第七話 三人の顔合わせ
短めですが、区切りがよいのでここまでで更新しました。
ブクマありがとうございます!
面白く感じてくださっている人がいるのは嬉しいです。
「兄さん。苦しい」
シルヴィにそう言われるまでロクは彼女を抱きしめたままだった。
「ごめん。シルヴィ。迎えに来るのが遅くなって」
「ううん。迎えに来てくれただけで嬉しい」
「良かったわね。兄さんに会えて」
「はい!イリニ様のおかげです!」
シルヴィはとても嬉しそうに言う。耳もピコピコと動いていて、傍から見ても嬉しいというのがわかる。
「でも、最初はあなたがシルヴィの兄だとは分からなかったわ。だって、あなたには耳がないんだもの」
「まあ、そうだろうな。……もう、お前のことだからわかっているんだろうけど、俺たちは……獣人だ」
「ええ、もちろん知っているわ」
「だったらなぜ、人族のお前が俺たちと取引をする?俺たち獣人たちを差別する人族が」
ガルデゼ大陸のほとんどの国では人族以外の者は迫害を受けている。中でも獣人の扱いは酷く奴隷にされることが多いのだ。……何も悪いことをしていないにも関わらず。見た目が自分たちとは違うという理由で。
ロクは人族から目障りという理由で耳を落とされた獣人だ。
だが、その中でも例外はあるわけで。その一つがキーナ国。国王自らすべての種族を平等に扱うと宣言している。それもあって、キーナ国に住む人族以外の種族は国王に心酔している者が多いのである。
「それに答えるのは今ではないわね。……でも、そうね。今回あなたたちに頼んだ理由だけは話しておきましょうか。……それは、獣人たちのルートから侵入するしか、私がキーナ国に入る穏便な方法はないのよ。どうやっても正規のルートから入るにはキーナ国からの発行書がないと入れないでしょ?」
「まあ、そうだが……」
確かにイリニの言うことは正しい。本来は認められていないが、こっそりこの国からキーナ国に亡命をすることがあるのは本当だ。特に人族以外は。だが……。
ロクはイリニの説明に納得がいかないという表情を浮かべる。確かに一応筋は通っているのだが、何かが引っかかる。
「……大丈夫よ。あなたたちには危害は加えないから、心配しなくて結構よ」
そう言って笑うイリニの表情からはそれが本当なのか嘘なのかわからない。そんなロクの背中を押したのはシルヴィだった。
「大丈夫よ、兄さん。私がイリニ様にお世話になっていた間、酷いことなんてされなかったのよ?今更そんなことするわけないでしょう?」
シルヴィからそんなことを言われれば納得するしかなかった。……結構なシスコンである。
「ああ、そうだな。それにもう取引した後だしな。従うよ」
「そう、なら改めて自己紹介を」
そう言ってイリニは一歩下がりドレスの裾を少しだけ持ち上げて完璧なお嬢様の挨拶の仕方で挨拶をする。
「私の名はイリニですわ。短い間ですが、よろしくお願いしますわね」
「……ああ、俺の名はロク。まあ、よろしくお願いします」
「私の名はシルヴィです。イリニ様よろしくお願いします!」
ロクは若干引き気味に。シルヴィは嬉しそうに挨拶をした。