↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第6章 海の底に眠りしは
79/132

8.海の底、光に導かれ

聖霊と対面なるか。

 大きな階段を下り、そこから続く神殿の地下空間を三人は進んだ。

 何やら儀式をするような部屋がいくつかあったが、姉妹の言っていた聖霊の石像らしい物は今のところどの部屋にもなかった。


 そうして各部屋を巡りながら、三人が最後に辿り着いたのは地下の最奥にある大きな部屋だ。

 重い扉を押し開けて、三人は中へ足を踏み入れる。

 そこは造りこそ他の部屋と変わらないものの、どこよりも面積が広く、中央には直径一メートル程の聖火台らしき丸い器のような物が置かれており、炎が赤々と燃え盛っていた。

 聖火台は白を基調として、銀色の線で海や魚、船のような模様が描かれている。


 そして、聖火台を挟んでちょうど階段の向かい側には、白の石で作られた立派な石像が待ち構えている。

 髪の長い美しい女性が玉座のような椅子に腰掛け、祈りを捧げているといった構図の石像だ。


「あの石像が、聖霊様の石像かな?」


「多分そうだろうな。となると、ここにいる聖霊様というのは女性なのか?」


 石像を見上げながら、マルスとアイクはそう言葉を交わす。

 聖霊にも性別があるのかと思いながら、二人は石像を見ていた。

 クライスが声こそ低く男らしいものの、容姿や喋り方が中性的であるために、聖霊とは皆中性的な存在なのかと二人は思っていたのだ。


「パル、声はどこからする?」


「……この向こうから、聞こえる……」


 マルスに問われ、パルは石像を指さした。

 彼女の言う「この向こう」。それはすなわち石像の先だ。


「この石像の向こうって……どうやって行くの? 壊すわけにはいかないだろうし……」


 マルスは唸るような声を漏らして石像を再び見上げる。

 石像よりも向こうに行ける扉らしきものはどこにもない。

 この部屋をぐるりと見回してみても、先程開けた扉以外にどこか別の場所に繋がっていそうなものはない。

 マルスには石像を壊す以外に先へ行く方法が思い付かなかった。


「石像なんて……壊した事、ないけど……頑張れば出来るかも……」


「いや、流石に破壊は良くないだろう……」


 怪力の持ち主であるパルが、自分の怪力ならば石像くらい壊せるのではないかと、拳を鳴らしながら石像を見上げる。

 しかし、この石像はアクティア村で暮らすシャウム族が昔から大切にしてきた聖霊の像だ。

 それを壊すなど許される事ではない。

 アイクに引き止められたパルは冗談だよ、と返しながら拳を下ろす。


「どこか触ったら開いたりしないかなぁ」


 そう呟きながら、マルスは石像を触り出した。

 玉座の肘掛けや聖霊像の腕など何となく目に付いた所に触れて、この先に進むための何かはないのかと探っていく。


「おい、大事な像にむやみに触るのは――」


「うわあっ!?」


 アイクがマルスの行動を止めようとした。

 だが、その言葉は彼の驚いた声によって途中で遮られてしまう。

 彼が驚いた声を上げたのは、突如石像全体がシアン色の光に包まれたからだった。

 驚いた彼は咄嗟に石像から離れ、後ろにいたアイクとパルの横に戻って来る。

 石像を包む光は仄暗い部屋を明るく照らし、シアン色の光に照らされた部屋はさながら海の中のようだった。


「お前、一体何をしたんだ……?」


「な、何って、オレはあの石像を触ってただけだよ。それで、手のとこを触ったら急に石像が光り出して……」


 マルスが言うには、祈るように組まれた石像の手に触れた瞬間に突然石像が光り出したらしい。

 彼自身もひどく戸惑った表情を浮かべて石像を見ていた。


「あ……見て……私達の紋章、光ってる……」


 ふと、パルがそう言って自身の右手の甲に視線を落とす。

 彼女の言葉でマルスとアイクも自身の右手を見た。

 まるで石像の光と共鳴するかのように、いつの間にか三人のグローブ下に隠れた紋章が光を帯びており、その輝きはグローブを透過して外へ溢れていた。


 マルスの紋章は赤、アイクの紋章は青、パルの紋章はシアン色の光を放ち、その光は光線となって輝く石像に引き寄せられていく。

 その瞬間、石像が音を立てながらゆっくりと沈み始める。

 石像が沈んでいくにつれて三人の紋章の輝きも弱まり、部屋中を満たしていた光は弱まって元の暗さが戻って来る。

 目の前で起きている事にすっかり気を取られていた三人は、部屋に薄暗さが戻ったところでようやく我に返った。


「今のは一体……」


 アイクはそう呟き、パルは無言のままで、もう一度自身の右手の甲に視線を落とす。

 右手はもう光を放っておらず、熱を帯びているというわけでもなく、まるで何事もなかったかのようだ。


「ねえ、見て! 石像がなくなったら、道が出来てる」


 不意にマルスが注目するよう声を上げて、石像のあった場所を指さす。

 その声でアイクとパルは彼の指す方に視線を移した。

 石像は床に沈んで姿を消しており、その代わりとでも言うように石像の背後にあった壁には暗い穴が口を開いている。

 穴は先がまるで見えないほどに暗く、そこから続いているのであろう道がどのような形状で、どれほどの道幅なのかも分からない。


「これで『石像の向こう』に行けるようにはなったみたいだな」


「よーし、これで聖霊様に会えるね。さっ、行こ行こ」


 マルスはそう言うと、軽い足取りで壁に開いた入り口に入って行く。

 その足取りには、聖霊に早く会いたいという彼の好奇心が滲み出ていた。

 好奇心のままに進む彼の後ろに、少々警戒した様子のアイクと、この先で待つ聖霊がどのような者なのかと考えるパルが続く。


 三人が通路に入った瞬間、暗闇に包まれていた通路内に灯りが灯った。

 通路内に人が入って来た事に反応してか、壁に設置されている巻き貝を模した白の照明具にシアン色の炎が灯っている。

 通路は床も壁も白一色で、シアン色の炎が放つ光が反射して揺らめく海の中にいるような気分にさせられる。

 道は一直線に続いており、十メートルほど先に出口らしき扉が見えた。


 歩みを進め、銀の装飾が施された両開きの白い扉の前に三人が立つと、マルスがゆっくりと腕に力を込めてその取っ手を押す。

 僅かに蝶番の軋む音を立てて、扉は彼の押す力に合わせて開いていく。


 扉の先は広い部屋に繋がっていた。

 床はシアン色の透き通った石で、壁は白の石で出来ている。

 壁際の床は他より数段低くなっており、そこには水が流れ、部屋の形をなぞるように循環していた。

 左右の壁からは、どこからか流れ出ている水が滝のように天井から壁際の床に流れ落ちている。


 扉から真っ直ぐに歩いて行くと数段の階段があり、それを登った先には白い石で出来た台座のような物が佇んでいた。

 クライスのいたシュトゥルム大氷窟の最深部にあった台座と同じような見た目で、高さも同じくマルス達の腰ほどの高さをしている。

 そして、台座の中央には手のひらほどのシアン色の美しい宝玉がはめ込まれていた。


「これに触れば聖霊を呼び起こせるんだよね」


 マルスはクライスを呼び起こした時の事を思い出しながら、目の前にある宝玉を見つめる。

 一体どのような聖霊が姿を現してくれるのか、大きな期待と僅かな警戒心の滲み出た表情を三人は浮かべていた。

 どことなく緊張した様子で真ん中に立っているマルスが、宝玉に向けて右手を伸ばす。

 だが、彼の指先が宝玉に触れようかというその時。


「やっと見つけたわ」


 不意に女の声が響いた。

 それはパルのものでもなければ、カナンやティアのものでもない、全く聞き覚えのない声だ。

 三人は聖霊への興味に溢れていた表情を一瞬の内に警戒に変え、声のしてきた入り口の方を振り返った。

 視線の先には、艶やかな金髪と上品ながらも色気のある濃い紫色の瞳をした、気品ある美貌の少女が微笑みながら立っていた。


「ご機嫌よう、勇者さん」


 警戒する彼らとは真逆に落ち着き払った優雅な口調と所作で、その少女は身につけているドレスの裾を摘まんで軽い挨拶をしてきた。


「何者だ……?」


 どことなく異質な雰囲気を持つその少女にアイクは不信感を抱いていた。

 この神殿に自分達以外のヒュム族がいる事自体、まず考えられない事だ。


「あら、相手に名を問う前に自分から名乗るのが礼儀ではなくて? まあ、あたしは貴方達の事を知っているから、今はいいけれど……」


 少女は上等な生地の黒い手袋に包まれた指を顎に添えて、軽く首を傾げながら言う。


「初めまして。あたしは、魔界アヴィスの四天王の一人……()()よ。以後、お見知りおきを」


 妖しくも美しい少女の正体は、以前対峙したゼロスという少年と同じく、邪神ハデスの手先である四天王の一人であった。

 そして、その名を()()といった。

 その名を聞いた三人は、言うまでもなく驚いたような表情を浮かべる。


「ルナ……」


 マルスが彼女の名を口にする。

 ルナ、それは数日前に出会った魔導師の青年エヴァが探している人物の名と合致した。

 名前だけでなく、金髪に紫の瞳という容姿も彼が探しているルナと目の前にいるルナは同じだ。

 まさかこんなに早く見つけられるなんて、そうマルスは思った。


 とはいえ、彼女がエヴァの探すルナであるという決定的な証拠は無い。

 同じ容姿と名前の人物なら、広い地上界であればもう数人はいるかもしれない。

 目の前のルナをエヴァが探している相手と断定するには、もう少し探りを入れて決定的な証拠を得る必要があった。


「さて、あたしが何者か分かれば、あたしが何のために貴方達の前に現れたか……言われなくても分かるでしょう?」


 複雑な表情を浮かべている三人を他所に、ルナはそう続ける。

 アヴィス四天王である彼女が三人の前に現れたという事。それは邪神を滅ぼすため神に選ばれた三人を亡き者にする事以外に何があろうか。

 その事を思い出した三人は彼女とエヴァの関係を確かめるためにも、まずは彼女に勝たねばならないと思った。

 三人はすぐさま臨戦態勢を取り、彼女に再び警戒の視線を向ける。


「うーん…………ちょっと貴方、茶髪の貴方」


「オ、オレ?」


 警戒する中でふとルナに呼ばれたマルスは、僅かに動揺しながら自分を指さす。


「そう、貴方よ。もう二歩左に寄ってちょうだい」


 彼女の言葉の意図も分からず、マルスは馬鹿正直にその言葉に従って左に二歩動く。

 真ん中に立っていた彼が左に動いた事で、パルと彼の間には一人分ほどの間が空き、彼とアイクは半歩ほどの間を空けて立っているという形になった。


「おい、敵の言葉にまんまと乗る奴があるか」


 マルスが馬鹿正直に従ったものだから、アイクは反射的にそう言った。

 彼の言葉にマルスは「あっ」と声をこぼすと、慌てて元いた位置に戻ろうとする。


「そのままで結構よ」


 マルスが元の位置に戻ろうとするのよりも僅かに早く、ルナが右手を彼とアイクに向けた。

 その瞬間、二人の体が彼女の魔力に包まれる。

 魔力は瞬時に球体を形成し、二人をその中に閉じ込めてしまった。


「マルス、アイク……!」


 唯一そこに巻き込まれなかったパルはすぐさま駆け寄って魔力の球体を破壊しようと、咄嗟に得意の蹴りを放った。

 だが、球体に脚が触れた瞬間に発生した電撃に彼女の脚は弾かれ、その予期せぬ衝撃に彼女は後方の床に倒れ込む。


「パルっ!」


 二人は声を揃えて倒れ込んだ彼女を呼ぶ。

 助けたくても助けられない。それは二人も、パルも同じだった。

 そうしている間に気がつくと、球体の下部から徐々に水が溜まり始め二人の靴を濡らしている。

 水はどこからともなく増えてきており、もう足首は完全に水に浸かっていた。

 このまま自分達を溺死させる気なのだと反射的に悟ったマルスとアイクは、手にしていた剣で内側から魔力の球体を破壊しようと試みる。

 だが、まるで効果はなく、小さな切れ目の一つすら入る気配はない。


「無駄よ。その結界は物理攻撃じゃあ破壊出来ないわ。そこから出るには、あたしに勝つか、あたしがその魔法に使った魔力よりも強い魔力で攻撃するか、その二択よ。もっとも、貴方達の誰からも結界を破壊出来るだけの魔力は感じられないけれど」


 ルナを倒すか、彼女の使用した魔法よりも強い魔力で結界を攻撃するか、与えられた選択肢は二つ。

 だが、今の三人には後者の方法は無理だ。

 当然ながら高度な魔法ほどより強い魔力を込めなくてはならない。

 彼女がマルスとアイクを閉じ込め、徐々に溺死させるために使用した魔法はかなり高度な魔法であり、言うまでもなく相当な魔力が込められている。

 三人の中で最も魔法を得意とするパルでも、今の彼女が使用出来る魔力では少々力不足だ。

 一か八かでありったけの魔力で攻撃したとしても破壊出来ない可能性の方がずっと大きく、二人の救出に失敗して魔力も尽きたところを突かれて全滅になる恐れもある。


「ごめんなさいねぇ。あたし、男と戦うのはあんまり好きじゃないの」


 ルナはそう言って、床から立ち上がったパルに視線を向ける。

 彼女と視線のぶつかったパルは、覚悟を決めて構えを取る。

 幸いにも相手は物理戦が得意ではなさそうな様子だ。

 間合いに入る事が出来れば勝機はあるだろう、そうパルは思った。


「二人の事……絶対、助ける」


「うふふ、せいぜい頑張るといいわ。さあ、踊りましょう?」


 ルナは妖艶に微笑み、舞踏会の踊りを始めるために相手の手を取るかのような優雅な所作で、魔法を放つため右手をパルに向ける。

 その時ふと、パルは彼女の右手から()()()()()()()()()優しいそよ風のような魔力を感じた。


(あれは……誰の魔力……?)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。