第三十四話 暗殺者との遭遇
お久しぶりです!
今回はいつもより長めです。楽しんで読んでいただけると嬉しいです。
今から一時間ほど前、ロクはイリニから言われていた任務を行っていた。
だが、ロクは先ほどから別のことが気になっていた。
“なんで第一王子のことを天才だと俺に言ったのだろう?”
無論、イリニの話が本当なら天才で間違いないだろう。だけど、それはイリニにも当てはまることだ。イリニと出会った日以降、ロクはイリニの有能さをずっと見てきた。すごい。その一言で済ませてしまっては勿体ないとすら感じる。
だが……彼女は頑なに自分の有能さを見せようとはしない。俺たち以外の人に対しては徹底的に無能さを見せている。
不思議だった。王位継承に関わるからなのかと尋ねれば、違うと言われ、仕事をしたくないのかと尋ねれば、それも違うと言われる。
それに仕事内容も不思議だった。知っての通り、彼女は幽閉に近い扱いを受けている。時々食事が届かないなんてことも起こっている。嫌がらせだそうだ。彼女いわく。
そんな中でも文句も言わずに従っている。
で、肝心の仕事についてだが、その中に他の王族の調査なんてものも含まれている。しかも彼女は毎回のごとくその調査について熱心に聞いている。
最近は特に第一王子を。
調べて見て思ったことは、凄い奴なんだなということ。なぜなら、彼はよく政治の場に呼ばれている。そして意見を求められる。あれで俺とほぼ同い年だというから驚きだ。
まあ、あと何に対しても冷静沈着で政治に関してのみ関心を持つ男。噂通りだな、と思った。だけど、まあ、何度か俺が盗み聞いているのに気づいているようでなかなか気配を掴むのも得意なようだ。
きっと、王族、しかも第一王子だから、暗殺者に狙われることも多いのだろう。それで鍛えられたのかもしれない。
そんなことを考えている間も第一王子は宰相らしい?人と話し込んでいる。
「レクス様、城下町の巡回の件ですが……」
「ええ、最近悪魔崇拝者による暴動が起きているため、その対策の一環として巡回を増やしたいとのことですよね」
「ええ、その通りです」
「ですがそれはあまり効果がないかもしれません」
「……効果がない……ですか……」
「ああ、全くないというわけではありません。一部には効果があるでしょう。ですが、悪魔崇拝者たちは警備隊がいようといまいと暴動を起こします。なぜなら自分たちこそ正しいと思っているから。コソコソと隠れる必要はないと考える者が多いのです」
「な、なるほど。ですが、なぜ……レクス様はそれほどまでに悪魔崇拝者たちについて知っているのですか?」
恐る恐るというように尋ねる宰相。
王族への不敬になるかもしれない。だが悪魔崇拝者たちについてよく知っている理由は……。
宰相の言葉の後しばらくの沈黙が続いた。1秒、2秒、数秒のことだったかもしれないし、数分のことだったかもしれない。
なぜなら宰相がそれを尋ねた後、第一王子からプレッシャーが溢れ出てきたから。生きた心地がしなかった。
だけど、第一王子の口から出てきた言葉は全くと言っていいほど何の感情も含まれていなかった。
「理由ですか?……それは私が時々彼らに狙われるからですよ。今のところすべて失敗していますがね。たいてい捕らえた後は拷問しますし、その時の様子や証言から彼らの思考、行動基準などを分析しているのですよ。いつも私がやっているというわけではないんですがね。時々は自分で情報を手に入れるために行っているんですよ」
「そ、そうですか。それは大変失礼いたしました」
「いえ、では解決策の方ですが……」
第一王子がそう切り出してきたとき、ロクは自分の後ろから殺気を感知した。
キン。ロクがその殺気の者の人物の攻撃を弾いたときの音だ。そしてロクは攻撃を弾いた瞬間に、バックステップで距離をとる。
「今のに反応するとは……」
しゃがれた声で男はロクに話しかけてきた。だけど、ロクは返事をしない。いや返事として暗器を男の死角から投げる。
「おおっと」
だが男はのんきな声を出しながらこの返事をかわした。
「おお、若いのに筋がいい。これは殺すのが勿体ないな。……そうだ。お前さんこちらにつかないか?俺たちの組織は最近人手不足でな。こんな老いぼれがのこのことここまで来なければならなかったんだ。……どうだ?」
ロクは返事をしない。だけど、内心は焦っていた。
目の前にいる男は完全に自分より手練れだった。そして俺を侮ってもいない。隙が無いのだ。きちんと警戒をしている。
こういうやつは勝つのが大変だ。
俺は何か勝機を見つけるために話をすることにした。
「お前らはなんの組織だ」
俺がこんなことを尋ねるとは思っていなかったのか。男は一瞬キョトンとした。
「……ああ、普通の暗殺者とかはそんな反応だよな。いやー、久しぶりにこの仕事するから忘れてたよ。……暗殺者は主のためというよりは仕事のためにする生き物だということを!いやー実に愉快」
男はそう言うとガハハハと品のない笑い方をする。
ロクはと言えばどうしたものかと思案していた。俺は暗殺者ではない。まあ、それに準ずる仕事をしたことはあるが……。
だが……男の様子を見て訂正する気にもなれなかった。だからスルーして話を進めることにした。
「……それで」
「ああ、それは……神の使いのための組織、まあ一般的には悪魔崇拝者団体と言われている組織だよ」
だけど、その答えはスルーできるものではなかった。
悪魔崇拝者、悪魔はヴェニアス神の使いで人々は悪魔に付き従うべきだという考えを持った人たち。最近活発になっている集団。それが王城にいる。それが示すことは……。
俺は堪らずすぐにイリニのもとに向かおうとする。なぜなら……悪魔崇拝者たちは銀髪を持つ王族を悪魔に捧げてヴェニアス神を復活させてこの地の人々を滅ぼそうと考える集団でもあるから。
そして俺の主、イリニの髪の色は銀髪。しかも警備の薄いところにイリニの部屋がある。
だが、そう簡単にはいかない。なぜなら男は俺がどこかに行こうと体を動かした瞬間、剣で斬りつけられたのだから。
「すまんな、お前さんを行かせるわけには行かんのだ」
男はそう言って剣についた血を払う。
「さあ、殺し合いを始めよう」