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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第10章 砂塵の黎明
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11.魔獅子奮迅

もう、後には退けぬのだ。

 闇から現われた魔の獅子レオガルド。

 しかし、その姿は変貌を遂げていた。

 灰色だった体毛は黒く変色し、牙と爪はより長く鋭く変化している。

 そして、以前の戦いでアイクによって切られたはずの尾が再び生えていた。だが、それは元の獅子の尾とは異なり、蠍の尾のように太く、硬い外殻を持ち、先端には槍の穂先ほどもある鋭い針が光る。


 変貌を遂げたレオガルドの姿に皆が気を取られる。

 その一瞬だった。


「死ね!」


 レオガルドの尾から凄まじい速さで針が発射された。

 皆が反射的に回避をするが、反応が遅れた兵士の一人の腹部にそれが突き刺さる。


「う、グアア……ッ!」


 吐血し、苦しげな声を上げながら兵士が倒れる。

 仲間の数名が助けに駆け寄ろうとしたが、途中で彼らはその足をぴたりと止めた。

 彼らの顔には、皆一様に驚愕の表情が浮かんでいる。中には吐き気を堪えるように口元を押さえて後退る者もいた。

 彼らがそのような反応をするのも無理はなかった。

 針に刺された兵士の皮膚がどす黒く変色し、針の刺さった腹部からドロドロに溶け出していたのだ。


「ア、が……ッ、た、たすけ……」


 仲間に助けを求めて伸ばした手も黒く変色し、溶け落ちる。

 ものの数秒で、針に刺された兵士は武具の金属のみを残して黒い泥のようなものになって絶命していた。

 誰もが息を呑む。


「グハハハハッ! 毒針でもがき苦しみながら死ぬのと、我が爪に切り裂かれるのとどちらがいい!? 選択権など与えんがなァ!」


 言下、数本の毒針が放たれた。


「避けろッ!」


 ガーディの声が響き、皆が毒針の回避に動く。

 毒針は地面や壁に突き刺さり、周囲の砂や煉瓦を溶かして消えた。


「お前達、あの毒針には決して当たるな!」


 誰もが毒針の恐ろしさを噛み締めながらガーディの言葉に返事をする。


「あんなの飛ばしてくるんじゃ、簡単に近づけないよね……」


 警戒しながらそう呟くマルスに、近くにいたアイクは頷く。

 毒針がある限り、安易に近づくことは出来ない。

 その上、変貌前よりも鋭く伸びた牙と爪は攻撃範囲が広がり、一層接近を妨げていた。

 接近出来ないのであればと、ガーディが弓兵と魔法が使える兵に指示を出し、矢と魔法で遠距離からの攻撃を図る。

 しかしーー。


「この程度で吾輩に傷がつけられると思うな!」


 レオガルドが尾を振るうと、彼に迫っていた矢と魔法が弾かれる。

 尾の硬い外殻が彼の堅牢な盾となっていたのだ。


「並の魔法や矢では歯が立たぬか……」


 ガーディがレオガルドを睨みながら呟く。


「なら、私が……!」


 魔力を集中させ、パルは氷魔法を放った。幾本かの鋭い氷の矢がレオガルドに向かっていく。

 レオガルドは迫って来る氷の矢を先程のように尾で弾こうとした。

 だが、兵士達より強い魔力を持ち、アテナの力によって強化されているパルの魔法は防御しきれない。

 半分ほどは弾かれて砕け散ったものの、残りは尾や体に当たっていた。

 獅子の体からは赤黒い血が流れ、さらには硬い尾の外殻にも傷が出来ている。


「フン……やはり神の選んだ者の力は侮れぬな……。ならば小娘! 貴様から始末してやろうぞ!」


「……っ!」


 言下レオガルドがパルに向かって数本の毒針を放った。

 咄嗟にマルスとアイクが彼女を助けねばと動くが、二人が間に合う距離ではない。


「大地の守護を!」


 不意に何人かの声が響いたかと思うと同時に、地面からパルの前に分厚い岩壁が出現した。

 毒針は立ちはだかる岩壁に突き刺さり、それを溶かしながら消滅する。


「無事かな、お嬢さん」


 そう尋ねながらパルの横に歩いて来たのは、杖を構えた老人だった。

 彼から溢れる魔力を感じ取り、パルは自分を救った岩の防壁を作り出したのがこの老魔導師なのだと瞬時に理解する。


「ありがとう、ございます……」


「この状況だ。礼は勝利の後に聞かせておくれ」


 老魔導師はレオガルドを見据えて言う。

 そんな彼の後ろから、いくつかの駆けて来る足音が聞こえてきた。


「女王陛下、ガーディ殿! 到着が遅れて申し訳ありません! 我らも加勢いたします!」


 走って来た中年の男が声を上げる。

 老魔導師の後から駆け付けてきたのは、合わせて六人の男女。年齢は様々だ。

 皆、魔法を使うための杖を手にしており、魔導師なのだということが分かる。


「女王陛下の御力が覚醒なさった今、儂らの結界は不要となった。ならば儂らも王国の刃となろうぞ」


 ガーディに向かって老魔導師は言う。


「おお、アダン(おう)! 貴方がたが加勢してくれるのであれば心強い!」


 駆け付けた六人の魔導師、そしてパルを救った老魔導師ーーアダン・イルムは、女王の力が覚醒しないサリュに代わって王国を守る結界を張っていた者達である。

 皆、王国屈指の魔力や魔法の才の持ち主で、接近しての攻撃が難しい現状では非常に強い戦力だ。


「まだ湧いてくるか蛆虫共が……!」


 新たに現われた戦力に、レオガルドは忌々しそうに眉間に皺を寄せて鋭い眼光を向ける。


「久方ぶりの実戦だ。皆、準備せい!」


「はッ!」


 アダンの号令に返事をし、六人の魔導師達は杖を構える。

 レオガルドがまたも毒針を放つと同時に、三人の魔導師が結界魔法を発動させた。

 それと同時に、アダンを含む四人の魔導師が炎魔法を放つ。

 毒針が結界に弾かれて消失し、レオガルドは足下に現われた魔法陣から吹き出した炎に全身を包まれた。


「グウウッ!」


 レオガルドの苦しむ声が響き、焼け焦げる匂いが辺りに立ち込める。


「おのれェッ!」


 そう吐き捨てながら、堪らずレオガルドは広場のオアシスに飛び込んだ。

 大量の水飛沫が上がり、巨体を包んでいた炎が消えていく。

 茶色く濁って激しく波打つオアシスの中から、レオガルドは立ち上がる。

 そして間髪入れず、魔導師達に魔力の爪撃を放ち、勢いよく突進していった。

 爪撃によって結界は僅かに(ひび)が入る。


「戒めの(いかずち)よ!」


 アダンが魔力を解き放ち、強力な雷撃がレオガルドを襲った。

 衝撃と共に筋肉が引き攣り、体が思うように動かなくなる。

 毛皮に纏わり付いたままの水が雷撃の力を増幅させていた。


「今だ!」


 ガーディが声を上げ、兵士達もマルス達も一斉に攻撃を仕掛ける。

 皆の攻撃が着実にレオガルドの体の損傷を増やしていく。

 守護聖霊によって強化されたアイクの氷刃とパルの氷魔法の矢が、硬い尾の外殻に当たり、罅のような傷を作る。


「下等生物がァ……舐めるなッ!」


 レオガルドが憤慨した咆哮と共に四肢に力を込めた。

 そして次の瞬間、前方にいた兵士達の体が弾かれるように宙に浮き、地面に叩きつけられる。

 無理矢理に雷の戒めを解いたレオガルドは、その勢いのまま自身の前方にいた兵士達を体当たりで突き飛ばし、突進していたのだ。


「っ、ヒィッ……!」


 気づけば魔の獅子は、アダン達の手前まで迫っていた。

 結界を張っていたまだ年若い男魔導師が、眼前に迫った獅子の巨躯と恐ろしい顔面に思わず悲鳴を漏らす。

 「怯むな!」とアダンの声が響く。

 それと同時にレオガルドは口角を上げ、尾から毒針を発射した。


「グゥッ……!」


 毒針は結界を貫通し、悲鳴を漏らした男魔導師の腹に深々と突き刺さった。


「未熟な魔導師よ! 恐怖で結界が綻んだなァ!」


 恐怖で怯んだ一瞬、結界に綻びが生じたのをレオガルドは見逃さなかった。

 毒針の刺さった魔導師は、腹部から体が溶け出している。

 苦痛と死への恐怖に顔を歪め、血と涙と呻き声がこぼれていく。


「ア、ア……ッ、やだ、死にたく、な」

 

「ああ、ビルイム!」


 その様子に堪えきれず、中年の女魔導師が彼の名を叫んで近づこうとする。


「行ってはならん!」


 アダンの叫びと同時に、レオガルドの爪撃がその場に放たれた。

 結界が破壊され、毒針を受けた青年ビルイムの体は爪撃により引き裂かれ、毒によって溶けて消える。

 結界を張っていた魔導師達は咄嗟に退避したが避けきれず、体から鮮血が溢れた。


 すぐさま近くにいたパルが駆け付け、追撃しようとするレオガルドに炎魔法を放つ。

 回避せざるをえなくなったレオガルドは大きな舌打ちをして後ろに飛び退く。

 そして、咆哮と共に数多の魔物を召喚した。

 限界が近づいている中で無理矢理に生み出した魔物達は、大半が最早体を形成しきれていない状態だ。

 だが、理性なく襲い掛かってくる数多の魔物達に皆が足止めされ、レオガルドに攻撃が出来ない。


「貴様らは魔物共の相手をしているがいい! 吾輩は女王の首をもらうッ!」


 レオガルドは王城に向かって駆け出し、下肢に力を入れ飛び上がった。

 背中から生えた翼がはためき、地上にいる者達を牽制するように砂風が吹く。

 このままサリュのいるバルコニーまで飛ぼうとしているのだ。


「行かせるか!」


 上空からビリーの声と共に轟音が鳴り響いた。飛空艇の主砲から魔力弾がレオガルドに向かって放たれたのだ。

 だが、それを察知したレオガルドは翼をはためかせ回避する。


「もういっちょくれてやらァ!」


 主砲からもう一発の魔力弾が放たれた。


「グァァッ!」 


 主砲からの追撃を予想していなかったレオガルドの左翼に、魔力弾が命中した。

 大きく穴の空いた翼は空気を掴むことが出来なくなり、その巨体は重力に引っ張られるまま地面に落ちていく。


(翼はこれで使い物にならなくなったけど、親方の主砲もしばらくは使えなさそうだな……)


 ユーリは飛空艇にも視線を向けながら胸中で呟く。

 飛空艇の主砲からは黒い煙が立ち上っている。

 一度使用したら次の使用まで十分程度の間隔を空ける必要がある主砲を、無理に連続して使用した影響が出ているのだった。



 一方で、バルコニーにいるサリュは地上の様子に心を痛めながら、胸の前で組んでいた手をさらに強く握り、魔力を集中させていた。


(結界の力を強めなくちゃ……! 今のわたしにはそれしか出来ない……結界の力が強まるまで、どうかみんな耐えて……!)


 焦りと強い魔力を操る疲労で、彼女の額から汗が滴り、手は震え、呼吸も荒くなっていた。

 ラティオは彼女の力を信じ、バルコニーまで上がってくる魔物をハルベルトで仕留めていく。

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