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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第10章 砂塵の黎明
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7.破られる安寧の防壁

突如として訪れる王国の危機。

 一夜が明け、マルス達はサリュからエスタジオ火山の入山許可証を貰うため、再び女王の間を訪れていた。

 一旦飛空艇まで戻っていたユーリは三人を迎えに先刻到着しており、話が終わるまで客間で待っている。


「では、これがエスタジオ火山への入山許可証です。ヴュステが管理しているとはいえ、とても危険な場所なので、どうか気を付けて」


 サリュの言葉と共に、ラティオが書状を三人のもとへ持ってくる。

 それにはエスタジオ火山への入山を許可する旨と、女王サリュのサインがしたためられていた。

 三人が内容を確認したのを見てから、ラティオは書状を丸め、小筒に入れて手渡す。


「ありがとうございます」


 マルスがそれを受け取り、感謝を伝える。


「火山の近くにサンガ族という種族が住む村がある。古くからヴュステと共に火山の管理をしている者達が住んでいる場所だ。そこの村長に許可証を見せれば、火山まで案内してくれるだろう」


 サンガ族。

 山と共に生きる者達で、異種族交流が活発になって久しい現代でもその大半が同族のみの山村で暮らし、大きく屈強な体を持つ種族だったか。

 ラティオの話に相槌を打ちつつ、アイクは頭の中でサンガ族の事を思い出していた。


「乗ってきたという飛空艇の所までも、気をつけて向かってくださいね。時々、砂嵐に巻き込まれて遭難してしまう者や、誤って王家の墓へ迷い込んでしまう者がいると聞くので……」


「王家の墓は、盗っ人対策に様々な仕掛けがされている。王族のご遺体と共に埋葬されている宝飾品を狙う不届きな輩が昔から後を絶たなくてな。死にたくなければ近づきも、立ち入りもするな」


 王家の墓についてラティオが補足して語った内容に、マルスは少々恐ろしさを感じた。

 だが同時に、危険な場所であっても、宝を求めて侵入を試みる者が後を絶たないという王家の墓が、どれほど魅力的な場所なのかこの目で見てみたいという好奇心も湧き上がってくる。


「……今ちょっと行ってみたいとか思っただろう」


 隣のアイクが呟いた言葉に、マルスは目を丸くして彼を見る。


「えっ、なんで分かったの!?」


「何年お前と一緒にいると思っている」


 多少の呆れを滲ませつつアイクは小さく笑みをこぼす。


「うふふ、二人は仲良しなのですね」


 そんな二人のやりとりに思わずサリュが笑った。

 つられてパルもラティオも口角が上がる。

 その時だ。


「……っ!?」


 弾かれるようにパルとサリュが天井を見上げた。

 二人の衝動的な動きと見開かれた瞳を見て、マルス達は何事かとその視線を追う。

 直後、突如として王国中に衝撃が走り、硝子が砕ける音に似た轟音が響いた。

 咄嗟にラティオはサリュの体に覆い被さる。マルス達は喫驚しながらも両手で耳を塞いで体勢を低くした。

 ほんの数秒で衝撃も音も消え、耳から手を離しつつマルスは辺りを見回す。

 自分達に外傷はなく、城が崩壊する様子もない。


「陛下、ご無事ですか?」


「え、ええ、大丈夫。ラティオ、ありがとう」


 皆が無事を確かめ合っていると、慌ただしい足音と共に勢いよく入口の扉が開かれた。

 

「陛下!」


 一人の兵士が息を切らしながら部屋に駆け込んで来る。


「も、申し上げます! 結界が……守護結界が破られました!」


「何!?」


 兵士の告げた言葉にラティオが思わず声を荒げる。

 サリュも愕然とした表情を浮かべていた。

 守護結界とは、ヴュステ王国を覆っている結界だ。

 本来は女王だけが扱える最上位の結界魔法によって形成されているものだが、サリュがまだその力に目覚めていない今は、王国の魔導師達がそれに代わる結界を張っている。

 代用の結界とはいえ、それを張っている魔導師達はヴュステでも指折りの優秀な者ばかりだ。そう易々と破壊出来るようなものではない。


「何者の仕業だ!?」


「上空に敵の姿を確認しております! 昨日(さくじつ)の魔族に間違いないかと」


 皆の脳裏に屈強な巨体を持つ禍々しい獅子の姿が浮かぶ。


「兵団が兵長の指示で、民の非難と迎撃準備に動いております。陛下、今のうちに安全な場所にお隠れください!」


「で、でも!」


 国の、民の危機を前に、今の自分に出来る事などないとサリュは分かっていた。

 けれど、国の存亡の危機から目を逸らして逃げ隠れるなど、未熟で責任感の強い彼女には出来ない。


「陛下、今は我らの言う通りになさってください」


「ラティオ……っ!」


 ラティオはその場を動かずにいるサリュを半ば強引に連れ出し、非常時に備えて設けてある地下室へと足早に向かう。

 マルス達もひとまずその後を追った。




   *   *   *




「ほほう、地上界の生物ごときにしてはなかなかやるではないか!」


 無防備となったヴュステ王国の上空で、魔族の獅子レオガルドの声が響く。

 彼の視線の先には、アヴィス四天王が一人、ルナの姿があった。


「女王様の結界だったら流石に無理だけれど、この程度ならね」


 ルナはレオガルドの大声に顔を顰めつつ、そう答える。


「吾輩が四天王の座に……いや、ハデス様の右腕の座に就けた時にはそなたの扱い、そう悪くはせんぞ! 吾輩の(しもべ)として生かしておいてやろうではないか!」


「貴方からどう扱われようが、どうだっていいわ。ハデス様のご命令だから、貴方に力を貸しただけですもの」


 さして興味なさげに返して、レオガルドから視線を逸らす。


「フン、つれぬ娘よのう! まあいい! では、もう一働きしてもらおうか!」


 レオガルドに促され、ルナは眼下に広がるヴュステ王国に両手を翳した。

 彼女の口から、小さく溜め息がこぼれる。一度強く目を瞑る。

 瞼を開け、翳した両手に魔力を集中させた。

 すると、紫の光を放つ巨大な魔法陣が空中に出現し、王国を覆うように広がっていく。


「おお、おお! これは凄まじい魔力! これが墜ちれば、この国はひとたまりもなかろう!」


「少し静かにしてくださる?」


 興奮気味なレオガルドの喧しい声に一層不快そうな表情を浮かべる。

 そうしている間にも、彼女の創り出した魔法陣は広がっていき――。

 そして、ついに王国の上空を覆い尽くした。

 魔法陣には凄まじい魔力が満ちており、これが解き放たれた時、王国は甚大な被害を受けるだろう。

 完成した魔法陣を眺めるレオガルドの口角がますます吊り上がる。


(流石に、力を使いすぎたみたいね……)


 これほど魔力を使ったのは久し振りだった。

 ルナは自身の右腕を見つめる。黒のロンググローブに覆われたそこが、締め付けられるように痛む。

 痛みが右腕から肩へ、胸部へと広がっていくのを感じる。


(まだ、呪い(こんなもの)で自滅するわけにはいかないわ)


 ルナはどこからか、コインほどの大きさの宝飾品を取り出した。

 それは、星に似た白い花を象った物で、中心には柔らかな緑色の宝石が七つ埋め込まれている。

 美しい宝飾品だが、七つある宝石のうち四つには痛々しく(ひび)が入っていた。

 僅かに眉根を寄せてから、ルナはそれを右腕に押し当てる。

 すると、埋め込まれた緑の宝石から魔力が溢れ、彼女の右腕を包んでいく。

 優しく柔らかなそよ風に包まれているように感じているうちに、痛みはふわりと消えてしまった。

 無意識に小さく安堵の息がこぼれる。

 ルナは手に持った花の宝飾品を一瞥してからレオガルドに視線を戻した。


「これだけ規模が大きいから、魔法の発動までに時間が掛かるわ。まあ、それまでせいぜい時間稼ぎなさって」


 そう言って、ルナは彼に背を向ける。


「準備は整った! ヴュステの女王よ! 貴様の国も民の命も、我が手中にある! 民を生かすも殺すも貴様の対応次第! さあ、出てくるがいい!」


 レオガルドの咆哮にも似た声が眼下の王国へと響き渡った。


(未だにあなたの力に頼らないといけないだなんて、皮肉な話よね。自分からあなたのもとを離れたのに。あなたを……許せないのに)


 ヴュステ王国を挑発するレオガルドを背に、魔界へと帰還するための空間移動魔法を発動させながらルナは胸中で呟く。

 花の宝飾品を握ったままの手に力が込もる。


(だけど、あなたのおかげで、あたしはまだあたしのまま生きていられる)


 足下に魔法陣が形成される。


「本当に、皮肉な話よね……エヴァ」


 彼女の姿が、消えた。

 彼女のいた場所を一陣の風が吹き抜けていった。

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