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05

ライトシャイン王国の勇者として魔族の領土に足を踏み入れ、自分達“人間”という種族には過酷とも言える彼の者達、魔族の住まう地をひたすら前を向いて歩み進んだ。幾多の危険や冒険を乗り越えて、ついに宿敵である魔王の城へと辿り着き、数の多い小魔族との戦いを終えて今やっと魔王のいる“魔王の間”を目前にとらえた。

魔王のいる“魔王の間”へと続く最後の廊下を進み、彼らは扉を目の前にしてライトシャイン王国の勇者達は作戦の確認をしていた。


「ところでお前ら、魔王討伐はうちの“ジョーカー”がやるでいいんだよな?」


「ええ、そこはあなたに伝えたとおりの作戦内容ですよ。せいぜい決着をつけるまで生きていてください、あなたとその聖剣が無ければ話になりませんから」


先ほど魔城の入り口付近で小魔族と戦っている際、このパーティのリーダーであるジュリアス・サンライトにはこのパーティの頭脳(ブレーン)であるツヴァイ・ヘルブストから作戦上、告げられていない内容がある事が判明したところだった。

そんな事もあり、改めてジュリアスは魔王討伐の作戦を確認した。


「ジュリアスってツヴァイにとっていいかんじの駒だからね、ふせてある作戦もいくつかあるよ」


「ラット余計なことを言わないでください。リーダーの士気が落ちては魔王をあざむけません」


このパーティで最年少であるエキャルラット・ダークネスは、年上でありリーダーで王族でもあるジュリアスをからかうように言い放つと、ツヴァイは言われているジュリアスには目もくれずにエキャルラットの頭をこついた。ジュリアスは放置気味だが、ツヴァイが言っている内容は魔王をあざむくという大変すごい事である。


「お前らなぁ...」


ジュリアスは自分がツヴァイにとって駒だというのは長年の付き合いで知っている事であり、エキャルラットについては出会った頃からこうなので呆れたように苦笑いを浮かべる。

ツヴァイはそんなジュリアスに士気を落とさないで下さいねと言うが今さらである。


「ツヴァイもラットも準備はいいか?」


ジュリアスがこのパーティのリーダーとして行くぞという意気込みを込めて2人の顔を見ると、ツヴァイもエキャルラットもそれぞれ意地の悪い、不敵な笑みを浮かべながら頷いた。


「ええ、僕はいつでもかまいませんよ」


「オレも。ここなら何も気にしないで本気で戦えるし」


こいつらは人間の敵である魔族、あの魔王を目前にしてもいつもと変わらないのだと思うとジュリアスは自分だけが緊張しているのかとも思うが、それ以上に自分の仲間がこの2人で本当に良かったと思う。

何故なら、このパーティは魔王を倒すために騎士としての志を曲げてまで邪道の道を選んだ人選だからだ。“純粋な人間”という、この星で最弱と言われる種族は自分ただ1人だけしかいない。


「だよな。お前らは俺の騎士道を曲げてまで部下にしたんだ」


ーーー魔王に勝ちに行くぞ!!


ライトシャイン王国の勇者3人は魔王の間の扉を開けて、城の最奥にいる魔王へと挑んだ。





 ̄ ̄ ̄ーーー_____

 ̄ ̄ ̄ーーー_____


魔城内、魔王の間。3人の勇者達が広い部屋の中に入ると空気が重く冷たく、今までいた廊下よりも照明が豪華のはずなのに何故だか暗いと感じる。

何処よりも生物的に危険だと感じる、その正体を見てしまっただけで死んでしまうのではないかと思わせるこの城の主である魔王は孤高の玉座に座り、勇者達を見下ろしていた。


「よく来たな、勇者達よ。待ちくたびれたぞ」


ジャスティスはいつもとは違う声色と雰囲気で、人間達の望む“魔王”を演じる。これもまた“魔王の仕事”である。勇者達が魔王の間に入る前に自分の周りにオーラの様に放っていた黒の魔力をさらに放出して魔王っぽさを演出する。

すると、勇者の1人である王族騎士ジュリアスが孤高の玉座から自分達を見下ろす魔王に対して背中に背負っていた聖剣を抜いて牽制する。


「下りてくるがいい魔王!俺はライトシャイン王国の王族騎士ジュリアス・サンライトだ、正々堂々勝負せよ!」


王族騎士ジュリアスの言葉を鼻で笑い、ジャスティスはとんだ茶番だと戦意が少し萎えている。自分が戦いたいのは最弱の人間などではない。もう少しマシな戦いができる鳥類族の亜種だ。それ以外に興味はない。

そう答える代わりにジャスティスは黒の魔力で攻撃しようと右手を構えた瞬間、何か嫌なものが自分の方に飛んできたような気がした...。


「なっ...いっ、いったい何だ...?」


突然体に鋭い痛みが走ったかと思えば、完全に気を抜いていたためにダメージが大きかったようで人間の姿が一瞬揺らぐ。そして鈍い痛みを覚えて腹部に手を当てれば、生ぬるい温かさがある...どうやら何らかの攻撃で腹が見事に抉られているようだ。

いつの間に、いったい誰が、この星で最強の“魔王”である俺に人間ごときにこんな攻撃ができるわけが...。


「ごめん、さすがに1発じゃ仕留められなかった」


「いえいえ、2人共これだけできれば上出来ですよ」


作戦の第一段階は成功です、と一番警戒していたはずの“亜種”、ツヴァイ・ヘルブストが言った。その言葉と彼らを見て、ジャスティスは先ほどエヴィルが言っていた事の意味を理解する。

自分は完全にあの黄緑頭の子供を見くびっていた。妙に感じた()()はあの子供が隠し持つ“白の霊力”だ。本来、人間が持ち得るはずのない能力...いや、例外が1つだけ()()


「お前は“島”の人間かーーー!!」


怒りの声に黒の魔力がのっている。本来、魔王であるジャスティスの声や雰囲気に呑まれる人間が大半である。ここへ来る勇者も例外などほとんどいない。だが今回の勇者達はそれなりの者達であるようだ。

体が固まって完全に動けなくなる者はいなかった。ジャスティスの怒鳴り声が魔王の間に鳴り響いた後、一瞬の沈黙が流れたがジャスティスの怒りはおさまらずに自分を攻撃しダメージを与えたエキャルラットに向けられている。


「避けろ!ラット!!」


「っ!逃げきれない...」


それに気付いたジュリアスはエキャルラットに指示を飛ばしながら自分も聖剣を盾にして、その場から離れて攻撃を受けないように身を隠せる場所を探す。エキャルラットは回避を諦めて白の霊力を両手に構えた。

そしてその数秒後には、無数の槍が床に突き刺さる大きな音が連続で響き渡った。ジャスティスが怒りに任せて黄緑頭の子供、エキャルラット・ダークネスに向かって黒の魔力を無数の槍に変えて攻撃しているのである。無限にも思えるその槍は目標を仕留めることなく床に突き刺さり、目標とは関係のないこの城にかかっている元に戻る力とぶつかり合っていた。


ーーーお前を今すぐ串刺しにしてやる!!


ジャスティスはさらに自分の持つ黒の魔力を放出して攻撃する。槍以外にも姿を変えて剣や刀、太刀、盾、薙刀、斧など様々な武器が床へと突き刺さる。しかしそれは今までと同じように、そして良く見ればエキャルラットを中心に円を描いて床に突き刺さっている。

それはジャスティスにとって忌々しい白の霊力によって作り出された半球状の“白の結界”である。本当に邪魔な能力だ。


「ちっ、これが魔王の能力(ちから)か...それでもオレは、琉理に認めてもらうために負けられないんだ!!」


エキャルラットの意志の強さに反応するように先ほどまでの攻撃で傷付いた結界が修復され、そしてさらに白の霊力が光輝き結界の強度と周りの黒の魔力を消滅させて効果範囲を広げていく。


白の結界なんて(そんなもの)、俺の黒の魔力で潰してやる!」


ジャスティスはまたさらに黒の魔力を力任せに放出し、武器の数を倍に増やしてエキャルラットを目掛けて白の霊力の結界を貫き破壊するように威力を上げて攻撃を放った。

黒の魔力と白の霊力がぶつかり合う。それはお互いを認めぬようにお互いの存在を賭けて相容れないお互いを消滅させて打ち消し合う。


(頼むぞ、お前ら!)


ただの人間で能力を必要とする戦いに参加できないジュリアスはエキャルラットから離れた場所に身を潜めて戦いを見守る事しかできない。この魔王討伐の作戦で“ジョーカー”は()()。作戦の第二段階はツヴァイとエキャルラットの連携にすべてがかかっている。

エキャルラットの白の結界にヒビが入り始め、ジャスティスはそれを見逃さずにその一点に攻撃を集中させた。


「さすがにこれ以上は持たないよ!ツヴァイ!!」


エキャルラットは白の結界が綻んでいるにも関わらず、不敵な笑みをしながら上を少し見上げてツヴァイに声を掛けた。先ほどからずっと姿を見ていないが、これも頭脳(ブレーン)であるツヴァイの作戦だ。

彼は人間と鳥類族の混血。その混血の中でも姿を変化させられる個体は数が少ない。ツヴァイは能力値も高く、そして姿を変化させられる才能も持つ数少ない者である。


「ああ、いい頃合いだ。これで俺も本気で魔王と戦える」


上から、普段とは少し違うツヴァイの声が聞こえたかと思うと彼の蒼色の翼の羽が宙を舞い踊っていた。

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