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DESTINY―絆の紡ぐ物語―  作者: 花城 亜美 イラスト担当:メイ
第8章 ラエティティア・ルミノクス
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2.祭りの始まり

 三人は思わぬ所でエヴァと再会を果たした。

 こうも早く彼と再会する時が来ると思っていなかった三人は、驚愕とも言える表情で彼の顔を見つめる。


「そんなに見つめたって何も出ねぇぞ」


 三人の驚いた顔に、エヴァは可笑しそうに笑う。


「あ、いや、こんなに早くまた会えるなんて思わなくって……」


 そう答えるマルスの頭に、エヴァが探すルナの存在と、自分達が以前出会ったルナの存在が浮かぶ。

 自分達が出会ったルナ。きっと彼女こそが、エヴァの探すルナなのだと三人は確信している。

 彼と再会した以上、ルナの事を伝えなくてはならない。

 彼女は生きていると。そして、彼女は自分達の、世界の敵なのだと。


 その事実をどう彼に伝えるのか、伝えて良いのか。ぎこちない笑顔を浮かべながらマルスは悩む。

 マルスがしばらく固まって何も言わないのを疑問に思ったエヴァが、何か喋ろうと口を開きかけた。


「エヴァはここへ何をしに? やはり祭りか?」


 彼が喋り出すよりも早く、咄嗟にアイクがそう問い掛けた。

 今すぐにルナの話を彼にするのは得策ではない、そう考えての行動だった。

 アイクの意図を感じ取ったマルスは、心の中で彼に感謝する。


「まあな。って言っても、俺は買い物目当て。世界各国から商人が集まって来るから、普段手に入らない魔法薬の材料が買えんだ」


 エヴァは魔法薬の材料を買う目的で、祭りに足を運んだようだ。

 それもルナの呪いを解くためかとマルスは思ったが、それを口に出す事はしなかった。


「お前らは? たまたま立ち寄っただけか?」


「立ち寄るだけのつもりだったんだけど、祭りがあるって聞いたからさ。せっかくの祭りだし、たまには息抜きも良いかなと思って」


 ルナに関する話題にならなかった事に安堵しながら、マルスはエヴァの問い掛けに答える。


「ふーん。そういう事なら、俺も付き合わせろよ」


「えッ!?」


 エヴァからの申し出に、思わずマルスの口から喫驚した声が出る。


「んだよ、なんか困る事でもあんのかよ」


「あっ、い、いや、そうじゃなくて……。エヴァが祭りに参加するっていうか、楽しんでる姿が想像出来ないから、びっくりしちゃって……」


 訝しむような視線を送るエヴァに、適当な事を言って誤魔化す。


「いいよ、一緒に行こう。せっかくの祭りだし、人数多い方が楽しいもんね」


 変に動揺すると一層怪しまれると思い、マルスはどうにかいつもの口調に戻して話を進める。その切り替えの速さは、彼自身も驚くほどだった。

 とはいえ、おかげでエヴァの訝しむ視線は消えていた。


「オレ達、今広場の方に向かってるんだ。ステラフロースって言う、この祭りの主役の花が飾られてるって聞いたからさ」


 宿泊した宿屋の主人から、この祭り――ラエティティア・ルミノクスは、ステラフロースというアストルムの街名産の花の開花を祝い、美しさを讃えるのだと聞いていた。

 そのステラフロースが、街の中心にある広場に飾られている事も教えられている。


「りょーかい。どこでもついてくぜ」


「じゃ、行こ行こ」


 エヴァの返事に頷くと、マルスが真っ先に歩き出す。彼を追う形でアイク達も歩き始めた。




 *   *   *




 道中に開かれた露店や演劇に興味を惹かれながら、四人は街の中心にある広場に辿り着いた。

 到着と同時に四人の視界に飛び込んできたのは、広場の中心にある白い山だ。

 近づいて行くと、その白い山の正体が、段状になっている円形の花壇で咲く、何千と言える数の白い花なのだと気づく。

 これこそ、ラエティティア・ルミノクスの主役たる花――ステラフロースであった。


 白い花弁は五枚で、先端に向かうにつれて細く尖っており、絵で描く星を思わせるようだ。

 雄しべと雌しべはどちらも深い青色をしている。雌しべを囲う雄しべは五本あり、どれも星型をしている。

 まるで夜空の星がそのまま花の姿を得たかのようだった。


「これがステラフロース? すごい、星みたいだ」


 ステラフロースに顔を近づけて観察しながらマルスは呟く。


「星の花、って呼ぶ人も、いるって聞いた……。その由来は、形だけじゃなくて……種を落とす時の、様子からなんだって……」


 パルがステラフロースを見つめながら、以前両親から聞いた話や本で読んだ事を思い出す。

 マルス達は彼女の話に黙って耳を傾けていた。


「ステラフロースは……一年の、決まった日にだけ、種を落とすの……。その日の、夕暮れになると……一度花びらが、閉じる……。そして、夜になると……花が開いて、中から、種が空に打ち上がる……。その瞬間に……とっても綺麗な光を、放つの……。それが、星みたいに見えるから、星の花、なんだって……」


 彼女の説明に、興味深そうにマルス達は頷く。


「君、花に詳しいみたいだね」


 不意にパルに向けて声が掛けられる。

 声を掛けてきたのは、街の住民とおぼしき中年の男性だった。


「僕はこのステラフロースの管理をしている者の一人さ。君達、ラエティティア・ルミノクスは初めてかい?」


 男の問い掛けに四人は頷いて返事をする。


「ラエティティア・ルミノクスの一番の目玉は、さっきお嬢ちゃんが言っていたステラフロースが種を打ち上げる瞬間さ。その美しさで、グラドフォス、エストリアなんて大国と並んで、三大祭りに数えられているほどだからね」


 男は誇らしげな面持ちでステラフロースを見上げる。


「そうそう。参加者には、種が打ち上がる瞬間を間近で楽しんでもらえるよう、夕暮れ時にステラフロースを配るんだ。だから、夕暮れ時になったらまたここにおいで」


「へぇ、楽しみ! おじさん、教えてくれてありがとう!」


 祭りの目玉だというステラフロースが種を打ち上げる瞬間。それを間近で見られる事に胸を躍らせながら、マルスは祭りの説明をしてくれた事への感謝を伝えた。


「そんなに期待した目をしてくれるなんて嬉しいね。じゃあ、また夕暮れ時に会おう」


 彼の期待に輝く瞳を見て男は微笑むと、そう言ってその場を後にした。


「夜が待ち遠しいね」


「そうだな。さて、これから夕暮れ時までどう過ごす?」


 マルスの期待の言葉に頷いて答えてから、アイクは皆に視線を向ける。


「色んな屋台も出ているし、食べ歩きしたい! あ、演劇とか見るのも面白そうだよね」


「私も、美味しい物、食べたい……」


「俺は魔法用品扱ってる店が見れりゃいいかな」


 彼の問い掛けに、三人は各々の希望を答える。

 今はまだ朝方。それぞれの行きたい所全てを回るのに、時間は十分あった。


「朝食はさっき食べたばかりだから……演劇でも見に行くか」


 アイクの提案に三人は同意を示して頷く。

 しかし一言に演劇と言っても、劇場でやっているものもあれば、通りでやっているものもある。

 各地方から大小様々な劇団が集まっており、どの演劇を見るのか選択肢はたくさんあった。


「適当に歩いて、目についたヤツでもいいんじゃねぇの?」


「悩んで迷ってる時間が惜しいもんね。ん~どの道を行ってみようかな……」


 行き当たりばったりで観劇するのはどうか、というエヴァの案にマルス達は賛成する。

 広場から通りに繋がる道は五つある。

 マルスはどの道を行こうか考え、ぐるりと周囲を見回した。


「この祭り衣装、とっても可愛いわね」


「今日はこれを着て、彼と踊るの! ああ、楽しみだわ」


 ふと、四人のそばを同年代の少女二人が通り過ぎて行く。

 二人は華やかで、愛らしい祭り衣装に身を包んでいた。化粧を施し、髪も花飾りと共に美しく結い上げている。

 パルは、そんな彼女達から目が離せなかった。羨望を孕む眼差しで、彼女達を見つめていた。

 マルスもアイクも、行く道を選ぶ事に気を取られ、彼女の様子には気づいていない。


「なんだ、おちび。お前もああいうの着たいのか?」


 不意にエヴァから図星を突かれ、パルは心臓が跳ねた。


「…………別に、そういうわけじゃ、ない……」


 自分だけ我が儘を言うわけにはいかない、そう思うパルは本心を誤魔化す。

 祭り衣装への憧れは強い。彼女が最後に祭り衣装を身につけたのは、まだ両親が生きていた六歳の頃だ。

 両親が亡くなってから、グラドフォスの祭りが開かれる度に、同い年くらいの少女達が祭り衣装で着飾る姿を羨望の眼差しで見ていた。


 羨ましそうに少女達を目で追うのは、今やすっかり彼女の祭りでの癖になっていたのだ。

 それを目敏く見ていたエヴァに図星を突かれ、羨望の中に見え隠れしていた自分の願望を自覚した。

 だが、たった一日のためだけに、自分の我が儘のためだけに、限りある所持金を使う事に気が引けているのも事実だ。


「パル、祭り衣装着たかったの?」


 エヴァの言葉が耳に入っていたのか、ふとマルスが彼女の顔を覗き込んで尋ねる。


「う、ううん……そうじゃ、なくて……」


「祭り衣装、可愛いもんね。長い事着てるの見てないし、女の子なら着たいって思うよね」


 否定する彼女の言葉が聞こえているのかいないのか、マルスは広場を歩く祭り衣装を着た少女達を見て言う。


「オレも見たいな、パルの祭り衣装着てる姿。ね、アイク」


「っ、何故そこで俺に振る……。まあ、そうだな。今のパルが祭り衣装を着ている姿は俺も見て、みた、い……」


 唐突に話を振られて一瞬動揺するも、アイクはマルスの言葉に同意を示す。

 だが、幼い頃の彼女ではなく、十五歳の今の彼女が祭り衣装を着ている姿が見たいという素直な願望を口にしてしまった事に気づいて、言い淀むように語尾が弱々しくなっていた。

 とはいえ、もう口から出てしまった言葉は戻す事など出来ないため、アイクは赤くなった顔を隠すように俯く。

 そんな彼の様子に、エヴァは吹き出さぬよう必死に堪えているものの、唇からは抑えきれない笑い声が漏れていた。


「じゃあ、パルの祭り衣装を探しに行こう! あ、お金がどうのとかケチくさい事言わないでよ」


「旅に支障が出ない程度には留めたいが、可能な限り良い物を探そう」


 歩き出すマルスに、アイク達も続いて行く。

 パルの祭り衣装を求めて、一行はまず元来た通りの一つ隣の通りに向かって行った。

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