0 始まり
恋愛ものを書きたくなりました。
世の中、腐敗している。
今の世の中に溢れているのは人の想い。
腐った感情が溢れている。
金欲。
強欲。
色欲。
様々な欲望。
妬み嫉み。
憤怒。
それらが生み出す人を憎む気持ち、怒り。
人の世が乱れているので、私たち魔族には居心地が良い。この感情も私たちの生きる糧の1つである。
だが、私ですら吐き気を催すような腐りきった人間もいて、そいつらが死にゆく様が1番心地よい。
そこは個人の趣向だろう。
純粋無垢な人間を汚すことを楽しみにしている魔族もいるが、私の趣向ではない。
私は魔族、有翼種の1人。
悪食の魔女、白髪の鬼女、不吉の象徴。
私を指す言葉はたくさんあるがどれも気に入らない。
人がつけた呼び名などなんの意味を成すというのか。
まぁ、名を明かす必要はないため好きに呼ばせている。
ある日人間同士の争いが起きた。
別段珍しいことではない。
ただ気まぐれにその地を訪れた。
硝煙と血の臭い。
土からは怨嗟の叫びが聞こえる。
うむ、なかなか良い悲劇の味がする。
その地に漂う重い気を取り込みながら辺りを散策する。
人の形をする者はほとんど残っていない。あるのは銅像かあるいは私のような存在。
大きな廃墟には祭壇があり、いくつもの小さな亡骸が無造作に横たわっていた。
何か儀式の痕跡が残ってる。
何かを呼び出そうとして、失敗したのか。いや、あるいは成功した結果なのかもしれない。
祭壇周囲はより濃い瘴気が立ち込める。
悪魔でも呼び出したか。
アイツらは我らに近いが決して相容れぬ存在。
だが、見たところその存在は今は確認出来ない。
少し歩くと祭壇の上には大きな鳥籠が置かれていることに気付いた。
さらに近寄ると驚いたことに、この炎渦巻く渦中にあってまったく火を寄せ付けず、作られた時のままであろう姿でそこにあった。
鳥籠にしては随分頑丈な作りであり、主な素材は鉄のようだがところどころに玉を散りばめているようだ。
ルビー、サファイア、ダイヤモンド。頑丈なだけでなく豪奢にしており、おそらくこれが貢ぎ者なのだろう。
黒い薄いベールに覆われており、私はそっとそれをはずす。
中にあったの2人の子供だ。
幼子がさらに小さいまだ赤子を抱きしめて横になっている。
種族は人間種か。
いくら蛮族とはいえ、幼子には過酷な仕打ちであろう。
二つの亡骸を送葬するか、鳥籠をあけた。
「誰?」
亡骸の1つが喋った。
アンデット化か?
いや、驚いたことにそれは生きていた。
この状況で生きていたとは。
「女神様?」
よもや神とは笑える。
鳥籠を壊し、幼子2人を見やる。
1人は金髪にすみれ色の瞳を持ち、私に話しかけるくらいの言葉を話す。
それに抱かれた赤子はまだ毛も薄い。だがこちらも生きており、こんな状況下で寝ている。
「ふふふ」
「?」
幼子は首を傾げるが、これが笑わずにいられようか。
なんとも面白い状況だ。
正直慈悲の心などではない。
ただ私の興に適ってしまっただけだ。
その選択は最悪この者らにとっては破滅かもしれない。
だか、私は魔族にして悪食の魔女。そんなことには少しも心は痛まない。
「幼子よ、私の元に来い。」
差し伸べた手に、迷うことなく小さい手が置かれた。
そう、ただの気まぐれ。
私の胸に収まる2人を抱き、背の羽を広げて屋敷へと飛び立った。
それが私と彼らの出会いであった。