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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第9章 砂漠の国を目指して
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4.条件がある

ガッポリ頼むぞ。

 三人はユーリに連れられてビリーのもとへやって来た。

 飛空艇の調整作業中らしく、ビリーは飛空艇の側面の一部を開けて中の装置を弄っている。

 ユーリが声を掛けると、作業の手は止めないまま返事をしてきた。


 早速ユーリは飛空挺の試験飛行に三人を同乗させて欲しい旨を説明した。

 すると、ビリーは一瞬だけ作業の手を止めて考える素振りを見せる。

 流石に断られるか、とマルス達は思ったが、意外なほどあっさりと彼は同乗する事を許可した。

 ビリーは手にしていた工具を置き、マルス達の方に体を向ける。


「乗せてやっても構わねぇが、一つ条件がある」


「条件?」


 彼の言葉にマルスは首を傾げる。


「街の東にある森にビジュ洞窟ってのがあんだ。あそこは良質な魔石が取れる穴場でなァ。魔石はウチの飛空挺の大事な原動力だ。そこで一人一袋、魔石を採ってきてくれや。そいつが条件だ」


「そういう事なら任せて下さい!」


「良い返事だ、小僧」


 マルスの返答にビリーは歯を見せて笑うと、すぐ近くの資材置き場から麻袋を引っ張り出してきた。

 麻袋の大きさは、マルスの胴ほどといったところだろう。

 ビリーはそれを三人に乱雑に手渡した。

 だが、彼の手にはもう一枚麻袋が残っている。


「ユーリ、お前の分だ」


「え、俺も?」


 残りの一枚を投げるように手渡されたユーリは、思わず聞き返した。


「当ったり前だろうが。恩人サマに働いてもらうんだから、お前が同行すんのは当然に決まってんだろ。それに頭数が多けりゃ、その分魔石もガッポリ手に入るしな」


「最後のが本音か……」


 彼の言葉にユーリは苦笑いを浮かべる。


「んじゃ、気ィつけてな」


 そう言い残すと、ビリーは再び飛空挺の調整に戻っていった。


「それじゃ、早速ビジュ洞窟に行こうか。俺、支度してくるから少しだけ待ってて」


 ユーリはそう言って、造船所の奥へと駆けて行った。




 *   *   *




 支度を終えたユーリが戻った後、マルス達は街の東に広がる森へと向かった。

 森には川があり、水の流れる清涼な音が耳に心地好い。

 川の流れるこの森は動植物達には棲みよい環境らしく、様々な種類の植物や虫、鳥の姿を見つける事が出来る。

 四人は川を辿って、滝を目指して歩を進める。


「ユーリ達の造船所の飛空挺は魔石を使うんだな。コライユの飛空挺は全て魔導師の魔力を原動力にしているのだと思っていた」


 歩きながらアイクがユーリに話し掛ける。

 彼が言った通り、コライユの飛空挺は魔導師の魔力を利用した物が主流だ。

 飛空艇内に魔導師が複数常駐しているため非常事態への対応がしやすく、安全性の高さも売りとなっている。

 一方で、この手の飛空艇は、相応の魔力を持つ魔導師を多く雇う必要があるため、運賃がどうしても高価になってしまうのが難点だった。


「コライユじゃ、魔石を原動力にしてるのはウチくらいだからね。魔石を使った方が人件費も削れるから、より安価でお客さんを乗せられるんだけど。量産まで漕ぎ着けてないから、結局普通の飛空挺の料金と大して変わんないんだよね」


 ユーリの話にアイクは納得したように頷いていた。

 二人の話が一段落ついたところで、今度はマルスが口を開く。


「ねえユーリ、ずっと気になってたんだけど……そのでっかい筒みたいなのは何?」


 支度を終えて戻って来たユーリは自身の武器であるクロスボウと共に、見慣れない筒状の物をベルトで固定して背中に担いでいた。

 それは長さは六十センチほど、穴の直径は十センチほどの物だ。

 筒の外側には持ち手とおぼしき部品がある。それ以外にも外側には、ボルトや管や見た事のない部品がいくつもついており、何とも複雑な造りに見えた。


「ああこれ? 俺のとっておき。使う時が来るまで内緒ね」


「もったいぶるなぁ」


 今すぐ筒の正体が知りたいマルスだったが、ユーリは笑いながらそれ以上答えようとはしなかった。


「ここの森はあんまり魔物がいないけど、洞窟はそうじゃないからね。洞窟に行けばコイツを使う時が必ず来るだろうから、楽しみにしててよ」


 そう言われ、マルスは仕方ないといった様子で頷いた。

 彼が言う通り、森の中には魔物の姿が見当たらない。感覚の鋭いパルも魔物の気配をほとんど感じていないようだ。

 鳥のさえずりに耳を傾けたり、水辺に集まる小動物を遠目に眺めたりしながら四人は歩く。


 川沿いに森の奥へ進んで行くと徐々に水の流れる音が大きくなり、鳥のさえずりが掻き消されていく。

 さらに歩みを進めると轟々とした水流の音が聞こえ、四人の前に滝が姿を現した。

 滝の幅は五メートル、落差は十メートル以上はあるだろう。

 大量の水が勢いよく飛沫を上げて降り注ぐ光景は、圧巻の一言に尽きる。


「すごい、これが滝……!」


 グラドフォスの王都近辺には滝がない。

 生まれて初めて見る滝の迫力に、思わずマルスは立ち止まって感嘆の声をこぼしていた。

 アイクもパルも下から上までじっくりと滝を眺めながら、その光景に見入っていた。


「ビジュ洞窟は、あの滝の裏にあるんだ。ついて来て」


 そう言って歩き出したユーリの後を三人は追って行く。

 水辺に沿って滝に向かって進み、滝へと続く岩場を登る。

 至近距離に迫った滝の音は凄まじく、注意深く耳を澄ましていないと互いの声が掻き消されてしまうほどだ。


「滑るから気を付けて!」


 ユーリが滝の音に負けぬよう声を張り上げて、水飛沫で濡れた岩場に足を取られぬよう注意を促す。

 注意されたそばから、マルスが軽く足を滑らせて喫驚した声を上げていた。

 体勢を立て直しながら、ちらりと左を見れば視界に入るのは、大地に穴を穿たんばかりの勢いで大量の水が流れ込む滝壺。

 あんな所に落ちたら、ひとたまりもない。

 背筋に不気味な痺れが走ったのを誤魔化すように、マルスは視線を戻して岩場を進む事に集中する。


 慎重な足取りで岩場を登り進んで行き、四人はちょうど滝の真裏にあたる地点に辿り着いた。

 そこの岩壁には、大人の男が二人並んで入れるほどの大きさの穴が空いている。これこそがビジュ洞窟の入り口であった。


「まさしく穴場だな」


「こんな所に隠れた洞窟があるって、なんかワクワクする!」


 洞窟の入り口を見て、アイクとマルスはそんな感想を口にする。


「中は魔物がいるから気を付けて。まあ、グラドフォスから旅してきた三人には、余計なお世話かもしれないけど」


 言って、ユーリは先に洞窟の中に入って行く。

 彼の忠告に頷き、三人もその後に続いた。

 言わずもがな洞窟内は暗く、辛うじて視認出来るのは入口から数メートル程度だ。

 いつものようにパルは魔法で灯りを創り出そうとする。


「パルちゃん、待って。灯りならあるから、魔法は使わなくて大丈夫」


 ユーリの言葉に彼女は首を傾げ、ひとまず魔法をやめた。

 待ってて、と三人に言い、ユーリは少し奥へ進んで行く。

 彼が進む方に外界から差し込む光でうっすらと見えたのは、鉄格子だ。

 鉄格子に囲われている岩壁には、彼の背丈ほどの大きさをした何かの装置が取り付けられていた。装置からは金属製の太い管が洞窟の奥へと壁伝いに伸びている。

 ユーリは腰に巻いた鞄から鍵を一つ取り出し、それで鉄格子を開けた。


「魔物とか盗っ人対策の鉄格子なんだ。この装置が壊されでもしたら困るからさ」


 鉄格子の中に入り、ユーリは腰の鞄から今度は赤い光を帯びた石――炎の魔石をいくつか取り出す。

 装置のちょうど中央にある壺のような形をした部品の蓋を開け、魔石を放り込んでいく。

 蓋を閉めると、装置に取り付けられた大きなレバーを下ろした。

 ガチャリ、と金属同士がぶつかる音が響いた直後、装置が音を立てて動き始める。


 先程魔石を入れた壺型の部品から、赤い光が漏れ出て見える。その光は炎の魔石から抽出された魔力だ。

 魔力はそこから管を通って、洞窟の奥へと伸びる太い管へと流れていく。

 すると、闇一色だった洞窟が光に照らされ、色がついた。

 奥へと伸びる管には、一定の間隔でカンテラのような物が組み込まれており、そこに炎が灯ったのだ。


「炎の魔石から抽出した魔力を、この壁伝いに続いてる管を通して送って、洞窟全体に灯りがつけられる装置だよ。親方が作ったんだ」


 どこか自慢気に言いながら、ユーリは鉄格子の中から出て鍵を掛け直す。


「すごい……魔法、みたい……」


「でしょ。魔石から魔力を抽出する技術を応用すれば、擬似的な魔法が使える。エストリアの方はもっと技術が進んでいるから、こういう魔法の力を誰でも簡単に使えるような装置が結構普及してるらしいよ」


 感心したパルの呟きに、ユーリは鍵を片付けながら答えた。


「親方はさ、魔石から魔力を抽出するのが上手いんだ。俺もちょっと教わってるんだけどさ、結構難しいんだよ。知識と技術は勿論だけど、何よりも才能、センスが物を言う。これに関しては、親方は所謂天才って奴だよ」


「ビリーさんって、そんなにすごい人だったんだ」


 正直に驚きを伝えてくるマルスに、意外でしょ、とユーリは口角を上げてみせる。

 装置の稼働音が少しだけ大きくなる。

 その音にマルスは自慢気な笑みを浮かべるビリーを連想した。


「さっ、灯りも確保したし、先に進も。案内は任せて」


 三人はユーリに続いて歩き出す。

 力強さを感じる灯りに照らされた洞窟内には、装置の稼働音が響いていた。

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