01
魔族の領土である広大な土地は、草原や砂漠、火山帯や海...いろいろな場所がある。
そして魔族は巨体であるはずなのに、最強の勝者である魔王に与えられる城は、なぜかあの軟弱で愚かな人間のサイズである。これは力の差も理解できない愚かな人間の相手をするのが魔王だという1種の強さへの嫉妬や嫌み、面倒事の押し付けだと言われている。
「わー!もうどうすりゃいいんだよ!!」
この広大な土地、黒の力を基準に力関係が決まる魔族の頂点に立ったジャスティスは魔族の本来の姿で怒りを抑えきれずに大地を何度も踏みつけていた。
魔族のその大きな足跡、回数を追うごとに踏み固められた大地はジャスティスの重さに耐えきれずに凹んでいく。
「何であんな弱い奴を俺が相手にしなきゃならねーんだよ!!」
少し前にこの魔族の領土に侵入した人間は剣や盾、装備品はまあまあ良いものを持っていた。鎧には魔除けや炎などを軽減するエルフ一族の白の霊力で守りの力がほどこされていた。
だがそれだけだ。魔族の黒の魔力に対抗できるのはエルフ一族の白の霊力のみである。つまり、ジャスティスは何が言いたいかというと“領土に侵入した勇者ではなく、エルフ一族の白の霊力が手強いのだ”と。
「エルフ一族の長老から人間が若い女や子供を拐ってるとか俺に言われても困るっつーの!!」
ジャスティスは平和を愛し緑の濃い山に隠れ住む戦いを好まないエルフ一族を無理矢理にその白の霊力を使わせている人間が憎い。だがそれ以上に、自分が“魔王”として何もできない力不足を許せない。
同族の奴らにさえナメられ、最近は...いや、もっと前からだ。黒の魔力の“力”で強くてもそれ以外であいつらに見下されているのは自分なのだ。
「くっそムカつく!!!」
そう言いながらジャスティスは口から火を吹いた。魔族の頂点...否、本来この星 暗闇の星に生きる知的生物の中で一番大きく強い魔力を持つ者として真に一番強いのだとこの“星の意思”に認められている彼のその火はもはや炎。
最弱の人間など一瞬で吹き飛び灰さえ残らない、同族に向ければこの星で最強の硬度を誇る魔族の鱗でさえも燃やしてしまう威力である。だから、ジャスティスは口から火を吹く時は必ず真上を向く。
「やめろ、ジャスティス!」
そんなジャスティスにやめろと空中に大きな翼を広げて浮きながら怒鳴ったのは魔王補佐の役職を得ているエヴィル・イブリース。彼もまた先の魔王を決める戦いに参加し、ジャスティスに敗北した者だ。
負けたと言っても、魔王補佐の役職は事実上のNo.2を示しているためエヴィルもまた強者である。
「お前はまたそんなことをやっているのか。いい加減にしろ!」
そう言いながらエヴィルはジャスティスの首を目掛けて急降下すると、一瞬にして火を吹くジャスティスの首に牙を立てて魔王を大人しくさせた。
ジャスティスが魔王となって150年、いや彼が魔王になる前からの付き合いになるエヴィルはいつものこの行動に呆れている。それでもそんなジャスティスを止められるのは力的にも魔族のNo.2のエヴィルだけだ。
「やめろ、エヴィル...ギブだギブ!!」
強硬な鱗で守られているとは言え、魔族にとっても首は弱点でもある。それに魔族は子供の頃は親に首の後ろを口や手で持たれて移動する。無意識に抵抗を忘れてしまうところでもある。
エヴィルはそういうところを恐ろしいほど的確に仕止めに来るため同族皆に恐れられている。次の魔王はエヴィルで決まりだと皆が思っていた事でもある。ジャスティスもそう思っていた。
「早くはーなーせぇ~!!」
放せと必死にもがくジャスティスにエヴィルが大人しく“魔王の仕事”をするか?と聞き、ジャスティスが必死にやると頷くのを確認するとエヴィルはジャスティスの首を押さえ付けていた己の牙を離した...かと思うと、次はエヴィルの体から発せられた霧状にした黒の魔力にジャスティスは捕縛されて魔王の所有物である人間サイズの城へと強制連行された。
ーーーこれが俺とエヴィルの日常、だった。