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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第6章 海の底に眠りしは
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13.感動と感激、そして感謝

あんた達の事は、嫌いじゃない。

 夜が訪れ、三人は村の集会に参加した。

 そこでは三人が伝説にある神の選んだ者である事、キューマ神殿に眠る聖霊アテナが彼らと共に神の使命を果たすため旅立つ事が村人達に知らされた。

 村人達は初めこそ驚き、動揺した様子を見せていたが、モーリの話を聞くうちに村の言い伝えを改めて思い出し、この状況を受け入れ始めた。


 その後、聖霊が使命を果たす事、海の変わらぬ安寧を祈る儀式が行われた。

 巫女であるカナンが煌びやかな儀式用の衣装を身に纏い、漁師達の演奏に合わせて祈りの舞を踊る。

 普段の彼女とはまた違う、どこか艶やかな美しさを纏った彼女にマルス達は思わず見とれていた。


 そして儀式が終わり、三人は村長宅に戻ってモーリや姉妹と共に夕食を取った。

 儀式の感想や神殿であった事を話しながら、夕食の時間を彼らは楽しむのであった。




 *   *   *




 翌朝、三人は朝食後に村を発つ支度をしていた。

 姉妹はモーリと共に昨晩の儀式の片付けをしに村の集会所へ出向いており、村長宅にはマルス達三人しかいない。

 その合間を見計らって部屋ではアテナが実体化してベッドに腰掛けていた。


「祀ってもらえるのは嬉しいけれど、儀式とかってどうも性に合わない気がするのよねぇ。まあ、毎回可愛い子の舞とか見れるから良いけれど」


 三人が支度を進める傍らで、アテナは昨晩の事を思い出しながらそう呟く。

 聖霊という神に最も近い存在でありながらも明るく気取らない性格の彼女には、儀式のような堅苦しいものは確かに性に合わないのだろう。

 三人はそう感じながら、支度の手を動かす。


「アテナは……寂しく、ないの……? ここを、離れるの……」


「そりゃあ寂しいわ。ここのみんなには良くしてもらったもの。でも、アタシの使命はパルちゃんを守って、世界を邪神から守る事よ。だから、後悔はないわ」


 長い間過ごしてきたこの村や神殿を離れる事が嫌ではないのかと思い尋ねたパルに、アテナは祈りを捧げに来る村人達の顔を思い浮かべながら答える。

 彼女にとってこの村や神殿は故郷に似たようなものであり、寂しくないはずはなかった。

 だが、神に与えられた使命は何よりも優先させるべき事だ。

 だからこそ、彼女に後悔はない。


「それにね、可愛い可愛いパルちゃんもいるし、マルスちゃんにアイクちゃん、クライスも一緒にいる。この数百年ずうっと独りだったから、こうしてみんなとお話しながら旅が出来ると思うと楽しみだわ」


 そう言ってアテナは明るく微笑んでみせた。

 彼女は非常に人懐っこい性格らしく、誰かと時間を共有して楽しむ事が好きなようだ。

 選ばれし者が現れるまでの数百年間、神殿の奥で誰とも関わらずにいたのは彼女にとって多少なりとも苦痛だったに違いない。

 今の彼女の表情は、これから仲間と共に行く旅への期待で満ちていた。


「あっ、そうそう。ここを発った後はどこへ向かうのかしら?」


 まだアクティア村を発ってからの予定を聞いていなかった事を思い出し、アテナは三人にこれからの行先を尋ねた。


「えーっと、まずはこの村の東? にあるバルコって言う港町に行って――」


「入るわよ」


 アテナの質問にマルスがややたどたどしく答えていた時、不意に部屋の扉が開いた。

 入って来たのは、昨晩の儀式の後片付けに行っていたカナンとティアだ。

 先に部屋に足を踏み入れたカナンは両手を広げたほどの袋を持っている。


「漁師達が昨日作った干物をあんた達にって…………っ!?」


 手にしている袋に視線を落としながらそう言い、顔を上げて三人に視線を移した瞬間、カナンの体が硬直し重力のままに両手が下がって、魚の干物が入っている袋がどさりと音を立てて床に落ちた。

 驚愕した表情を浮かべて固まる彼女の視線は、三人ではなくベッドに腰掛けているアテナに向けられていた。


「お姉ちゃん、どうしたの…………えっ、ええっ!?」


 立ち止まって動かない様子のおかしな姉を心配し、ティアが部屋に足を踏み入れて姉の視線を辿る。

 そして、姉の視線の先にいるアテナの姿を捉えた瞬間、彼女は驚いた声を上げた。


「は、えっ、せ、聖霊様……!?」


「う、嘘ぉ!」


 神殿や村の集会所にある見慣れた聖霊像と全く同じ容姿をしたアテナを見て、姉妹はすぐに彼女が神殿で眠っていた聖霊だと理解した。

 姉妹は動揺した声をこぼしながら、「聖霊様のお姿を直接見てはならない」という村の掟を思い出して咄嗟に自分達の目を手で覆う。


「も、申し訳ありません聖霊様! なんて無礼を……」


 カナンは目を隠したままその場に座り込んで、アテナに向かって土下座をする。

 姉同様にティアもその場ですぐさま土下座をした。

 姉妹の思わぬ行動に三人は面食らった表情を浮かべる。


「ちょっとちょっと、そんな事しなくて良いわよ! 姿を見られる事くらい気にしないわ!」


「ですが、掟で……」


 アテナも三人同様に驚いた表情を浮かべながら姉妹に歩み寄り、土下座をやめるよう声を掛ける。


「聖霊様であるアタシが良いって言うんだから、良いのよっ! 顔を上げて、二人共。その可愛い顔、アタシによく見せてちょうだい」


 アテナにそう言われ、姉妹はどうするべきかと土下座をしたまま視線を合わせる。

 数秒してからようやく決心がついたのか、姉妹は恐る恐るといった様子でゆっくりと下げていた頭を上げていく。

 頭は上がったのだが、姉妹の瞼は閉じられたままだ。


「綺麗な瞳も、ちゃあんと見せてね」


 閉じられたままの瞼を見てアテナはさらにそう言った。

 聖霊の言う事に反対は出来ないと思った姉妹は何も反論はしないものの、緊張したように軽く眉間に皺を寄せて唇を固く結んだまま、これまた恐る恐る瞼を開けていく。

 開かれた二人の黄色の瞳に、聖霊様ことアテナの美しい姿が映し出される。


「あ、ああ……聖霊様……」


「なんて綺麗な方……」


 アテナの姿を見た姉妹は僅かに瞳を潤ませ、手を震わせながら感嘆の声をこぼす。

 この村における聖霊とは神にも等しい存在だ。

 昔から村で崇めてきた、決してその姿を見る事など許されなかったはずの神聖な存在を目の前にして、姉妹は激しく心を揺さぶられた。

 言葉に出来ない感情が押し寄せ、姉妹はただただ口元を押さえて目を見開きアテナの姿を凝視していた。


「うふふ、可愛い子達ね。改めて、アタシは聖霊アテナよ。よろしくね。えっと、カナンちゃんとティアちゃんだったかしら?」


 アテナは感動で言葉を失っている姉妹を見て微笑みながら、彼女達に向けて改めて名乗る。


「わっ、私達の名前、分かるんですかっ?」


「神殿に入って来た時からずっと様子を視させてもらっていたし、カナンちゃんは今の巫女だからちゃあんと知っているわ。二人には感謝しなくちゃね。アタシの所までパルちゃんを、三人を導いてくれてありがとう」


 まだ名乗ってもいない自分達の名をアテナが知っている事に驚きを隠せない様子でティアが聞き返すと、アテナは柔和な笑みを浮かべてその理由を口にした。

 そして、自身の守護すべき主であるパルと、その仲間であるマルスとアイクを神殿の自身のもとまで導いてくれた事への感謝を伝える。

 崇めている神聖な存在から感謝されて感激しない者はいない。

 姉妹はひどく感激して、僅かな衝撃を受けたように体を震わせると、感謝されるほどの事はしていないと謙遜するように首を横に振った。


「カナンとティアの反応凄いね」


「俺達は神や聖霊が御伽話の存在だと思って生きてきたが……彼女達は神や聖霊が実在すると信じて生きてきたんだ。その信じ崇めてきた存在が目の前にいる感動は計り知れないものだろうな」


 姉妹の感激ぶりに驚いた様子でマルスが小声で呟くと、アイクが姉妹の過剰なほどに感激している理由を伝えてやった。

 三人の生まれ育ったグラドフォスでは神や聖霊の存在はあくまで御伽話の中の存在だと思われているが、このアクティア村では神も聖霊もこの世に確かに存在するものだと信じられている。

 そんな村で生きてきた姉妹が聖霊を目の前にして受けた感動は、三人には計り知れないほどのものだ。

 アイクの説明を聞いたマルスは納得したように頷いていた。




 *   *   *




 それから少しの間、三人はアテナと姉妹が話すのを見守っていた。

 しばらくはあまりの感動に我を忘れていた姉妹だったが、次第に冷静さを取り戻し、三人とアテナを引き止めてしまっている事に気がついた。

 慌てて姉妹は出発の支度を邪魔してしまった事を謝り、三人とアテナはそれを快く許して支度を再開させた。

 そうしてようやく三人は出発の準備を完全に終え、今は姉妹とモーリと共に村の出口までやって来ていた。


「モーリさん、カナン、ティア、本当にありがとう!」


「こっちこそ、色々とありがとう! 三人に会えて良かったよ」


 マルスがこの二日間の感謝を伝えると、ティアも笑顔を浮かべて感謝の言葉を返してきた。

 ティアとしては、祖父や他の村人には内緒だが聖霊と話す機会を与えてもらった事や仲良くしてくれた事にも感謝していたが、それ以上に少々気難しい姉を理解してくれた事への感謝が大きかった。


「聖霊様と共に神の使命を果たせる事を、この村の皆が祈っているよ」


 微笑みを浮かべながらモーリが言った言葉に、マルス達は大きく頷いて返事をする。


「気をつけて行きなさいよ。途中でくたばったりしたら承知しないから。……無事に戻ったらまた来ると良いわ。まあ……あんた達の事は、その……嫌いじゃないし……」


「勿論、ちゃんと最後までやり遂げるよ。終わったら報告しに来る。オレ達もカナンの事も、村のみんなの事も好きだからさ」


 相変わらずの少々きつい物言いで激励してから、気恥ずかしそうにまた村に来るよう言った。

 たどたどしい口調で伝えられた素直になりきれない彼女の好意を受け取ったマルスは、自分達の抱く好意をそのまま伝えた。

 カナンの言う「嫌いじゃない」は「好き」なのだという事をマルスは分かっていたのだ。


「っ、もうさっさと行って!」


 素直には言わなかった自身の好意を、よりにもよって一番鈍そうなマルスに汲み取られた事がカナンの恥じらいに拍車を掛けたようだ。

 恥ずかしさを誤魔化し、赤くなった顔を見られないようにとカナンは三人の体を無理矢理村の外に向けさせると、その背中を押して歩き出すよう促した。

 彼女からの確かな好意を感じた三人は顔を見合わせて笑みをこぼす。


「それじゃあ、また!」


 一度だけ振り返ってマルスが声を上げて手を振る。

 アイクとパルもそれに続いて姉妹とモーリに声を掛け、手を振った。

 海風が優しく吹く浜辺を三人は歩いて行く。

 その姿が見えなくなるまで、姉妹とモーリは手を振って三人を見送るのだった。

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