。


 並んで立っているとリンはあることに気づいた。


「貴方、えーっと……なんとかって中学の三年生って言ってたわね。ということは今十四歳? 」


一応小学校は通っていたことがあるものの、リンにとって学校は馴染みのないものだった。そもそも菱の島には学校が少なく、内戦状態になって長いので、学校に行ける子どもは限られているのだ。


「十三歳だよ。一月生まれだからあと半年もしないで十四だけど」


氷上の学校は一月始まりである。翼は学年の中では誕生日の早い方なのだ。


「あらそう」


「四年生になると受験か就職か、どちらにしても殺伐としてるから、今のうちが花かもね」


言い訳するように、翼は付け足した。


「はあ、大変なのね。まあほどほどに頑張って」


受験も就職も遠い話のリンには、翼の申し訳なさそうな顔が不思議だった。リンと翼の間には明らかに貧富の差が存在する。本当に住んでいる世界が違うなと実感はするけれど、あまりにも遠い話で、羨ましいという感情は湧かない。自分たちの生活とは無縁な話だと思っているからかもしれない。翼はそもそも生き霊だ。


「それで、俺の年齢がどうかした? 」


「年のわりに背が高いなって」


とはいえ、リンは帝国の十三歳の少年がどのくらいの背の高さなのか知らない。翼のように健康な子どもは菱の島にはほとんどいない。


「そりゃどうも。今更だなぁ。父上は背が高いから、もっと伸びるよ。あと半年もしないうちに、リンの背も越すよ」


翼は爪先立ちして見せた。そうするとリンより背が高くなる。得意気な顔が癪に障ったので、つい


「それはどうかしら?早めに背が伸びて、身長止まる人って多いのよね」


なんて意地悪を言ってしまった。


「いや、止まらないよ!……たぶん」


翼は急に、自信なさげに目を泳がせた。


「そうね、そうね。止まんないわよ、……たぶん」


本気で心配になる翼が可笑しくて、半笑いになる。からかうつもりはなかったのに。


「自分は背高いからって。男の身長をバカにしちゃいけないんだぞ」


「あらバカにはしてないわ。今更言ってもしょうがないけど、私は身長、気にしてるからね」


「なんで? 」


翼は本気で驚いているようだ。朝、リンが混血だと知ったばかりなのに、混血ゆえの悩みだとは考えが及ばないあたりが単純というか、子どもらしい思慮の浅さの表れだ。


「いや、なんでって……。下手すると男より背が高いのは、女としては気になるわよ。みんなと違うから目立つしね」


今更言ってもしょうがないと理解しているが、リンは自分の容姿には不満だらけだ。身長や肌の色だけではない。絶世の美女になりたいわけじゃないけど、この鷲鼻、どうにかならなかったのかしら。私の顔って、全体的にしかめっ面してるのよね、普通にしてても。


 翼は、リンの言葉に少なからず慌てたようだ。みんなと違うから、の一言でリンが混血だと思い出したようだ。


「いや、あの、別に良くないか?目立っても。格好いいだろ、強そうで」


「強そう、ねえ」


そう言われると悪くないかも?強くはないけど、強そうなのは悪いことじゃない。


「まあ、単純に背が高いと強いってわけじゃないけどね。手足が長いとどうしても隙が多くなるから。小さい方が重心ぶれにくいって利点もある」


「刀術の話?好きなのね」


「うん! 」


楽しそうに豆知識を披露する翼を見ていると、聞いたところでなんの得もないけど、リンも楽しくなる。微笑ましいとはこういうことなのか、と奇妙な気持ちだ。歳ばかりとって自身の成長を感じることなど少なくなっていたが、確実に大人という存在にはなっている。剥き出しの感情に振り回されている子どもを見れば、お節介だと知りつつも世話を焼きたくなってしまう。


 ふと思った。おばあちゃんが育ててくれたのは、こういう気持ちの積み重ねだったのかしら。もし、そうなら嬉しい。リンは自分の口角が上がっていることに気がついた。

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