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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第1章 動き出す運命
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3.真夜中の探検

大人には内緒の、彼らの小さな冒険。

 三人が別れてから数時間が経ち、グラドフォスには夜が訪れていた。昼間の賑やかさが闇に溶けたかのように城下街は静寂に満ちている。まだ賑わいを残していると言えば、酒場のある通りくらいだ。


 静かな夜の闇に包まれた街の中を駆け抜けて、マルスは約束の場所へと向かっていた。

 様々な音や声が響いていた昼間とはまるで違い、辺りに響くのは自身の足音だけで、どことなく心細さを感じる。違う街、あるいは世界にいるのではないかという錯覚に陥ってしまいそうだ。


 早く二人に会って心細さを払拭したいマルスは森の中へと足を踏み入れると、約束の場所まで全速力で駆ける。

 夜の暗い森でも彼が迷わずに進んで行けるのは、入り口から点々と置かれた光る石のおかげだった。この石はグラドフォス地方にはよくあるもので、日光を吸収して夜間に発光する。今夜のために、三人は前々からこれを道に置いて準備していた。


 その石の光を辿って、マルスは約束の場所――昼間に集合した森の開けた場所に到着した。そこには昼間と同様に、すでにアイクとパルの姿があった。


「お待たせ!」


 二人に駆け寄りながら、明るい声でマルスは言う。

 遅刻癖のあるマルスだが、今夜ばかりは時間ぴったりにやって来た。


「こういう時だけはきっちり時間を守るんだな、お前は」


 時間通りに着いたというのに、昼間と変わらずどことなく呆れたように呟くアイク。それを聞いて、マルスはまたしても昼間のようなムッとした表情を浮かべて言い返そうとした。


「マルスも来たから、早く、行こ……? 夜明け前に帰って来られないと……アイク、怒られちゃう……」


 それを見かねたパルが、言い争いに発展しないうちに口を挟んだ。

 マルスは言うまでも無く、しっかり者で大人びているアイクでもまだ年相応に子どもっぽい面も持ち合わせており、一度喧嘩を始めると時間も周りも見えなくなってしまう。

 そうなってしまえば、彼がわざわざ父親の目を盗んでまで計画を実行した意味が無くなる。


「……そうだな。勝手に出てきたのがバレれば、今度こそ外出禁止にでもされかねない」


 アイクは彼女の言葉に頷く。マルスも彼女の言葉で冷静になり、出かかっていた反論を飲み込んだ。そして、気分を切り替えて仏頂面を笑顔に戻す。


「じゃ、早速行こう!」


 マルスの明るい声を合図に、三人はさらに森の奥へと足を踏み入れて行く。

 夜の森は昼間とは違い、不気味な雰囲気が漂っていた。三人の歩いている道は他に比べて月の光がよく差し込んでおり、灯りが無くとも歩く事が出来る。

 とはいえ、やはり不気味な事に変わりは無い。風に揺れる森の木々の葉が擦れる音が、より一層不気味な雰囲気を際立たせている。遠くでは梟の鳴く声が響いていた。


「夜の森って、怖いなぁ……」


 幼い頃から霊的なものが怖いマルスは、「オバケが出ませんように」と心の内で祈る。


「オバケ、出たりして……」


「なっ、や、やめてよ!」


 まるでマルスの心の内を見透かしたかのように、ふとパルが呟きをこぼす。びくり、と肩を竦めてやや裏返った声でマルスは言い返した。


「まあ、魔物だっているんだ。幽霊の類いの一匹や二匹、いたとしてもおかしくはないだろうな」


「ほんとにやめて! オバケだけは嫌い!」


 怯える様子を面白がるような口調のアイクの言葉に恐怖心がさらに増してきたマルスは、からかう彼の言葉を遮るように声を上げる。

 マルスは周囲の茂みや暗がりに何かいそうな気がしてきて、周囲に目を向けるのが怖く感じていた。何もいない何もいない、と胸の中で唱えながら彼は前だけを見る。


「マルス、洞窟平気なのに……オバケ、怖いの……?」


「だって、洞窟はお宝とかがあるかもしれないって夢があるでしょ。でも、オバケって怖いだけだし、夢もロマンもない」


 マルス曰く、洞窟は夢やロマンを抱かせてくれるものの、オバケは怖いばかりで夢やロマンのようなものは抱かせてくれないらしい。


「お前は本当に変わっているな」


「変なの……」


 洞窟とお化けの怖さの違いについて語る彼に、アイクとパルはそう呟いて肩を竦めて笑った。笑う二人に対してマルスは「笑わないでよ」と文句を言う。

 だが、普段通りの雰囲気になった事で恐怖心が幾らか薄らいだらしく、その顔には笑顔を浮かべていた。

 夜の静まり返った不気味な森はいつの間にか、三人の賑やかな声でどこか明るくすら感じられるようになっていた。先程までは夜の闇がいやに強く感じられたが、今では月の柔らかな光や星の煌めきの方が強くなっていた。




 *   *   *




 奥へ奥へとしばらく歩き続けていくと、三人は岩壁に突き当たった。その岩肌には、ぽっかりと洞窟が真っ暗な口を開けている。

 これこそが三人の目的地である洞窟だった。郊外の森の奥にあるためにグラドフォスの国民のほとんどが知らない洞窟だが、その存在を知っているごく一部の物好きな人々からは「レジェンダの洞窟」と呼ばれている。

 入り口から中を覗いてみれば、先の見えない果てしない闇が続いているのが分かる。ずっと見つめていると、その闇に引き込まれてしまいそうだ。


「なんだか、急に緊張してきた……」


 マルスは洞窟の中を見つめながら、その先に何があるのかという期待と先の見えない闇の恐怖とに緊張の表情を浮かべていた。


「本物の魔物がいるからな。気を引き締めて行こう」


 アイクはそう言って自身と二人を激励する。

 ある程度の武術や魔法を嗜んでいる三人だが、本物の魔物と戦った事はまだ一度も無い。魔物という未知の存在に対して、口には出さないものの三人は不安を感じていた。

 だが、ここまで来た三人は魔物への恐怖よりも、三人だけで初めて行く洞窟探検への好奇心と期待の方が大きかった。

 大人には内緒で、子どもだけで未知の場所に足を踏み入れる。これほど少年少女の心を高ぶらせるものがあるだろうか。


 三人は強い好奇心と共に各々小さな不安を抱きつつ、マルスを先頭にレジェンダの洞窟へと足を踏み入れた。

 洞窟内は夜の闇よりもずっと深く濃い、漆黒の闇で覆われていた。夜である事も相まって、ほんの少し手前ですら見えないほどだ。


「中に入ると、もっと暗く感じるね」


 マルスは目を見開いたり、細めたりしながら暗闇の先を見つめている。しかし、森のように月明かりがあるわけでもない洞窟の内部はいくら凝視しても先が全く見えない。


「パル、灯りを頼む」


 アイクがそうパルに頼むと、彼女は頷いて前方に手をかざした。その瞬間、彼女の手のひらに魔力が集まっていく。


「光よ、我が行く先を照らせ……」


 かざされたパルの手に魔力が集まっていき、彼女の片手ほどの大きさをした光の玉が三人の前に現れた。これは光魔法の一種で、松明などの明かりの代わりになるものだ。

 魔法とは、術者の魔力と自然に多数存在する精霊の力が合わさる事で発動する奇跡の技だ。

 精霊は神のしもべであるとされ、普通の者には見えない存在だが、ごく稀に彼らの声を聞く事の出来る者もいる。ちなみに、パルはその希有な存在の一人だ。


 魔法の光は三人の先を浮遊しながら、行く手を照らし出す。

 三人は出来る限り寄り添うようにして、魔法の光の後を恐る恐るといった足取りで歩いた。岩で出来た洞窟内は至る所が隆起していて歩きにくく、時折足元に注意を向けていないと躓いてしまいそうだ。何度も視線を足元に落としながら、三人は奥を目指す。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 3.真夜中の探検 読みました。 昼と夜の違いの描写が世界観に深みを加えていて良かったです。 「光よ、我が行く先を照らせ……」というフレーズもかっこいいですね。好きな感じです。(^ー^)
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