第四話 王と第一王子
本日4話目です!
イリニたちが間者の男と話をしているころ、王城の別室では二人の男が話をしていた。
「それで、昨日の夜会の件だが……」
「はい、予定通りです。第二王女の存在に気づいた者はいませんでした」
「おお、そうか。それは良かった。あやつを第二王女として紹介するなど言語道断」
「そうですか。出来損ないなんて要らないですしね。いっその事、平民として城から放り出せばよいのでは?」
「いや、それはできんのだ。あやつの髪は銀髪。銀髪は王家の血を引く者にしか現れない髪色だからな。誰かに見られれば王族だとわかってしまうのだ。……忌々しいことにな」
「そうなのですか。それは残念です」
男は言葉と裏腹に全く残念そうに思っているようには見えなかった。
「……レクス。お前は相変わらずだな」
「はい。第二王女のことなんてどうでもよいことですから。いようといまいと私の仕事に関わることはありませんしね」
この男の名はレクス。第一王子だ。イリニと同胞で、イリニより4歳ほど年上。次期国王と言われている。父と同じ黒髪かつ金色の目で、顔立ちも父にそっくりだ。政治の手腕は一流で、すでにいくつもの仕事を請け負っている。
そんな第一王子だが、一つ欠点がある。それは……政治のこと以外には興味がないことだ。王位や家族のことなどどうでもいいと考えている。まあ、こうなった理由は色々とあるのだが、今は関係ないこと。
そして第一王子レクスと話しているのが、レクスやイリニの父であるノーゼアナ国王陛下。
「レクス。お前は次期国王として考えなければならないことがたくさんある」
「わかっていますよ、陛下。陛下が成そうとしていることのために日々私は努力している次第であります」
「いや、それは分かっておるが、……そうではなくてな。他の王族の扱い方だ」
「それは今までと変わらずでよいのでは?」
「そうとも言ってられんのだ。先ほど話しただろ。銀髪が王族にしか現れないということを」
「ええ、そうですね。それが何か?」
「今の王族には銀髪が二人いる。一人は第二王女。……もう一人は第二王子のシュタインだ」
「ああ、そういえば第二王子も銀髪でしたね」
「そうだ。それで臣下の中にはシュタインの方が次期国王として相応しい、と言う者がいるのだ」
「たかが、銀色の髪であるということだけでですか?」
「そうなのだよ。銀髪は我ら王族の始まり、ヴェニアス神から生まれたと考えられているため、神聖視されるのだ」
「……確か、この世界を救った神、でしたか?」
「そうだ。ヴェニアス神はこの世界を作り直し、人々が暮らしやすい世界にしたのだ」
この国ヴェニアス王国には一つの逸話が存在する。
遥か昔、この世界はとても住めるような場所ではなかった。荒れ果てた土地ばかり。しかも、そこには人より強い生き物たちが我が物顔で歩き回り、時には人を襲うことさえあった。天災に巻き込まれては死に、生き物に食われては死に、病気にかかれば死に、食べるものが見つからなければ死ぬ世界だった。
そんな世界に一人の神がやって来た。名はヴェニアス。銀髪の美しい神。ヴェニアス王国を建国した神でもある。神は地上に降りてくると、不思議な力を使い、この世界を癒した。すると、土地に緑があふれ、食べ物が実り、人々の病気が治り、人々は生き物と戦う力を得た。
人々はそんな神を敬い崇めた。しかし、神はこの世界に留まろうとはしなかった。人々はいなくなる神をこの場所に留めようと必死だった。そんな人々の様子に心揺さぶられたのか、神は人々が安心できるようにと一つの国を作った。それがヴェニアス王国。神は自分が王に即位すると、神は自分の子どもを作った。そして、その子どもをこの世界に残し去って行った。
その後、人々は神に会うことはなかったが、神のことを忘れることはなかった。なぜなら、人々の中に神が使ったような不思議な力を使える者が現れたのだから。
そして、今に至るまで、この国はヴェニアス神によって守られているのだ、と。
「ですが、それは作り話でしょう?子どもに聞かせる類の」
そう、今ではこの話の信憑性は証明できない。そのため信じている者もいるが圧倒的に信じていない者の方が多い。現に今ではヴェニアス神を神とする教会は数少ない。ただ最初に建国した人物としてしか考えられていない。
「いや、そうとも言い切れないのだよ」
だが、ノーゼアナ国王はこの逸話は本当にあったことだと言う。
「どうして、陛下はそうお考えになられるのですか?」
「それはだな。その逸話には続きがあるのだ」
「続き……ですか」
「そうだ。続きは代々、国王にしか語り継がれないものだ」
「なぜですか?」
レクスにそう尋ねられると、ノーゼアナ国王はもったいぶったように間を開けて言う。
「ここにはヴェニアス神が残していったものがあるのだから」