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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第6章 海の底に眠りしは
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12.無事ならそれで

終わり良ければ全て良し。

 ティアに先導してもらい、三人と姉妹は船まで戻って来た。

 神殿に向かう際にカナンが使用した魔法と同じものを見様見真似でパルが使って水泡を作り出したため、カナンの力がなくともどうにか三人は船まで戻る事が出来ていた。

 マルスとアイクが船を漕ぎ、パルとティアがまだ目を覚まさないカナンを看ながら村を目指して行く。


 海の上はそろそろ昼の一番太陽が高く昇る時間になっており、神殿に向かった時よりも気温がかなり上がっていた。

 特に船を漕いでいるマルスとアイクには厳しい暑さで、上着を脱いでもお情け程度にしか涼しくはならない。

 そこで、パルが風魔法と氷魔法を合わせた複合魔法で冷気を纏った風を船の上に定期的に吹かせていた。

 暑さが気にならなくなる上に、パルも複合魔法の練習ができ、まさしく一石二鳥だ。

 先程まで暑さで何ともだらしのない漕ぎ方をしていたマルスとアイクは、涼しくなった事で集中して漕ぐ事が出来るようになり、しっかりとした動きで船を進めて行く。


「……う、ん……」


 波に揺られる船の上で、まるで死んだかのように動く事なく眠っていたカナンが不意に身動いだ。

 彼女は日差しを遮ろうとするかのようにゆっくりと右手を額付近に持っていき、眩しそうな表情を浮かべながら目を開ける。


「お姉ちゃん! ああ良かった、やっと目を覚ました……」


 姉の黄色い瞳を覗き込んでティアが声を掛けた。

 パルに大丈夫とは言われていたものの、本当に姉が目覚めるのか不安でならなかったティアはうっすらと涙を浮かべていた。


「ティア……良かった、無事で……」


 カナンは体を起こして泣き出しそうな妹の事を抱き寄せ、安心させるように、無事である事を確かめるようにその頭を撫でた。

 ティアの方も姉が無事である事を確かめるように、姉の背に腕を回してしっかりと抱きしめ返す。


「あんた達も無事だったみたいね」


 妹を抱きしめながら、カナンは傍らにいるパルと船を漕ぐマルスとアイクに視線を向ける。

 三人はカナンの無事に微笑みを浮かべ、彼女の言葉に頷いた。


「目が覚めてホッとしたよ。本当に無事で良かった。……あ、オレ達も見ての通り無事だし、聖霊様にもちゃんと会えたよ」


 マルスが彼女の無事に対する喜びを伝えると共に、自分達も無事に聖霊と会うという目的を果たせた事を報告した。

 カナンは僅かに口角を上げ、彼の言葉を何度か頷いて受け止める。

 だが、次の瞬間には口角を下げて眉根を寄せ、視線を三人から船底に移して、その顔に暗い影を落とした。


「…………ごめん。本当に、ごめんなさい。いくらティアを守るためとはいえ、アタシはあんた達の命を危険に晒すような真似をした。何て謝ったら良いか……」


 思い詰めた表情でカナンが口にしたのは、謝罪の言葉だった。

 大切な妹を人質に取られ、選択肢など一つしかないような状況であったとはいえ、危険人物であるルナを三人のもとまで連れて行き、三人を危険に晒してしまった事にカナンは酷く責任を感じていたのだ。

 強気で無愛想な彼女がここまで思い詰めた顔をしているため、彼女がどれほどの思いでいるのかは三人にも容易に想像がついた。


「……アタシ達は、幼い時に両親をリヴァイアサンって海の魔物に殺されている。それ以来、ずっと二人で支え合ってきた。アタシには、ティア以上に大切なものなんてない。だから……」


 カナンとティアは幼い頃、海の魔物によって両親を失っていた。

 両親を亡くしてからは祖父モーリと今は亡き祖母に育てられながらも、姉妹は二人で支え合って生きてきたのだ。

 少々年の離れた妹はカナンにとって両親の忘れ形見のような存在で、誰よりも大切で守らなくてはならない存在だった。


「カナンの気持ち、すごく理解出来る。オレもさ、両親を戦争で亡くしてて、それからは兄さんと二人で生きてきたんだ。だから、カナンがティアを想う気持ちは理解出来てるつもり。オレも同じ立場になったら、きっと同じようにすると思うもん」


 カナンのように両親を亡くし、兄と二人で支え合って生きてきたマルスには彼女の抱える思いが理解出来た。

 だから、彼女の行動を否定する事は出来なかった。

 彼女を否定してしまっては、自分の兄への思いも否定してしまうような気がしたから。


「だから、気にしないで。オレ達こうして無事なわけだし、みんな元気で村に戻れるんだから、それで良いでしょ?」


 マルスがそう問い掛けると、傍らのアイクとパルは大きく頷いた。

 彼と同じく両親を亡くしているパルにも、両親を亡くした二人の事を誰よりもそばで見てきたアイクにも、カナンの行動理由とそこにある思いは理解出来ていた。

 三人の優しさにカナンは思わず涙がこぼれそうになった。

 だが、泣いているところなど見られたくない彼女は、咄嗟に俯いて表情が見えないようにする。


「っ、ありがとう、本当に、ありがとう……」


「お姉ちゃん……三人共、本当にありがとう」


 俯いて泣きそうな顔を隠しながら感謝を伝えるカナンの背を優しくさすり、ティアも三人が姉の思いを受け止めてくれた事、自分達を責めないでくれた事に感謝を伝えた。

 それと同時に姉の自分に対する愛を強く感じ、姉にも心の底から感謝していた。


「よーし、それじゃあ村まで全速力で行くぞ! アイク競争しよ!」


 しんみりとした空気を変えるようにマルスが声を上げ、アイクに言いながら櫂を海に突き刺す。


「あ、ああ……。いや待て、何を競争する気だ? 走るのとは違って、どちらかが速く漕いだところで船の進路がずれて村に戻れなくなるだけだぞ」


「あっ、そっか。うーん……まあ、何でもいいから漕ぐぞ!」


 やはりどこか抜けている彼にアイクは少々呆れたような表情を浮かべながら、自身も櫂を海に突き刺して船を漕ぐ準備をする。

 彼のどこか抜けた発言に誰もが思わず笑みをこぼしており、しんみりとしていた船上の空気はいつの間にか明るく軽やかなものに変わっていた。


 どこまでも続いているかのような青い海と白波を掻き分けて、再び船は村を目指して進む。

 天からの日差しと海の煌めきが彼らを明るく照らしていた。




 *   *   *




 船を漕ぎ進め、三人と姉妹はアクティア村に戻って来た。

 村の船着き場に船を泊め、姉妹に連れられながら三人は姉妹の家でもある村長の家を訪れ、神殿であった事や聖霊と無事に会えた事をモーリに報告していた。


「無事に帰って来られたようで何よりだ。カナン、よく務めを果たしてくれたね」


 モーリは孫の無事を喜ぶと共に、少々気難しい性格のカナンが余所者である三人と共に巫女としての務めを果たしてくれた事を嬉しく思っていた。

 祖父に褒めるような言葉を駆けられたカナンは照れくさそうに視線を逸らしながらも、頷いてその言葉を受け止める。


「それから……三人共。最初は少し疑ってしまったが、君達は本当に神がお選びになられた存在なんだね。聖霊様はどのようなお方だったか、聞かせてはもらえないかい?」


「奥にあった石像と同じで……綺麗な、女の聖霊様でした……。気さくで、明るくて……とても、頼もしいです……」


 三人が確かに神の選んだ世界を守る力を秘めた者達であるとモーリは認めた。

 そして、彼らシャウム族が直接会う事の出来ない聖霊について尋ねられると、パルはこの短時間の中で聖霊アテナに抱いた印象を彼に述べる。

 彼女の答えにモーリも姉妹も興味深そうに耳を傾けていた。


「……あ、そういえば、今思ったんですけど」


 パルがアテナについての話を終えたところでふとマルスが口を開き、皆の視線が彼に集中する。


「聖霊様を神殿から連れ出しちゃって良かったんですか? 聖霊様って村で祀っている存在だし……」


 マルスが気にしたのは、村で祀られている聖霊を神殿から連れ出し、更には村からも連れ出してしまう事が本当に良いのかという事だ。

 それは確かに気になると思ったアイクとパルが、彼の言葉に頷いた。


「それならば、心配はいらないよ。聖霊様が選ばれし者を守護するために存在している事は、言い伝えで誰もが知っている。いずれ村を訪れる選ばれし者と共に、聖霊様が旅立たれる事もね」


 マルスの疑問に対してモーリは穏やかな口調で答えていく。


「我々はこれまで海の安寧と聖霊様が神の使命を果たされる事を祈ってきた。聖霊様が村を離れられたとしても、それはこれからも変わらない事だよ。だから、気にしなくても大丈夫なんだ。ただ、その代わり――」


「その代わり……?」


 アクティア村で暮らすシャウム族が祈りを捧げる理由は、聖霊がいた今までも、聖霊が旅立った後も変わらないものだ。

 だからこそ、変に気にしなくて良いのだとモーリは三人に伝えた。

 その後に意味深長な声で続けようとする彼の言葉を反射して、言葉の続きを待った。


「今夜、聖霊様が旅立たれる事を村の皆に伝えねばならない。その集会と祈りの儀式に君達も参加してもらうよ」


 モーリが続けて言ったのは、聖霊の旅立ちを村人に伝えるための集会と聖霊への祈りを捧げる儀式に三人も参加するように、という事だった。

 村が昔から大切に祀ってきた存在であるアテナを連れて行くため村の人々に幾らかの罪悪感を抱いていた三人は、集会と儀式に参加して許しを貰えるのであればと思い、集会と儀式への参加を快諾した。




 こうして報告が終わり、三人は夜が来るまで村の中で過ごす事になった。

 三人はカナンとティアに村を案内され、その途中で知り合った漁師の男達から釣りや素潜りを教わるなどしながら、その時間を過ごした。

 夕暮れ前になると、巫女であるカナンは儀式の準備のため先に村長宅へと戻って行った。

 三人も準備を手伝わせて欲しいと申し出たのだが、今日だけは客人として過ごすようにとカナンに返されてしまい、仕方無く三人は準備を村の若者達に任せる事にした。

 それからはティアと共に、村の子ども達と三人は遊んで陽が暮れるのを待つのだった。

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