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荒波にもがけ、少年  作者: 刻露清秀
黒キ翼の冒険譚〜出会いと別れと一夏の恋〜
10/80

報セ山藤という男③

 機蛇に戻って、鹿毛馬市へと向かううちに夕方になって、夜になった。


「機蛇の様子は我が見ているから、三人は横になるのだ」


とシイ神さまが言った。


「俺もですか? 」


と翼が尋ねると、


「精神も疲労する。休んでおけ」


ということだった。


 凪の様子がおかしかった。 話そうとしないのは前からだが、動こうともしないのである。また手を擦っている。


「どっか痛い? 」


と尋ねても答えず、しつこく尋ねると


「頭」


とのことだった。脱水症状を疑った翼は水を勧めたが、何が嫌なのかあまり飲まなかった。


なお悪いことに報セの体調も悪化する一方だった。傷口から雑菌でも入ったのだろうか。よく考えてみれば、鏃を受けずともあの土牢に監禁されていたのだから、元気いっぱい、というわけにもいかないのも道理である。


「ごめんね、大したことないんだけど…… 」


報セは申し訳なさそうだった。


「朝から頑張りすぎたんじゃないですか?ゆっくり寝ててください」


さて、翼は困った。三人中二人が伏せっていると、暇でしょうがないのである。機蛇が動いてくれているだけでも御の字なのだが、何もすることがないと退屈で退屈で。ふて寝でもするかなぁ、と翼は横になった。


そんなことをしているうちに、眠ってしまったらしい。翼は、自分がコウモリのように逆さまになっていることに気がついた。鉄棒の逆上がりの要領で身体を振ると、頭を上にすることができた。機蛇は止まっていた。


 凪は酷くうなされているようだ。翼はふと思いついて、軽く凪の肩を撫でた。険しかった表情が緩み、寝息をたて始めた。こういう使い方ができるのは助かる。


嫌な予感がした翼は、機蛇の頭部を見に行った。その予感は当たってしまった。脳みその輝きが消え、ひびが入っている。シイ神さまがいくら触っても、元には戻らなかった。もともと止まっていたものをシイ神さまの力で動かしていたから、どこかに負荷をかけていたのかもしれない。


シイ神さまは目に見えて落ち込んでいた。神らしからぬその様子を見ると、翼は気の毒になってきた。


「シイ神さま? 」


「ああ……翼か」


「止まっちゃいましたね」


「……ああ」


「鹿毛馬市まで、どのくらいなんでしょうね」


「……わからない」


「神さまがそんなに落ち込まないでくださいよ」


「すまない」


翼は軽く息を吐いた。


「自分一人で、人を探してきます」


そう宣言した。


「止めないでください。もう決めたことなので。弱っている二人を連れ回すのは不安です。正直な話、朝は報セさんに頼りすぎました。今度は自分が頑張ります。すぐに戻るので待っていてください。二人をよろしくお願いします」


シイ神さまは止めなかった。


「頼む。怨霊と霊能者に気をつけるのだぞ。しばらく探して民家がなかったら、戻ってこい」


「承知しました。大丈夫ですよ、自分は生き霊なので」


翼は胸を張って意気揚々と出発した。


 翼が発ってしばらく経った。機蛇の頭部にシイ神さまを訪ねてくる者があった。シイ神さまは機蛇の脳味噌に座り、訪問者に背を向けていた。


「先程から機蛇が止まっているようですが、何かありましたか? 」


訪問者は報セであった。


「壊れてしまったようなのだ。翼が人を探しにいってくれている」


「一人で?心配だなぁ」


報セはポリポリと頭をかいた。


「あの子はどうしている? 」


「凪のことですか?よく寝てますよ」


「そうか」


シイ神さまは宙に浮き上がり、報セと目を合わせた。


「山藤、話があるのだ」


報セ山藤は微笑んだ。


「ちょうどいい。僕もです」

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