第九話 キーナ国への出発
3日ぶりの更新です!
楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
「はああああ!」
ユナンはイリニの言葉を聞くと飛び上がって叫んだ。
そして、その拍子に棚の上にあった花瓶を棚から落とした。……だが、話はそこでは止まらない。生憎、その花瓶は高価なもののようで、ユナンは慌ててそれが地面に当たる前にキャッチしようとした。が、キャッチする際に足を椅子に引っ掛けて自分が転倒し、さらに自分の上に椅子が倒れて、花瓶は地面にあたり割れる。……ユナンの目の前で。そして、割れた花瓶を見て呆然とするユナン。
その悲劇を見ていたロクたちはあんぐりと口を開けて見ていた。イリニでさえ、珍しく驚いたような表情を浮かべていた。まあ、一瞬で元の表情に戻ったが。
「ええと、大丈夫ですか?」
そうそっと声を掛けたのはシルヴィだった。
「だ、大丈夫ではないよ!そんな……この花瓶は何よりも大切なモノだったのに……」
「ご、ごめんなさい」
「あっ、いや、君が悪いわけではないんだけどね」
「あら、では私が悪いとでも言うのかしら?」
「いいや、そういうわけではないんだ。ただ……」
「ご愁傷様としか、言えないわね。そんなに大事だったなら、もっと安全な場所に置いておけばよかったでしょうに」
「それはダメだ!」
不自然なほど大きな声を出すユナン。
「これはかのディオース神が僕たちに下さったものなのだからね!」
「ディオース神ですって?だったら尚更」
「いや、かの神はこう言いながら僕たちの一族に渡したんだ。『これを代々君たちのガラス細工の店の応接室に置いてくれ』と」
「?やけに具体的なんですね」
不思議そうに尋ねるシルヴィ。
「まあ、僕たちも不思議には思ったよ。でも、かの神が仰せられたこと。それを守るのは当然でしょう?」
「でも、その神は本当には実在していないんだろ?その当時の国王が作った空想上の神なんだから」
「君はかの神を愚弄するの?」
「妖精族のあなたなら知らないでしょうが、今はディオース神を神とする人はほとんどいないのよ。だから、この対応が普通なのよ」
「そうなの?なぜだ。昔はあんなにかの神を信仰していたというのに。かの神は……」
「今は、神がいたかどうかなんてことを話し合っている暇はないわ。キーナ国に行くためにここに来たのだから」
ユナンの言葉に被せてイリニは話を本来の方向に戻す。ここに来てかれこれ1時間経とうとしているのだ。できるだけ早くキーナ国に行きたい身としては、不毛な会話を続ける気はなかった。
「ああ、そうだったね。君たちはキーナ国に行きたいんだよね。……いいよ。確かに承った。王女殿下も許可をしますよ。……だけど、伴もつけなくて良いの?王族なら安全を優先すべきでしょう?」
それはロクやシルヴィも思ってきたこと。だが、いくら尋ねようにも「大丈夫」としか言われなかった。第二王女と民衆に知られていなくても危険な目にあうことだってあるのだ。
「大丈夫よ。そんな心配は言わないわ。私だけでないと問題があるのだから」
「そうか、ならしょうがないね。僕が強制することはできないから」
「ええ、納得してくれて嬉しいわ。それと……私が第二王女だということは誰にも話さないでね。あなたが妖精族だと言うことは話さないから」
「そうだね。それなら問題はないかな」
「あと、それともう一つ。先に二人を送ってその次に私を送ってくれないかしら?行先は同じなのだけれど」
「?まあ、そのぐらいなら問題はないけど。妖精族のことを知っていたなら僕がどうやって隣のキーナ国に送るのか知っているんでしょう?」
「ええ、その通りよ」
「だったら、大丈夫。それでは先に君たちをキーナ国まで届けましょう」
そう言ってユナンはロクとシルヴィを連れて入ってきたドアとは別のドアから出ていった。