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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第3章 氷の刃
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12.呼ぶ声の正体

 三人は逃げ込んだ岩壁の隙間のさらに先に続いている暗い細道を奥へ奥へと進んで行く。

 狭い空間に三人の呼吸音と、岩壁に衣服がこすれる音だけが響いている。

 逃げ込んだ隙間よりも幅が狭く、時折頭や腰を岩の出っ張りにぶつけ、特に狭くなっている所では岩肌で軽く頬を擦ってしまった。


 なかなか出口が現われず、空気の流れがあるとはいえ、本当にこの道がどこかへの抜け道なのかと三人は疑いたくなってくる。

 だが、パルの耳には先へ行くほど呼ぶ声が大きく聞こえており、それを伝えてくれる彼女の言葉だけがマルスとアイクにとって唯一の希望だった。


 進みにくい道故に少し進むのにも時間がかかって、かなり長い時間この細道を移動しているように三人は感じてしまう。

 出口はまだか、と何度目か心の中でマルスが呟いた時、ふと先頭を行くアイクが声を上げた。


「明かりが見える……。二人共、出口らしいものが見えてきたぞ」


 文字通り希望の光が見えたアイクは、どこか嬉しげな声で二人に報告した。

 出口を見つけたと言う彼の言葉に、マルスの表情が暗闇の中でも分かるほどに明るくなる。

 ようやく出られる、とパルは安堵の息をついた。


 早くこの空間から出たいという想いが、三人の足を速めていく。

 特に先頭を歩くアイクは、後ろに続く二人のためにも早く出口に辿り着かねばと考えながら、多少の擦り傷など気にせず必死に前へ進む。


 言葉を交わす事も無く必死に進んで行くと先に見える光が次第に強くなり、一番後ろにいるマルスにもその明かりが見えるようになってくる。

 そして、先頭を歩いていたアイクの足が岩壁の隙間を抜け出た。

 そのまま彼は慎重に足をついて、岩壁の隙間から体も外へ出す。

 彼の後に続いてパルとマルスも隙間から這い出るようにして抜け出してきた。


 ようやく解放感のある場所に出られた三人は深呼吸して新鮮な空気を取り入れると同時に、周囲に目を向ける。

 不思議な事にその場所は、同じシュトゥルム大氷窟であるものの先程までいた場所とは全く異なる、まるで何かの神殿の内部のように見える。


 自分達が立っている地面は、洞窟内と同じく氷で出来た地面であったが、煉瓦のように均一な形をしている氷が並べられて出来た床だった。

 入り口で見た氷の地面同様に非常に透明度が高く、傷一つ付いていない氷の煉瓦で出来た床は滑りやすそうだとマルスの目に映る。

 しかし、彼がどれくらい滑りやすいのかと片足で軽く床を擦ってみるが、本物の煉瓦で出来ているかのように滑る感覚は一切無かった。


「ここ、一体何なの……?」


 床から視線を上げたマルスは不思議そうな顔をして辺りを見回す。

 奇妙な事に、この場所には入り口らしきものがどこにも見当たらず、唯一出入りが可能だと考えられるのは三人が通ってきた細道だけのようだ。

 とはいえ、三人の通った道は神殿内部から見ると、ただ古くなった壁に大きな亀裂が入って出来たものに過ぎなかった。


 随分昔に造られた神殿らしく、白い壁はくすみ、所々ひび割れや欠損が目立つ。

 氷で出来た床は透き通った青色で、壁と違い美しさを全く失っていなかったものの、やはりひび割れや欠損は見受けられ、うっかりしていると躓いてしまいそうだ。


 足下に気をつけながら辺りを見回して進んでいくと、奥の方に祭壇のような所があるのが三人の目に入った。

 何かあるのではないかと思った三人はその祭壇へと続く階段を登る。


 階段を登り切った先には、ちょうどマルスの腰ほどの高さをした白い石で作られた台座が置かれていた。

 台座の側面には古代文字が刻まれている。

 そして、台座の上部にはその四角い面いっぱいに一つの紋章らしきものが描かれ、その中心に手のひらよりやや大きな青く透き通った輝きを放つ宝玉が埋め込まれていた。


「何だこれ?」


 マルスは台座に顔を近づけて、まじまじと不思議そうに青い宝玉を見つめる。

 彼の傍らではアイクが側面に刻まれた古代文字を解読しようとしていた。


「ここ、ここから……声、する……」


「この玉から?」


 二人が宝玉と台座を見つめている間、ずっと宝玉の方に意識を向けて耳を澄ましていたパルが、その青い宝玉から声がすると言い出した。

 その言葉を聞いたマルスは一層怪訝な顔をしながら、何気無しに目の前の宝玉を指先で軽くつついてみる。

 すると突然、宝玉が目映い青い光を放った。


「なっ、なんだ!?」


 突然発光した宝玉に驚いたマルスとアイクは、咄嗟に警戒して台座から離れる。

 だが、パルだけはその場を動こうとはせず、青い光を放つ宝玉を見つめていた。

 何かあってはまずいと思ったマルスが、彼女を自分達の方に引き寄せようとする。

 しかし、それよりも早く青い光が宝玉に吸い込まれるように消え、その奇妙な様子にマルスは彼女の手を掴む直前で静止した。


 その直後、どこからか凜とした、男のものと思われる声が響いた。


「この感覚……そうか、ようやく現われたのか……」


 やや低い凜としたその声は、どこか憂いを帯びているように聞こえる。

 マルスはどこから声がするのかと首を忙しなく動かして辺りを見回し、アイクは剣の柄に手を置いて警戒している。


「ど、どこから声が……?」


 横や後ろ、上や下を見回しながらマルスはそう呟く。

 すると、一人表情を変えずにいたパルが静かに台座を、台座の上に埋め込まれ青い宝玉を指さした。


「えっ、あの玉が喋ったの!?」


 何度目かの驚きの表情を浮かべたマルスは警戒しつつも、抑えられない好奇心に引っ張られるように早足で台座の元へ歩いて行く。

 いつものように好奇心が先走っているのであろう彼に、これまたいつものように呆れと心配の感情を抱きながら、アイクは剣の柄から手を離さずに彼の後をついていった。

 台座に再び近づいたマルスは、もう一度喋らないかと期待した目で宝玉を凝視する。


「……何とも失礼な輩だな」


 再び凜とした低い声が響いた。

 マルスの呼び方と見つめてくる視線に耐えられなくなったかのような物言いだった。

 今度は確かに目の前の宝玉から聞こえてくるのが分かる。


 気を取り直すように少し間を置いてから、宝玉から聞こえる声は再度話し出す。


「我が名はクライス。氷の力を司る聖霊であり、神アジェンダの命により、神に選ばれた者を守護すべく生まれた存在だ。その証を持つ者が現われる時を待っていた」


 青い宝玉から聞こえるその声は、聖霊クライスと名乗った。

 彼は氷の力を司る聖霊であると共に、神に選ばれた者を守護する使命を神より与えられた聖霊でもあった。

 神に選ばれた証を持つ者と言われ、マルスはこれの事かとグローブを外して右手の甲に刻まれた紋章を宝玉の方に向ける。

 アイクとパルも彼を真似て右手の甲を出して紋章を宝玉に向けた。


「……呼び起こしたのはお前のようだが、私の主たるべき者はお前ではなさそうだな」


 姿は見えないもののクライスに紋章を見つめられているように三人が感じていると、彼はそう言った。

 彼の言う「お前」という言葉は、マルスに対して向けられていた。

 どういう事かとマルスは紋章を向けたまま首を傾げる。


「私の主が、こんな阿呆くさそうなはずがないからな。それに、お前の紋章は炎を模したもの。私とは相反する力だ」


「なっ、ちょっと! それどういう意味だよ!」


 クライスの主たる者、つまり彼の加護を受けるべき者はマルスでは無いと彼は言う。

 そのもっともたる理由を最後には述べているものの、始めの方は完全にマルスを馬鹿にしており、マルスは見ず知らずの相手に馬鹿にされて怒り出した。


「おい、そこの隣の少年。お前の持つ紋章をよく見せろ」


 一方でクライスは彼の怒りなど全く気にせず、アイクの方に話を向ける。

 マルスが文句を呟いている横で呆気に取られたまま、アイクは台座へ近づいて言われた通りに紋章を見せた。


「氷の紋章……お前こそ私の加護を与えるべき存在だ。名は?」


「アイク。アイク・ディルニスト」


 クライスの加護を受けるべき存在が自分だと言われ、アイクは戸惑った表情を浮かべながらも彼に名乗る。

 その傍らでマルスがまだ文句を言っているがまるで相手にしてもらえず、パルが悔しげに唸る彼の背中をさすって宥めてやっていた。


「アイク、宝玉に右手をかざせ」


 クライスはアイクに紋章のある右手を宝玉にかざすよう促す。

 僅かな緊張と戸惑いを感じながらも、促されるままにアイクは宝玉に向けて右手をかざした。

 その瞬間、宝玉から再び青い光が放たれ、それに呼応するかの如く、いつもは焼き印のような褐色をした紋章が青く光り出す。

 青い輝きは強くなっていき、辺り一面を眩しく照らした。


 だが、不思議で神秘的な光景に三人が目を奪われていたその時だ。

 勢いよく風を切る音と共に、一本の短剣がアイクを目掛け飛んできた。

 咄嗟にマルスとパルが声を張り上げたおかげで、アイクは僅かに切り傷を右の頬に作ったものの、避ける事が出来た。

 しかし、彼に当たらなかった代わりと言うように、短剣は宝玉に深々と突き刺さり、硝子の砕けるような音と共に宝玉には大きな亀裂が入ってしまった。


「誰だ!?」


 マルスが剣を構えて警戒しながら、短剣の飛んできた方を睨み付けて叫ぶ。

 彼の視線が向く先は、三人がこの空間に入ってきた時に通ったあの細道だった。

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