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魔剣使いは剣娘ハーレムなど望まない  作者: 桜赤 りんご
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プロローグ 魔王城にて

 ここは最果ての大陸中心部魔王城、その雲突き破る尖塔の最上階。魔王の間。禍々しい石畳の上、玉座に腰掛ける若き魔王は侵入者と睨みあっていた。魔王は綺麗な銀色の長髪を靡かせ、透き通った紫眼でこちらの全てを見透かしてくる。魔王は少女の姿にもかかわらず圧倒的な威圧感を放ち、強者の微笑を浮かべている。一方、侵入者はボロボロの布の服に大きい背嚢を背負った人間の男。明らかにこの場にふさわしくない出で立ちの男は、これでも魔王城を突破してきた猛者である。魔王は警戒を緩めることなく男に問いかけた。

「よくここまでたどり着いたな、人間。まさか貴様一人にこの魔王城の守りを破られるとはな。まあ、よい。我直々に相手をしてやろう」

 魔王は美麗な顔に喜色を浮かべた。魔王は魔界と人界を繋ぐ(ゲート)を開き、豊かな人界の地を征服しに来たのだ。四天王がそれぞれ軍を率いて人界の四つの大陸に同時に侵攻している。その間、魔王は門を守っている。だが、魔王とはいえ心有るものの宿命か、暇だったのだ。そこに現れた強者、正に飛んで火に入る夏の虫、格好の暇潰しの相手だ。楽しくない筈がない。

「いや、別に俺は戦いに来た訳ではない。貴公と話をしに来ただ」

 魔王は驚いた。そして同時に落胆した。それでは面白くないではないか。やっとのこと出会えた手応えのありそうな敵なのに。それに部下を殺されている。はいそうですかと、許す訳にはいかないのだ。

「我が部下達を殺めておいて今更何を言う。まさか怖じ気づいたのではあるまいな」

 男は一切表情を変えず。声色を変えず。挨拶するような口振りで、

「では、殺して奪うとしよう」

 男は背嚢から白銀の剣を取り出した。鞘に収まったその剣は透き通るような白色で、散りばめられた金の装飾が戦いの道具というよりは祭具のような。そういった印象を与えてくる。魔王はその剣に見覚えがあった。神聖剣グローリアス。かつて前代の魔王が言っていた、全ての邪を払う神秘の剣。ただし、言い伝えが残っているのみの神秘の聖剣。面白くなってきた。魔王は構える。魔王は全ての魔族を統べる王。そして魔界一の魔法の使い手だ。詠唱など不要、両の手に巨大な火球を作り上げた。必殺の威力を持っていることを溢れ出る熱気と迫力が示している。男が剣を抜くと同時に火球は男へと放たれ、時は等しく剣から眩い光が溢れ出す。光は男を、火球を、魔王を、尖塔を、周囲の全てを巻き込んで広がり、収束した。そしてその場には再び剣を鞘に収めた男だけが残った。しかし勝者はその場から少しも動かない。しばらくして、魔王がいた空間に歪みが発生し、息絶え絶えの魔王が姿を表した。

「なんなのよ! あれは! 邪を払う聖剣なんて大嘘じゃない! 立派な魔剣よ! 無差別生物虐殺光線よ!」

 魔王は口調が素に戻っている。魔王の眼は全ての魔法を見通す。邪を払う聖剣とはよく言ったものだ。全ての生き物は別の生き物を殺めて生きている。その聖剣にとって殺生は罪、すなわち全ての生き物は罪を背負っているのだ。魔王の本体は魔界にある。人界には分身体を出しているにすぎない。魔王は残機が零になるまで即座に復活するし、残機がなくなっても数万年の後にまた人界に還ってこれる。しかし、謎なのは男の方だ。なぜ男は消滅していないのか。本来ならばすぐさま蒸発してしかるべきところだ。ちょうど男が口を開いた。

「これは全ての邪を払う聖剣グローリアス。全ての生き物を蒸発させる剣だ。そして俺はこの剣を人界で唯一使える者。なぜなら俺は不老不死で超再生で怪力で無限の魔力を持ち……」

「もういいわ、分かった。貴様がおかしいのは分かったから」

「むぅ」

「しょうがないから話を聞くわ。さっき奪うとか言ってたけれどそれと何か関係があるの?」

「ああ、貴公が所持しているという暗黒剣ディープ・ケイオスをいただきたい」

「はぁ!? あれは家の家宝よ! そう簡単に渡せる訳ないじゃない!」

 暗黒剣ディープ・ケイオス。魔王の一族の代表が代々魔力をこめ続けた家宝の剣。玉座の後ろに飾られたその剣は未だに一度も抜かれたことがなく、魔王の目をもってしても能力は分からない。ただ一つ分かっていることは、それは魔剣であり何かしらの圧倒的なメリットと致命的なデメリットを持っているということだ。

「そうか。ならば、貴公が死ぬまで殺すのみ」

 男は柄を握る。

「おーちついてぇー! うぅ~もうヤケよ! あなた、魔王軍の幹部になりなさい! そうしたらこの剣をあげるわ!」

 魔王とてただで渡す訳にはいかない。それほどには大切な魔剣なのだ。

「分かった」

「やっぱり戦うしか……へ?」

 魔王は覚悟を決め、そして男の答えに拍子抜けする。その時の魔王はなんとも間抜けな顔をしていた。

「分かったと言っている。ちなみに魔王軍の幹部とは何をすれば良いのだ? 悪いが俺は旅の途中でな。できることは限られる」

 最初の雰囲気などかなぐり捨ててコロコロと変わるその様は見た目通りの少女のそれだ。

「そうね……召集に答えることと、勇者を見つけた時に仕留めて貰えればいいわ」

「分かった。それでは、剣を」

 魔王は魔法で剣を男の手に運ばせる。

「最後に一ついいかしら?」

「なんだ」

「あなたは何故魔剣を欲するの? あなたなら魔剣なんてもの使わずに聖剣だろうと何だろうと使いこなし、英雄にも何でもなれたはずよ」

 男は少しの間をおいて、答えた。

「俺は選ばれし勇者にも救国の英雄にもなれない。そういう契約だからだ。そして、俺が魔剣を集めるのは……」

 魔王はごくりと唾を飲む。

「俺は魔剣が大好きだからだ。性的な意味で」

「は?」

「俺は今まで世界に眠る108振りの魔剣の内、9振りの魔剣を手に入れた。俺は何億何兆年たとうとも全て集めてみせる。その為に得たこの体だ。集めきったら次は魔界の魔剣だ。いずれ貴公の本体とも出会うことだろう。魔王は確か任期で代替わりするだけで、不死身のはずだからな」

「ちょっと! どこでそれを知ったのよ!」

「秘密だ」

 すると男は聖剣と魔剣を背嚢へ入れ、窓を開けて飛び降りていった。魔王の行動は迅速だ。すぐさま四天王へテレパシーを送った。ボロボロの服で背嚢に魔剣を入れた男には手を出すな、と。

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