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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第3章 氷の刃
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11.氷も溶けるほどの

雪ダルマのような魔物を倒し、パルの仲裁でマルスとアイクの喧嘩も収まったところで、マルスが先へ進もうと明るく声を上げた。


「よし、じゃあ先に進もっか。オレ達を呼んだのが何なのか早く知りたいし」


 つい先程まで喧嘩していたのが嘘のような明るい声だった。

 切り替えの早い奴だと呆れを通り越して尊敬すら感じながら、アイクは軽く肩を竦めて心の中で呟きをこぼす。


「よーし、行こ行こ!」


 アイクの呆れた視線など気にも留めず、マルスが足取り軽く先頭を切って歩き出す。

 だが、その時だった。


「うわッ!?」


 突然、歩き出したマルスの目の前に騒々しい音を立てて、天井から巨大な氷柱が落ちてきた。

 その大きさはマルスの身長と良い勝負で、突き刺さりでもすればひとたまりも無いだろう。

 落ちてきた氷柱は深々と地面の氷に突き刺さった。

 すると、それを合図にしたかのように、他の所の天井からも次々と氷柱が落ちてくる。


「ちょっ、何が起きてるの!?」


 マルスは驚きに上擦った声を上げながら、辺りを見回す。


「……あ、私の、魔法のせいかも……」


 落ちてくる氷柱に当たらないよう三人が逃げ惑っていると、ふとパルが思い出したように自分のせいであると言った。

 彼女が先程使用した少々強力な炎魔法のせいで、魔物がいた辺りの氷や天井の氷柱が溶け出してきたらしい。

 とにかく早く魔物を倒して二人の喧嘩を止めねば、と思った彼女はうっかりこの氷の洞窟内で炎魔法を使ってしまったのだった。


 とんでもない事をしてしまった、とパルが呆然としている間も大小様々な氷柱が落ちてくる。

 厚い氷に覆われた地面も氷柱が突き刺さった事により、亀裂が生じ始めていた。

 

「走れ!」


 これ以上この場に留まるのは無理だと判断したアイクは声を張り上げた。

 幸いにも氷が溶け出しているのは三人がいる周辺だけで、奥の方は無事な様子だ。

 彼の声に頷いたマルスは、滑らぬよう気をつけつつも足早に洞窟の奥へと駆けて行く。


 一方で、パルは自責の念に囚われてアイクの声が耳に届いていなかった。

 アイクは自分もマルスの後を追って行こうとしたが、パルが戸惑って動けずにいる事に気がついて、咄嗟に彼女の手を引いて駆け出した。

 突然手を引かれ意識が現実に戻った瞬間、パルは思わず転びそうになってしまうが何とか耐え、彼の足並みに合わせて共に駆けて行く。

 二人の後を氷柱と亀裂が追うかのように迫っていた。


「こっちこっち!」


 三人の足では氷柱や亀裂から逃げ切る事が厳しいと感じたマルスは、どこかに逃げ込める場所は無いかと探していた。

 そして、偶然岩壁に奥行きのある、人の入れそうな隙間を見つけ、ここへ逃げ込もうと声を上げた。


 ようやく追いついてきたアイクとパルを先に押し込んでから、マルスもその隙間に体を滑り込ませる。

 彼が足を引っ込めたところで、ちょうど氷柱と亀裂が一瞬前に彼が立っていた場所を通っていった。

 間一髪のところで三人は助かったのだ。

 駆け込んだ岩壁の隙間の外からは、変わらず騒々しい音が聞こえてくる。


「た、助かったぁ……」


 マルスが安堵したように呟き、額の汗を拭う。

 まさか、こんなに寒い場所で汗をかくなど、思ってもいなかった。


「ごめんなさい……」


「いや……むしろ、俺達が口論などしていなければ、こうならずに済んだかもしれないんだ。こちらこそ、すまなかった……」


 ちょうどマルスとアイクの間にいたパルが、自分が魔法を使ったせいでこうなってしまった事を謝罪してきた。

 だが、そもそも自分達が口喧嘩などしなければ、早く喧嘩を止めようとパルが火力を見誤った魔法を使う事も、その結果として危険にさらされる事も無かったはずだとアイクは思い、自分達に非があるのだと彼女に謝罪する。

 マルスも同じ事を思ったようで、彼の言葉に続いて軽く頭を下げながら謝った。

 もうなるべく喧嘩はしないようにしようと、マルスとアイクは心の中で固く誓うのだった。


「……えっと、これからどうしよっか」


 ひとまず話がついたところで、マルスはこれからどうすべきかを考え始める。

 アイクは彼の言葉を聞いてから、何か打開の道は無いかと今いる狭く薄暗い場所を見回した。

 そして、ある事に気がつく。


「二人共、この奥……どこかに繋がっているみたいだ」


 隙間の一番奥にいるアイクが、自分の今いる場所のさらに先を指さした。

 僅かに風が通っていくのを感じ、暗い奥の方に目を凝らすと人が何とか通れるほどの隙間が三人の目に見えた。

 そこからは空気が流れてきていて、どこかに繋がっているのが分かる。


「パル、この先から声とか聞こえたりする?」


「え、あ……う、うん……。この先から……声、聞こえるよ……」


 マルスが暗がりの中にうっすらと見える隙間を凝視しながら、パルにこの先から例の声は聞こえたりしているのかと尋ねた。

 だが、パルはそれとは全く別の事に気を取られていたらしく、彼に声をかけられてから何とも落ち着かないような様子で問いかけに答える。

 一体どうしたのか、とマルスもアイクも彼女の顔を見ようとしたが、一番背の低い彼女が俯いてしまったため、その表情は分からない。


「具合でも悪いのか……?」


 体調が悪くなったのではないかと心配したアイクがそう声をかけるが、パルは俯いたまま小さく首を横に振る。


「あ、あのね、アイク……」


 俯いたままでいる彼女に名前を呼ばれ、アイクは軽く首を傾げる。


「その……もう、手……放して、いい……から……」


 恥じらうような声でパルがそう言った瞬間、アイクは自分の左手に視線を落とした。

 そして、逃げる時に彼女の手を掴んでから今までずっと彼女の手を握ったままでいる事にようやく気がついたのだ。


「っ、す、すまない……!」


 自分の状況を認識した途端に、彼の頬が紅潮していく。

 急に恥じらいを感じた彼はすぐさまパルの手を放し、彼女から顔を背けた。

 大丈夫、と一言だけ答えた彼女の顔も、二人から見えはしなかったがひどく赤くなっている。

 傍らにいたマルスはそんな二人を、仲良いなぁと呑気に眺めているのだった。


「よ、よし、さっさと先に進もう」


 この空間の空気が異常に暑く感じたアイクはぎこちない口調でそう言って、涼しい空気を求めるように先に続いている隙間に体を滑り込ませて進み始めた。

 それを見たマルスは、自分の前で俯いたままでいるパルに先に進むよう促して、彼女に続く形で隙間へと体を滑り込ませ、奥を目指していった。

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