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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第9章 砂漠の国を目指して
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2.出会いは路地裏にて

出会いは、思わぬ所に転がっているもの。

 三人は南の港町コライユを目指し、アストルムを発った。

 一日目は案の定、野宿をする事になり、数日ぶりの地べたでの就寝に体が多少痛んだ。

 二日目は、運良く道中に小さな村があり、そこで宿に泊まる事が出来た。

 その後は宿泊、野宿を一回ずつして、三人はコライユを目指した。


 その間、マルスは就寝前の二、三時間ほどの鍛錬を欠かす事なく行っていた。

 飽き性なはずの彼が、まだほんの数日とはいえ欠かさずきっちりと鍛錬している様子は、アイクとパルにとって異常とも言える光景だ。

 何かをやると言い出して三日以上続く事も少ない上に、だんだんと手を抜いていくのが二人の知るマルスだった。

 だが、今の彼は三日以上続いているだけでなく、手抜きをする様子も一切ない。それどころか、鍛錬の難易度を少しずつ上げてすらいるのだ。


 十数年の付き合いで初めて見た彼の様子に、二人は少し心配になった。

 根を詰めすぎるな、無理はしないで、と声を掛けてやりたいところだが、彼の顔は真剣そのもので、そんな言葉を掛ける隙などないように思えた。

 むしろ、掛けてはいけないような気がした。

 無理をしすぎないよう見守ってやる事しか、二人には出来そうになかった。


 マルスは焦りを、アイクとパルは彼に対する小さな不安を抱えたまま、三人は昼前に港街コライユに到着した。

 コライユにある建物は、どれも外壁は薄茶色、屋根は珊瑚色をしており、温かみのある街並みだ。

 天気も悪くはなく、風が強いわけでもないというのに、今日の海は波が高いようで、白波が何度も沖の方から押し寄せている。


 到着してすぐ三人は乗船券を購入すべく、船着き場の近くにある券売所を訪れた。

 券売所は船の待合所も兼ねており、建物内には乗船を待つ多くの客がいる。

 しかし、客達は皆どうしてか暗い表情をしており、中には券売所の者に捲し立てるように何やら文句を言う者の姿もあった。


「なんだか嫌な空気。どうしたんだろ?」


 怪訝そうに周囲を見ながらマルスが呟く。


「……恐らく、原因は()()だろうな」


 彼の呟きに答えるように、アイクがそう言って前方を指さした。

 その指の先を辿っていくと、目に入ったのは船の出航時刻や状況を記した掲示板だ。

 掲示板には本来であれば、それぞれの船の名前と行き先、そして出航時刻が書かれている。

 だが、今はそれらを覆い隠すように白い大きな紙が上から貼られ、そこに大きく文字が書かれていた。


「海が酷く荒れているため、向こう十日間は船を運航休止とさせていただきます……って、嘘!?」


 書かれていた内容を読み上げ、マルスは素っ頓狂な声を上げた。

 彼が読み上げた通り、全ての船が運航を休止しており、それによって多くの乗船客が足止めを喰らっていたのだ。

 それどころか、十日も続く運航休止だ。文句を言う客の気持ちが、三人にも理解出来た。


「十日も……どうしよう……」


 眉根を寄せてパルが呟く。


「ひとまず、今晩の宿を探そう。この様子だと、今晩の宿を取るのも一苦労しそうだからな。それからどうすべきか話をしよう」


 アイクは冷静にそう言った。

 ヴュステ王国に行くには、コライユで船に乗る以外の選択肢はない。

 どう足掻こうとも、十日間はここで待たなくてはならないのだ。

 十日間を過ごす拠点として、まずは宿を探そうというのがアイクの提案だった。

 ここで足止めを喰らうのは三人だけではなく、乗船すべくコライユを訪れている者全員だ。

 宿が埋まるのも時間の問題だろう。


「街にいるのに、十日も野宿するのは嫌だもんなぁ。そうしよそうしよ」


 彼の提案をマルスはすぐに受け入れる。

 三人は入って来たばかりの券売所を出て、宿を探しに向かった。


「あーあ、また都合良くエヴァとかいないかなぁ。前みたいに魔法でビューンって行けたらいいのに」


「大きな街や国なら、転送魔法による移動手段もあるが……俺達の所持金ではとても利用出来ないな」


 主要な国や大きな街には、往来の手段として船や馬車以外に、非常に高度な魔法である転送魔法を用いたものも用意されている。

 とはいえ、この移動手段は王族や上流貴族のために用意されているものであり、庶民や旅人が気軽に利用出来るものではなかった。


「私が、そういう魔法、使えたらいいんだけど……。今度、練習してみるね……」


「パルが転送魔法を使えるようになったら、すっごく助かるなぁ。楽しみにしてる!」


 マルスの言葉に、パルは微笑みながら頷いた。




 *   *   *




 それから三人は、宿を探して街中(まちなか)を歩いたが、なかなか空き部屋のある宿が見つからない。

 券売所付近の宿は言うまでもなく満室で、空いていたとしても随分と宿泊料金が高い宿ばかりだ。

 立地のあまり良くない宿ならまだ空きがあるのではないかと淡い期待を抱きながら、中心地から離れた所までやって来ていた。

 三人が歩く通りは造船所や船の修理所が近くにあり、金属同士のぶつかる音や釘を打つ音がどこからか響いてくる。


 歩きながら辺りをきょろきょろと見回すマルスの目が、ふととある路地で止まる。同時に彼の足もその路地前で止まった。

 何事かと、アイクとパルも彼に合わせて足を止める。

 路地の中ほどに、数人の男の姿が見えた。

 よく見ると、三人とそう年齢の変わらない亜麻色の髪の少年が、壁際に追い詰められるようにして年上の男達に囲まれている。

 和やかな雰囲気ではなさそうだ。


「で? そろそろ造船所を明け渡す用意は出来てんのか?」


「アンタ達に造船所は渡さない。絶対に」


 少年の緑色の瞳が、強く男達を睨む。


「そうかぁ……それなら、早く明け渡さねぇとお前の弟子共に危害が及ぶって、アイツに分からせてやんねぇとな」


「あんな偏屈野郎に師事なんかしてなけりゃあ、こんな扱いされずに済んでんのになぁ」


 男の一人が拳を鳴らし、少年に詰め寄っていく。

 その後の展開は、三人にも容易に想像出来た。

 そして、男の拳が振り上げられ――。


「あーッ! いたいた!」


 不意に、マルスの声が路地に響いた。

 アイクとパルが自分達の横を見ると、いたはずの彼の姿がない。

 彼はいつの間にか路地に足を踏み入れていたのだ。

 暗い路地に響いたマルスの明るい声に、男は拳を止め、一斉に視線が少年から彼に向けられる。


「もー、こんなとこで何してんの? 急ぎの用事って言ったじゃん。全然戻って来ないから探しに来ちゃったよ」


 誰もが呆気に取られている内に、マルスは適当な事を言いながら足早に少年に近づいていく。

 そして、彼の手を掴むと「走って」と耳打ちした。

 言下、マルスは少年の手を引き、路地の向こうへと全速力で走り出す。

 一瞬よろけかけた少年だが、すぐに体勢を直して、彼と足並みを揃えて駆けた。


「お、おい! 待ちやがれ!」


 ようやく状況が理解出来た男達が、叫んで二人の後を追おうとする。


「ごめん! 後は任せた!」


「っ、凍れ!」


 マルスの声を聞いたアイクは咄嗟に、男達の行く手にある大きな水溜まりに氷結魔法を放つ。

 瞬時に凍った水は、二人を追う男達の足を滑らせ転倒させていく。

 転倒した男の体に躓き、転倒する者もいた。


「眠って……」


 男達に向けて、パルは催眠魔法を掛けた。

 幸運にも魔法への耐性は皆低いらしく、彼女の魔法で全員が意識を失って地面に倒れる。

 広範囲になるほど魔法の威力は下がるもので、彼女の魔法も数分しか保たないだろう。

 だが、マルスと少年を逃がすには十分な時間だった。


 アイクとパルは、二人を追って路地に入っていく。

 男達が眠っているのを確認し、起こさぬよう足早に路地を抜けた。

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