第五話 間者との取引
本日最後の更新です!
「それで、一体これをどこで手に入れたんだよ!返答次第ではお前を許さないからな!」
男は先ほどイリニが投げてきたペンダントを指差したままイリニを睨む。
そう、このペンダントは男の大切な者が持っているべきモノなのだ。男がその者のために作ったこの世界でたった一つのペンダントなのだから。
「これはとある貴族の家から押収したものですわ」
「とある貴族だと?」
「ええ。先日、そちらの家に伺うことがございまして、その時見つけたんですよ」
「それで、これがあるということは……いたんだろ」
「はい。その家のとある一室にいましたわ」
イリニがそう言うや否や、男は地面に拳を叩きつけた。
「ほら、やっぱり、この国が女子どもを攫ったんだろ!」
「はあ、だから違うと言ってますでしょう。……次にこれを見てください」
イリニがそう言うと、イリニの後ろから突然、見知らぬ男が現れ、何かの紙を間者の男の目の前に置いた。
突然、執事服を着た男が現れたことに驚き、間者の男はその男を凝視していた。
「どうぞ、ご覧になってください。そうすれば、我が主の言いたいことがわかりますので」
男はそう言われると、渋々とその神を見た。すると、その男の顔色がみるみるうちに悪くなり、しまいには体が震えていた。
「これでわかりましたでしょう。私が言っていることが」
「だ、だが、これが本物である証拠なんて……」
「あら、そちらの国王とこちらの国王の仲が悪いことなんて知っているでしょう?だから、こちらの国の者がそんなものを手に入れる、ましては受け取るなんてことはあり得ないでしょう。しかもそこまで地位の高くない貴族が」
「そ、そんな……」
男はパサリと紙を落として崩れ落ちた。当たり前だろう。長年信じていた者に騙されていたのだから。しかも、その者の大切なモノまで奪っていたのだから。
イリニはそっと男が落とした紙を見る。その紙は手紙。キーナ国王からヴェニアス王国のとある貴族あての。内容はこうだ。
『例のモノをいつもの取引場所に送った。活用してくれ。今回はなかなかの上玉ぞろいだから、貴公も満足することだろう。特に桜色の髪の娘。なかなか手に入れることができない逸材だ。まあ、いつものようにオークションにかけてもらっても構わない。きっと高値で売れるだろうからな。約束通り、受け取る前にそちらの情報を頼む。今度の戦争では色々と作戦が混み合っていてな、貴公の情報が頼りなのだ。もし、貴公の情報が役立ったら、また取引に応じよう。
キーナ国王バルドラ』
そして最後にキーナ国王の紋章とサインが書かかれていた。
イリニは男が絶望しきったような様子にため息をつく。話はまだ終わっていないのだ。男を絶望させたかったのではないのだから。だから、一つ男に希望を与えることにした。
「あなたの大切な妹さんは無事よ」
「な、なんだと!」
男はイリニの言葉を聞くとさっきまでの様子から一変。イリニの想定通り、男は希望を目に浮かべるようになった。
「ええ、でもタダで会わせることはできないわ」
「なんでだ!」
「だって、私にメリットがないじゃない」
「メリットだと!そんな理由で!」
「ええ、そうよ。私ちょうど侍女がもう少し欲しいと思っていたのよ。だから、彼女がいなくなると困るの」
「妹がそんなこと了承するとでも思っているのか!」
「もちろんよ。彼女に聞いたらやります、と言ってくれたわ。私に恩返ししたいそうよ」
「だ、だが」
「あなたの方が彼女の性格を分かっているでしょう?」
「……」
ここまで言われると男は黙ってしまった。彼女の性格がわかっているのだろう。イリニは彼女と出会ってまだ数日だが、彼女の性格はわかっていた。正義感が強く、義理堅く、とても優しい。
「だけどね、私だって別にあなたたちを離れ離れにさせたいとは思っていないの。だから、私のお願いを聞いてくれるなら、二人まとめてキーナ国に返してあげるわ」
「……なるほど、だから取引というわけか……」
「そうよ。やっと頭が冷えたようね」
「そのお願いとやらを聞いていいか?その内容次第によっては取引できない」
「ええ、そうでしょうね。私があなたたちに求めていることは、……キーナ国までの道案内よ」
「キーナ国への?なんで?」
男はポカンとした表情を浮かべていた。
「私はね、キーナ国に用事があるのだけど、こちらからキーナ国に入るには難しいでしょう。だから、あなたたちの付き添いとしてキーナ国に入国したいのよ」
「……何の用事なんだ」
男は恐る恐ると言った感じで尋ねる。
「そうね。これをあなたに言ったらもう断れないわよ」
男は暫く考えた後に、決心する。
「俺は……」