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03

太陽が沈み始める夕方。今日は魔王としての仕事も終わったため一休みしようとも思ったジャスティスだが、王妃であるリオネリアに言われたこともある。

ジャスティスの足は自室のベッドから遠ざかり、城の外へ出た。人間の姿から本来の魔族の姿に戻り領土の空を飛ぶ。城の周りの広い草原を通り過ぎて火山帯の様子を確認した後、海の方へと向かった。


「ヴァイスの奴、少しは強くなったか?」


自分達の息子であるヴァイス・ファントム・イブリース。まだ幼い息子の事を思いだしながらジャスティスは少しだけ笑う。

すると海に面した岩場で夕日を見ながら話しをしている2つの影を見付けた。片方は息子のヴァイス、もう片方はエヴィルがヴァイスの世話役としてつけたクーファッシュ・イブリースだ。たぶん俺とエヴィルのような関係になる事はほぼ間違いないだろう。


「ちっ、ジャスティスかよ」


魔王であるジャスティスの強すぎる気配を上空から感じ取ったのか、ヴァイスが上を見上げて嫌そうに言ったのが聞こえた。隣のクーファッシュは興味がないと云うかのようにジャスティスを見上げたりはしない。

何気に魔族は目も耳も良い。そんな息子達の反応に苦笑してジャスティスは息子達のいる岩場に下り立った。その瞬間、ヴァイスは逃げようと翼を広げていたためジャスティスは息子の首を上から牙で押さえ付けた。


「おいヴァイス、俺から逃げられるとでも思ってるのか?」


「...うるせーな、僕の勝手だろ!?」


反抗的なヴァイスの言葉だが、首をつかまれているために大人しいものである。ジャスティスは隣のクーファッシュにも視線を向けつつヴァイスの首から牙を放した。

ヴァイスはまだまだ子供で聞き分けも良い方だと思う。俺と違い、その場で1度つかまればまた逃げ出そうなどとは思わない奴だ。まあ、久しぶりに会う度にこんな事を繰り返しているわけだが...。


「ヴァイス、お前の父親は一番強い魔王だ」


抵抗するだけ無駄だとクーファッシュの目はヴァイスに云っている。うるせえ!とヴァイスがクーファッシュに飛び掛かるが軽くあしらわれ、それでもヴァイスは諦めずにクーファッシュに突っ掛かっていく。またいつものように子供のケンカが始まる。


「この!避けるなよ!!」


「それは嫌だ。それにまだお前の方がスピードも遅いし、リーチも短い」


ヴァイスが何度も繰り出す鋭い爪やしっぽを使った攻撃は、クーファッシュの言うようにすべて避けられては鋭い爪先で防がれる。

ある程度大人になれば体格差など気にならなくなるが、今のところヴァイスとクーファッシュには魔族の姿も人間の姿になった時も年齢通り年下のヴァイスの方が小さくケンカの経験値もクーファッシュの方が上の状態である。


「ちっ、クーファッシュ!!」


攻撃が当たらない事に舌打ちしてイラついている息子も可愛いものだが、クーファッシュの腕も年齢の割りに大したものだと感心する。もしかすると次の魔王はクーファッシュか、それとも自分の息子であるヴァイスか...そんな事を考えていると、ヴァイスは自分の口の中に火をため始めていた。

個体差はあれど魔族の口から吹く火は、同じく魔族の強硬な鱗を攻撃して傷をつける事ができる攻撃の手段でもある。


「ヴァイス、火を吹くのはいいが直接狙うことはエヴィルに禁止されてる」


今ヴァイスの口から放たれた火はクーファッシュを直接的に狙っている。魔族の中でこの攻撃方法は、魔王を決める闘い以外ではやってはいけない攻撃方法であり暗黙のルールでもある。たかが子供のケンカ、されど時期魔王の可能性を秘める魔族の子供。

さすがに子供のケンカでもヴァイスの頭には血がのぼりすぎている。やり過ぎだと思い、ジャスティスはこのケンカを止める事にした。


「お前ら、そのへんにしとけ!!」


ヴァイスが攻撃が当たらない怒りのままに、本気でクーファッシュに口から火を吹いてケガをさせそうだったためジャスティスは父親として、また魔族を統括する魔王として息子達の間に入り子供達のケンカを止める。

クーファッシュはその声と共にケンカを止めたが、ヴァイスは邪魔するな!と止まらなかった。

父親であるジャスティスごと倒そうとして、口から火を吹く準備をしながら勢いをつけて突進してくる息子に“やれやれ”と呆れながらも、ジャスティスは内心息子と闘える事を嬉しく思う。


「くらえ!」


「やれるもんならやってみろ」


まだ小さいヴァイスの口から放たれる火に、ジャスティスは“まだまだだな”と笑いながらその攻撃をあえてガードもせずに受けた。見た目にもまだ可愛らしいその火は、ジャスティスの横腹にある強硬な鱗を焼く。だがダメージは全く無い。少しその部分が熱いなと思う程度である。

しばらくするとヴァイスは疲れたのか火の威力も先程までの威勢も弱々しくなっていき、ついには口から吹く火は止まった。


「もう疲れたのか?そんなんじゃ俺を倒すことなんてできねーぞ」


そう言いながらジャスティスは片手でもう1度ヴァイスの首をとった。一瞬の間に成された動きはその巨体にあるまじき程に素早く、見抜く事はできない。

クーファッシュはすごいと呆気にとられながらも目をキラキラさせるように見ている。それとは反対にやられたヴァイスは一瞬で頭上は青い空からねずみ色の地面、岩場に変わっていて自分の状況を呑み込むまでに少し時間が掛かっていた。


「くっそ...いつかジャスティスに勝ってやる」


自分の状況を理解するとヴァイスはとても悔しそうに言った。ジャスティスの手が首から退かされた後もヴァイスはすぐに起き上がらずにそのまま寝転んでいた。





その後、夕日が沈み暗くなったところでジャスティスはヴァイスとクーファッシュに遅くなる前に自分達の寝床へ帰れと言って、城へと戻る事にした。

どうやらまた、弱くて愚かな人間の“勇者”が我々の領土に侵入したようで黒の魔力でつくられた感知用の結界に反応があった。“魔王の仕事”をするためにジャスティスはあの忌々しい人間サイズの城へと星の光が輝く漆黒の空に力強く翼を羽ばたかせて向かった。

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