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また明日

作者: 慧瑠

プチホラー…になれてればいいなぁ。

 これは私の友人のお話です。

 そうですね……今は、彼の事はA君としましょう。


 A君は、所謂見える人でした。A君が言うには見えてしまう人。

 子供の頃は誰しもが目にしているソレを、彼は中学生の頃まで見えていたそうです。


 このお話は、その頃のお話なのですがね?


 やはり中学生ともなれば、少しばかりヤンチャに拍車も掛かり始める頃でもあります。そんな折、A君は友人の……B君としましょう。B君と肝試しに行くことになったそうです。

 ヤンチャに拍車が掛かると言っても、A君もB君も至って普通の生徒で夜遊びなんかをしたことはありませんでした。


 季節は少し秋の香りがし始めた頃。良く遊んでいた二人は、夏を締めくくる思い出作りにと肝試しを選んだそうです。

 場所は、隣町にある山林の少し奥。そこには廃墟があるなんて話があり、肝試しスポットにもなっていました。当時の私も知っていましたよ。

 クラスでもちょっとした噂でしたから。


 なんでもそこには、女の幽霊が出る!なんて話でしてね。今思えば、ありきたりなものですが…当時を考えれば、それだけでも話としては十分だったんです。


 A君もB君も、夜に遊ぶ新鮮さとちょっぴり怖い気持ちでワクワクが止まらなかったそうです。


 そして決行の日。A君とB君は、お互いの両親に互いの家に止まると嘘をついて隣町で合流をする約束をして、噂の山林へと向かいました。

 いざ向かってみると、時期も時期なせいか肝試しをしに来ている人などはおらず。肌を撫でる夜風と、揺れ擦れ鳴る木々の音がなんとも不気味な空気を演出していました。


 ワクワクよりも少しずつ大きくなる恐怖心。

 まぁ、B君は陽気な性格だったので、恐怖心よりはワクワクの方が勝っていたのでは?とA君は言っていましが……。


 失礼しました。少し話が逸れてしまいましたね。


 続きですが、当然A君もB君もそこで帰るという選択はしていません。友人と二人で初の夜遊び……A君も、なんだかんだでワクワクの方が勝って山林へ足を踏み入れることに。


 古くに整備されたきりで放置されている山道は、無造作に生えたりする雑草や転がる石で、断じて足場が良いモノではなかったそうです。

 そんな道を登ること一時間程。薄暗さと不気味さがある道でしたが、時間が経てば不思議と慣れてきてしまうもの。二人を驚かす様な出来事も無く進んだ道は、少し開けたところに繋がっていたそうです。


 そこで二人は、驚きに「おぉ…」と声を漏らしました。

 びっくりして出た言葉ではありませんよ?その開けたところには、到るところに罅はあるものの、しっかりと立っている石造りの建物があったんです。


 二人は驚きよりも、本当にあったんだぁという謎の感動から声を漏らしたんです。


 ひとしきり謎の感動に浸った二人は、改めてその建物を観察しました。


 一軒家が二つ繋がり並んで……簡単に言えば二世帯住宅だったそうです。壁はボロボロで、人が住んでいる様な感じは無く。窓や玄関も壊されていました。


 普通に考えれば酷い惨状ですが、肝試しに来たA君とB君には都合が良い状況。

 二人は、少しの躊躇いがありつつも勝る好奇心に従い中へと入りました。


 静寂の中。聞こえるのは自分達の足音と興奮で少し早くなった呼吸音。一番うるさいのはドクン、ドクン、と鳴る心音。


 ……だったのですが、いざ中へ入ってみると噂の肝試しスポット。様々な人達が踏み入れたのでしょうねぇ…転がる真新しいゴミや、様々な落書き。いたずらに書かれた赤黒い【タスケテ】の文字なんかは、あまりにも狙いすぎで二人は笑ってしまったそうです。


 拍子抜けしたA君とB君は、その建物を探索したらしいですが、どこもかしこも先駆者が居たようで目につくモノは無かったと。

 緊張感など既に無くなった二人は、先人達に学び、自分達が来た証に…と何か残そうとしました。できるだけイラズラをされていない場所を探して歩くと、一階の子供部屋が良さそうだ。という事になり、次に何を残すかに。


 まぁ、いくら考えても大したモノは浮かばす、B君は足元に落ちていた軽めの石の様なモノを拾い、自分達も落書きを残そうという事になったそうです。……と、そこでA君があることに気付きました。


 壁と床の繋ぎ目に、小さな妙な溝。


 B君にそれを教えると、「きっと隠し通路かも!」と笑みを浮かべて近くあった木材を引っ掛けようとしました。しかし小さな溝だったので、バット程の木材では引っ掛ける事もできずに、四苦八苦しながら合うものを探して、適当に転がっていた錆びたナイフを溝に引っ掛けました。


 すると、ガコッと音がして蓋が取れる様に外れたんです。


 拍子抜けしていた二人は改めて興奮が湧き上がり、ゆっくりと外れた板をどかしました…が、これまた拍子抜け。

 なんでも、その下は狭い物置だったようで、中にあったのもB君が手に持つ白いチョークもどきと同じモノが少しだけ入っているだけでした。


 興奮も二度目の落ち着きを迎えると、B君は適当に壁に落書きを残し、A君に帰ろうかと提案をしてきたそうです。対するA君は、少しボーッと惚けた様子でしたが、B君にそう言われて自分も壁に落書きしました。


 恐怖心を煽るためB君は先程見たモノと同じ様に【タスケテ】と書き残し、A君は【また明日…】と書いたそうです。


 やりたいことを終え、どかした床板もそのままに二人は帰路に着きました。


 帰路での二人の話題は、もちろんあの建物の事で盛り上がり、見える人だと知っていたB君はA君に聞いたそうです。


「あそこに何か居たか?」


 それにA君は、軽く頷き


「とても綺麗な女の子を見た」


 と答えました。

 それを聞いたB君は、綺麗という言葉に反応を見せて詳しく!俺も見たかった!と盛り上がり、A君も満更ではない表情でB君に答え。

 気がつけば、空は白み始めていました。


 ……。


 え?続きですか?

 このお話は、ここで終わりです。この後は、何時も通り「また明日!」と別れておしまいですよ。


 何か事件ですか?

 ありませんよ。この後も、A君とB君は長い付き合いで、今も毎日の様に遊んでいるらしいです。


 えぇ。二人とも成人を越えていますから昔のようにでは無いですが、仕事終わりの少しの時間や、休みの日なんかは付き合いがあるそうですよ。腐れ縁というやつなのでしょう……。


「マスター、ここにお代置いとくね」


 はい。ありがとうございます。またお越しください。


「あぁ、また明日」



 はい?あのお客様ですか?

 えぇ、うちの常連さんですよ。


 少し変わったお客様で、ああして三つのケーキと三人分の飲み物を注文して、一人分しか食さないのですがね。まぁ、ここには少し変わったお客様が多いので、気にする事ではありません。

 お代もしっかり三人分支払って頂けていますから。


 気になるのでしたら、先程のお客様が残したケーキですが…食べますか?

 ふふっ、冗談ですよ。そんなに嫌な顔をしないでください。お客様に出したモノを横流ししたりはしません。


 え?これですか?

 そうですね、流石に捨てるのは勿体無いので……お供えでもしましょうか。嘘です、これも冗談ですよ。


 これは、時間が空いた時の私のオヤツに早変わりでしょう。


 おや、お帰りになりますか?えぇ、いつでもいらしてください。お待ちしております。


 はい。はい。お話ですか?分かりました、何か次はもう少し面白そうなのをご用意しておきます。


 では……えぇ。ふふっ、そうですね、また明日。

ホラー初挑戦でした。

いつも書いているのとは、別の難しさを感じました。

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