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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第4章 お前は誰だ?
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7.天才魔導師が願う事

どんな者にも、大切に思う人がいる。

 しばらく頭を掻いて下を向き、悔しさに混じって僅かに心に浮かんでいた嬉しさが顔に出てしまうのを抑えるようにしていたエヴァは、ようやく落ち着いてきたのか、小さく短い溜め息を一度吐き出すと顔を上げた。


「……なあ、一つ話したい事と、頼みたい事がある。聞いてもらえるか?」


 エヴァはつい先程までの人をおちょくるような物言いではなく、やや真面目な口調でそう尋ねてきた。

 急に雰囲気が変わった彼を不思議そうに見つつ、三人は彼の言葉に頷く。


「ありがとな。立ち話も何だから、俺の部屋に案内するぜ。……っと、そういやまだお前らの名前、ちゃんと聞いてなかったな」


 三人が自身の申し出を受け入れてくれた事に感謝してから、エヴァは自身の部屋へ入るための魔法を使おうとした。

 だが、その直前でまだマルス達の名前をきちんと聞いていなかった事を思い出し、視線を三人と傍らでずっと様子を見ていたクライスに戻す。

 マルス達もそこで自分達がまだ彼に名乗っていない事を思い出していた。

 エヴァに状況を説明するため、マルスとパル二人のものだけであったが、何度も名前を口にしていたせいで、すっかり名乗った気になっていたのだ。


「そっか、そういえばまだ名乗ってなかったね。オレはマルス。よろしく!」


「私、パル……」


 もう何度も言ってるから知ってるだろうけど、とマルスは呟くように最後に付け足した。

 その流れに続いて、同じく何度も名前が元に戻るためのやりとりの中で出てきていたパルも名乗る。


「俺は、アイク・ディルニスト。こっちは聖霊のクライスだ」


 アイクは自身の名を告げると共に、自身の守護聖霊であるクライスも紹介した。

 クライスは軽い会釈をすると、小さな青い光となってグローブに隠れるアイクの紋章の中へと姿を消してしまう。

 好奇心旺盛なエヴァの興味が自分に向いている事を感じているが、今は自分への興味よりもマルス達に聞いてほしい話があるという彼の思いの方が大事だと分かっており、場を弁えて姿を消したのだ。


「お前ら、その聖霊とはどういう関係なんだよ」


「話すと少し長くなる。だから、先にエヴァの話を聞かせてもらえないか?」


 姿を消したクライスに驚き、ますます三人と聖霊という特異な存在であるクライスの関係について興味を抱いた様子のエヴァだったが、今最も大切なのは彼の話だと考えたアイクはそう言って話を進めるよう促した。


「ああ、そうだな。っていうかお前、ディルニストって……グラドフォスの騎士団長の?」


「ああ、そうだが……知っているのか?」


 エヴァはアイクの苗字である「ディルニスト」に反応を示した。

 アイクは軽く首を傾げながら、彼に聞き返す。


「俺の家も似たような家だし、知ってて当然。あ、俺、エストリア帝国の魔導兵団長の家系でさ」


「エストリアの、魔導兵団長……!?」


 軽い口調で告げられたエヴァの出身に対して、マルスが酷く動揺した声をこぼす。

 彼の隣でパルも動揺を隠せない様子で、()()()の恐怖なのか、怒りなのか、僅かに震えていた。

 エストリア帝国との戦争で両親を失っている以上、二人が動揺してしまうのも無理は無かった。

 無論アイクも動揺しているのだが、自分よりも二人の方が心配で、二人を宥めるようにその肩を押さえる。

 二人の様子が突然変わり、事情の分からないエヴァは二人とはまた別の動揺を顔に浮かべて、唯一様子があまり変わらなかったアイクを見た。


「すまない。二人は八年前のエストリア帝国とグラドフォスの戦争で両親を亡くしているんだ」


「そう、だったのか……」


 エヴァは酷く気まずそうな表情を浮かべた。

 八年前――それは彼が十歳で、戦争の事などまだあまり実感が持てていないような年頃だった時だ。

 まして当時の戦争は、エストリア帝国からかなりの遠方にあるグラドフォスに帝国軍が攻め入るといった形であったため、一層当時の彼には想像の及ばないものだった。


「……気休めにしかならねぇし、俺がどうこう言ったところで何にもならねぇとは思うけど……俺の生まれ故郷が、お前らに取り返しのつかない事をして、悪かった。本当に……悪かった」


 エヴァは深々と頭を下げて、酷く申し訳なさそうな声で謝罪の言葉を口にした。

 自分が直接関わったわけでは無いにしても、家も国も捨てて出てきたにしても、自分と故郷の行いを無関係には出来なかった。

 つい感情が抑えられずに動揺し、結果として今度はエヴァ自身が全く悪くない事で謝罪をさせてしまい、マルスとパルは我に返る。

 そして、慌てて彼の頭を上げさせ、謝らせてしまった事を謝った。


「あの時は俺もまだガキだったし、当時の兵団長は俺の家の奴じゃなかったから、尚更何も知らなかった。だけど、知らなかった、無関係だ、で済ませるわけにはいかねぇ。本当に悪かった」


 それでもまだ謝罪を重ねてくるエヴァに、三人は一層強くもう謝らないでほしいと伝える。

 彼に悪い事をしてしまったと思ったマルスは、どうにか話題を変えて彼がもう謝らなくていいようにしようと、頭の中で必死に話題を考える。


「……あ、そういえば、当時の兵団長はエヴァの家の人じゃないって言ってたけど、そういう役職って何だっけ……セシュウ? みたいなのじゃないの?」


 咄嗟に思いついたのは、そんな話題だった。

 エヴァの話の中で、戦争当時の魔導兵団長は彼の家の者ではなかったと聞いて何となく疑問に思っていたのだ。


 地上界ヒュオリムのほとんどの国では、王を初めとして国の上位の地位の多くは世襲制となっている。

 アイクの実家であるディルニスト家もその一つだ。

 エストリア帝国の魔導兵団長とは、グラドフォスで言うところの騎士団長にあたる役職であり、当然エヴァの家――エルフォード家が世襲しているものだとマルスは思っていた。

 だが、彼の話からすると、どうも世襲制とはまた違うらしい。


「エストリアの魔導兵団長の家系は二つあってさ。俺の実家のエルフォード家とヴィクトワール家っていう二つ。んで、四年ごとに皇帝がそれぞれの功績やら何やらを評価して、次の四年間の兵団長を任せる家を決めるんだ」


「随分、確執が酷そうな関係だな……」


 初めて知った事にマルスとパルが興味深そうに頷きながら話を聞いている傍らで、アイクがぽつりとそう呟いた。


「そりゃあな。殺し合いに発展しないだけマシだと思うぜ? その確執がうざったくて堪らなかったってのも、俺が家を飛び出してきた理由の一つだからな」


 エヴァは実家にいる頃に経験してきた嫌な出来事の数々を思い出して苦い顔をし、深い溜め息をついた。


「あと俺んとこさ、八人姉弟なんだけど、上も下も女ばっかなんだよな。だから、親父にはめちゃくちゃ期待されるし、姉貴達には良いように弄られるし……面倒すぎるから、全部放り出してきたんだ。自由っていいぜぇ」


 纏わり付いた鎖を引きちぎるように、エヴァは思いきり両腕を伸ばした。

 元来、彼は束縛される事を嫌う自由奔放な性格で、家同士の確執や貴族としての決まり事、両親からの期待といったものに自分が縛られているのが嫌で堪らなかった。

 家を飛び出してこの塔で生活する今、彼を縛るものは何も無いため、彼はここでの生活を非常に気に入っていた。


「ああ、そうだそうだ。お前らに聞いてほしい話ってのは、俺の家と敵対関係にあったヴィクトワール家に関係してるんだ。……って、また立ち話になりそうだな」


 エヴァはすっかり話が脱線している事に、部屋に案内すると言っておきながらずっと立ち話を続けてしまっていた事にやっと気づいたようだった。

 そして、今度こそ部屋に案内すると言って、彼は右手を地面に向ける。

 その瞬間、彼とマルス達三人がちょうど収まるほどの魔法陣が展開された。

 三人が驚いている内に魔法陣から目映い光が溢れ、魔法陣の上にいる四人の体を飲み込んでしまった。





 *   *   *





「もう目開けていいぜ」


 そう言うエヴァの声が聞こえ、三人は眩しさに閉じていた瞼を恐る恐る開く。

 三人とエヴァがいるのは、先程までいたゴーレムの瓦礫が置いてある空間ではなく、生活感のある部屋の中だった。

 さほど広い部屋ではないが、一人で暮らす分には十分な広さだ。

 部屋は家具や生活用品以上に、魔導書を含む様々な書物や薬草、薬を作るための道具、魔法陣や古い言葉が記された紙切れなどで溢れかえっている。

 あまり整理のされていない、ごちゃごちゃとした印象の部屋だった。


 薬草や魔法薬の独特な匂いが時折鼻を掠めていき、マルスは何とも言えない顔をしてみたり、出そうになるくしゃみを堪えていた。

 エヴァはもうそういった匂いなどにはすっかり慣れていたのだが、彼のそんな様子を見て窓を開け、空気を入れ換えてやる。


 窓を開けに行くエヴァを目で追っていたマルスは、ごちゃごちゃとした印象の部屋で窓の近くの一カ所だけが妙に綺麗に整えられているのに気がつく。

 そこには花台が置かれており、上には紫色の美しい花を生けた一輪挿しがあった。

 何となく、その花の名前が気になったマルスはパルに小声で尋ねる。

 パルは両親が生前花屋を営んでいたため、花には詳しいのだ。


「あれは、アネモネって言うの……。花言葉は……紫だから……確か、あなたを信じて待つ……。エヴァもお花、好きなのかな……?」


 ご丁寧に花言葉まで添えて花の名前を教えてくれた彼女に感謝を伝えてから、マルスはもう一度アネモネの花を見た。

 彼女が言うように、エヴァにも花が好きという意外な一面があるのかもしれない。

 マルスはそう思いながら、着ていた緑色の外套を脱いで椅子の背もたれに掛けているエヴァに視線を移した。


「俺が研究してんのは、特別強力な呪いを解く魔法なんだ」


 外套を椅子に掛けるとエヴァはそう言いながら三人を適当な所に座らせ、湯を沸かすための道具に魔法で火を点ける。

 グラドフォスでは、特に庶民階級では魔法を用いるような道具がほとんど普及しておらず、物珍しいその道具にマルスとパルは幾らか興味を引かれていた。

 だが、すぐにエヴァの話を聞くという目的を思い出して、視線を彼に戻す。


「ヴィクトワール家に仲の良かった奴がいてさ。俺にとって……とにかく大切な相手だ。呪いで苦しんでいるのは、そいつなんだ」


 そう語る彼の瞳には、再び憂いの影がかかっていた。


「生まれつきの呪いだった。自分の意思とは無関係に魔力を暴走させる呪いだ。魔力を酷使したり、感情が高ぶっている時なんかは特にな。そして、暴走しすぎれば、いつかは魔力が本人の自我を支配して、手当たり次第に破壊する化け物になる……そんな呪いだ」


 彼の言う幼馴染みは、生まれつきの呪いを背負っていた。

 その呪いは魔力を暴走させるものであり、暴走しすぎればいつかは魔力に自我を支配され、手当たり次第破壊してしまう化け物と化すような恐ろしいものだった。


 魔力を暴走させるような呪いの強さは、呪いの持ち主の潜在魔力に比例する。

 アイクとパルはどこかで聞いた、あるいは見たそんな話を思い出していた。

 魔導国家という名を冠するエストリア帝国の魔導兵団長を務める家系の者であれば、当然魔力は強いため、呪いによる本人や周囲への影響は非常に大きいだろう。

 知識のある二人には、その人物がどれほど苦しんだのかが容易に想像出来た。


「俺はその呪いを解くために、ずっとずっと研究を重ねてきた。おかげで魔法の腕はかなり上がったけど、その呪いを解く魔法は未だに完成しない」


 いつの間にか沸騰していた湯を新しい茶葉の入ったティーポットに注ぎ、話を続けながらエヴァは紅茶をカップに注いでいく。

 彼の苦しい思いが漂う部屋に、紅茶の優しい香りが広がった。

 出された紅茶を受け取って一言感謝をしてから、三人は一口紅茶を飲む。


「……その幼馴染みは、今どうしているの?」


 口に含んだ紅茶を飲み込んでから、マルスが問いかけた。


「……分からねぇ」


 マルスの問いかけに、エヴァは一言だけそう答える。

 思いも寄らない彼の答えに、マルスは思わず聞き返した。


「色々あって……あいつは、国から姿を消した。どこにいるのかも、生きているのかも分からねぇ。でも、俺は生きてるって信じてる。あいつを探し出すためにも、俺は家を出てきたんだ」


 エヴァは詳しい事まで語りはしなかったが、その幼馴染みの人物はある日突然エストリア帝国から姿を消した。

 その人物が今どこで何をしているのか、生きているのかすらも彼は知らない。

 だが、きっとどこかで生きているという不確かな希望を信じて、彼は家を飛び出してその人物を探し続け、呪いを解くための研究を続けているのだ。


「お前らに頼みたいのは、あいつを探すのに協力してもらえねぇかって事だ。お前ら、旅してんだろ? そのついでで良い。勿論、俺も全力で探す。頼めるか……?」


 エヴァは縋るかのような声でそう頼んできた。

 彼の頼みとは、その幼馴染みの人物を探すのに協力してもらえないかという事だった。

 旅をしている三人に協力してもらえるのならば、自分一人で探すよりももっと広く、細かな所まで探す事が可能になると彼は考えていた。

 そして何より、自分の本質を見抜いてくれたマルスと彼の仲間であれば、その人物を見つけ出してくれるのではないかと淡い期待を抱いていたのだ。


「そういう事なら、勿論。いいよね?」


 マルスは大きく頷いてから、アイクとパルにも賛同を求める。


「ああ、いいだろう」


「エヴァの、大事な人なら……きっと、見つけてみせる……」


 アイクとパルも頷きながら、快くエヴァの頼みを引き受ける。

 あれほど粗野な言葉で上からものを言い、常に余裕ある表情を浮かべている彼が、酷く重々しい声と切なげな表情で語り、縋るように頼んできた事から、三人は彼を無視など出来なかった。

 三人共に困っている人を放ってはおけない性格であるため尚更だ。


「……ありがとな」


 ぽつりと感謝を伝えるエヴァの声は嬉しさと安堵に満ちていた。

 その表情も同じで、ほんの先程まで不敵な笑みの浮かんでいた気品のある顔は、今ばかりは優しく綻んでいるのだった。

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