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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第9章 砂漠の国を目指して
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1.力を得るには

今のままでは見えぬ勝機。

 翌朝、マルスは二人から叩き起こされるようにして目を覚ました。

 大きな欠伸と共に体を伸ばすと、昨日の朝よりも幾らか強さを増した筋肉痛に襲われた。

 あまり二人に心配をかけたくないと思ったマルスは痛みを誤魔化しながら、いつもよりほんの少しゆっくりとした動作で着替えていく。


 マルスが身なりを整え終えてから、三人は朝食をとった。

 その後、アストルムを発つ支度をするため、再度宿泊していた部屋に戻って来ていた。


「次はどこへ向かうの?」


「アストルムからずっと南に進んだ所にある、コライユという港町を目指す。三、四日はかかると思うが……。そこから船に乗って、エストリアに向かう」


 マルスの質問に、非常用の回復薬の数や食料の数を確認しながらアイクは答える。

 数が確認出来たら、収納魔法が施された鞄にそれらを戻していく。

 魔界アヴィスに繋がると考えられる大穴――邪神の口があるエストリア帝国には、案外早く着きそうだとマルスは思った。

 呑気にそんな事を思っていると、アイクがふと耳を貸すよう声を掛けてくる。


「本当はコライユまでの馬車なんかもあるんだが……今の旅費を考えると、利用は控えたい。パルに負い目を感じてほしくないから、黙っておいてくれるか?」


「うん、分かった。どうせなら歩きたいなって思ってたとこだし、ちょうどいいよ」


 アイクが耳打ちしてきた内容に、マルスはすぐさま賛同を示す。

 パルは忘れ物の有無を確認しに洗面所の方へ行っており、二人が耳打ちしている声は届いていなかった。


 アストルムがあるこのエムロード島は、主要な大陸のおおよそ中心に位置している。

 今三人がいるアストルムは、主にグラドフォスのあるグラド大陸と地上界最大のセルバ大陸に繋がっている。

 そしてコライユは、エストリア帝国のあるアルジア大陸と砂漠の島デシェルトに繋がっている。


 アストルムとコライユは人流、物流の中継地点であるため、双方への行き来が円滑に出来る移動手段が用意されていた。

 最も主要なのは、馬車と転移魔法による移動だ。

 しかし、どちらもそれなりに値の張る移動手段だった。


「飽き性なお前が歩きたいなんて、一体どういう風の吹き回しだ?」


「オレにもそういう気持ちの時だってあんの」


 マルスは少し眉根を寄せてそう答える。

 力をつけるためには、少しでも多く体を動かしていたいと彼は考えていた。

 彼の答えが何となく腑に落ちないアイクは、質問を重ねようとした。

 だが、それより早くアイクの意識を通じてクライスが声を掛けてくる。

 クライスは実体化する許可を求めてきた。


 アイクが許可を出すと、二人の前にクライスが姿を現す。

 その直後にパルが洗面所から戻って来た。

 クライスが実体化しているのを見てなのか、アテナも実体化する許可をパルに求めた。

 許可を出すと、彼女の紋章からシアン色の光球が現れる。

 光球は音もなく床に触れると大きくなり、目映さに三人は思わず一瞬だけ目を瞑った。

 光が収まると、そこには三つ編みにした薄紫色の長髪と、澄んだシアン色の瞳を持つ豊麗な女性が立っていた。

 実体化したアテナは、すぐさまパルを抱きしめる。


「ああ、やっとパルちゃんを抱きしめられたわ! 祭り衣装のパルちゃんも可愛かったけれど、いつものパルちゃんもやっぱり可愛い!」


「アテナ、苦しい……」


 彼女の積極的なスキンシップに少々戸惑いながらパルが言うと、彼女は少しだけ腕の力を緩めてくれた。


「ふふ、彼と上手くいって良かったわね。色々口出ししそうになったけれど、ずーっと黙って見守ってた事、褒めてほしいわ」


 不意に耳打ちされた言葉に、パルは見る間に顔が紅潮していく。


「彼になかなか『可愛い』って言ってもらえなくてモヤモヤしているパルちゃんも、恋する乙女って感じで可愛かったし、二人して初々しい感じで踊っているのも可愛かったし……。でもやっぱり一番は、手の甲に――」


「っ、それ以上、は……ダメ……」


 パルは咄嗟にアテナの口を右手で押さえた。

 これ以上語られてしまったら、色々思い出して恥ずかしさやら何やらで蒸発してしまいそうな気がしたのだ。

 かすかに二人のやりとりが聞こえていたアイクも、耳を真っ赤にしていた。

 マルスは仲良さげな彼女達を微笑ましい気持ちで眺めていた。


「……そろそろ本題に入って良いか」


「ああ、ごめんなさいねぇ。つい盛り上がっちゃって」


 主の心情を察してか、クライスがアテナに声を掛けた。

 アテナは軽く謝りながら、パルを放してやる。

 場の空気が変わったところで、クライスが話を切り出した。


「少し状況が落ち着いて、ちょうど主要大陸の中継地にいる今、一つ情報提供をと思ってな」


「マルスちゃんの守護聖霊についてよ」


 予期せぬアテナの言葉に、マルスは目を丸くして聖霊二人を見た。


「このまま魔界に行ったとしても、邪神に勝つ見込みは一切ない。それどころか、あの四天王達にすら勝てる見込みもないというが私の正直な見解だ」


「厳しいようだけど、それについてはアタシも同感」


 守護聖霊からの厳しい言葉に、三人は頷く他なかった。

 このまま行けば、旅立ってから大した時間もかからずエストリア帝国に辿り着ける事になる。

 最短の道なのは確かだが、今の状態で魔界に行ったとして何が出来ようか。

 マルスにはまだ守護聖霊がいない。

 アイクとパルも、守護聖霊のとの力の親和を極限まで高められているわけでもない。


「端的に言えば、力不足という事だ。ハデスとてまた神を冠する者。今の主達では、到底足下にも及ばない。そして、奴の配下たる四天王や魔族も皆手練ればかりだ。特に四天王に関しては、これまで退けられたのもたまたま運が良かったに過ぎない。実力は想像よりも遥かに高いだろう」


 三人が最終的に戦わなくてはならない相手は、神なのだ。

 ほんの少し新たな力を得ただけの三人が太刀打ち出来る相手ではない。

 そして思い返してみれば、ゼロスの時は予期せぬ聖霊クライスの出現があったから、ルナの時はエヴァという名に彼女が動揺したから退けられた。

 自分達の実力と言うよりは、クライスの言う通り運が良かっただけなのだろう。

 その証拠にゼロスはまだ余裕そうな態度を見せていた。ルナも実力の半分も出していないのをパルは感じ取っていた。


「だからね、とにかくあなた達には力をつけてもらわなくちゃいけないの」


「邪神を屠るには、各々の守護聖霊と契約し、力を得る事がそもそもの最低条件だ。そこで、まずは勇者の少年、お前に守護聖霊と契約を結んでもらわねばならない」


 クライスの涼やかな青い瞳が、マルスへと向けられた。


「オレの、守護聖霊……?」


 マルスは目を見開く。


「オレの守護聖霊は、どこにいるの?」


 期待感に僅かながら震えた声で聞き返す。


「勇者の少年、お前の守護聖霊が眠るのは、エスタジオ火山だ」


「エスタジオ火山って……セルバ大陸にある所だっけ?」


 セルバ大陸は、グラドフォスが統治するグラド大陸の東に存在する、地上界最大の大陸だ。

 大陸の大半は森林に覆われており、今も未開の地が多い。

 そのセルバ大陸の南端にエスタジオ火山は聳えている。


「しかし、あの火山はヴュステ王国が管理している。入山するには、ヴュステの女王陛下から許可を得なくてはならないな」


 顎に指を添えながらアイクはそう言う。

 ヴュステ王国は、グラドフォス、エストリアと並ぶ三大国家の一つだ。

 現在三人がいるエムロード島の西に位置する砂漠の島デシェルトに存在する。

 ヴュステの王族は、神が最初に創った地上界の人類――「原初の民」と呼ばれる――に最も血の繋がりが近い子孫である。

 古の時代から火山の状態を観測し、その噴火を魔法によって管理してきたのが、原初の民の子孫――後のヴュステ王族だった。 

 それ故、今も火山はかの王国の管理下にあるのだ。


「じゃあ……次の行き先は、ヴュステ王国……?」


「そういう事になるな」


 パルの問い掛けにアイクが答える。


「行き先が決まった事だし、早いとこ出発しましょ! ()()()をわざわざ呼び起こすなんて、ちょっと気が引けちゃうけど」


「これも神の(めい)だ。仕方あるまい」


 最後の呟くようなアテナの言葉に、クライスはそう返す。


「前から気になってたけど、オレの守護聖霊ってなんか難ありな感じなの……?」


 初めてアテナと出会った時をマルスは思い出す。その時、彼女とクライスは、マルスの守護聖霊の事を口にしていた。

 話の中で彼女が「面倒な奴」と発言していたり、クライスが顔を顰めていたのをマルスは何となく覚えている。


「会えば分かるわっ! 案外、気が合うかもしれないし! さっ、この話はここでお終い! ハデスがいつ真の力を取り戻すのかも分かんないし、呑気にしてちゃダメよ!」


 アテナは捲し立てるように言ってから、すぐさまパルの紋章へと戻った。

 これ以上詮索するなと言わんばかりの様子だ。

 彼女に尋ねるのを諦めたマルスは、まだ実体化したままのクライスに視線を向ける。


「百聞は一見に如かず、だ。会ってその目で確かめると良い。その前に、まずは目先の目的に専念する事だな」


 クライスはそう言って、アイクの紋章へと戻って行った。


「すんごい気になるけど……まあ、クライスの言う通り、まずはヴュステ王国に行って入山許可を貰わなくちゃね」


 自身の守護聖霊への大きな期待と小さな不安を抱きながらマルスは言う。


「じゃ、出発しよ! 今夜は野宿かなぁ」


 マルスが愛用の剣を腰に差したところで、三人の出発準備が整った。

 守護聖霊と契約を結んだ時、自分はどんな力を得られるのだろうか。

 そんな事を考えながら、マルスは二人と共に宿屋を出て行った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次なる舞台は砂漠の国なんですね。しかもマルスの守護聖霊の居場所が火山……となると、炎の力を持っているのか、はたまた特性がそれに近いのか。以前のクライスとアテナの話によれば気難しそうみたいで…
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