第三十三話 賊の侵入
お久しぶりです!
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「……ねえ、アルはいる?」
イリニはロクとシルヴィが部屋から去った後、そう呟いた。
「はい、こちらに」
アルはどこからともなく現れた。
「ねえ、私たちには約束があったでしょう」
「そうですね。もちろん調べていますよ」
アルはそう言うと一枚の紙を差し出す。イリニは何も言わずにすぐにその紙をひったくる。
だが、その紙には一見すると何も書かれていないように見える。だけど、イリニはその紙を読み進めていた。
読み進めれば読み進めるほど、イリニの顔色は悪くなる。
「どういうこと!」
イリニは珍しく大きな声を出して立ち上がった。傍目から見てもわかるほどに動揺している。
「なんで……なんで……あの人の傍にアレがいるのよ!?」
イリニはまるで悲鳴のように叫ぶ。
「私としても想定外のことです。ですが、あいつらは基本自由な身。こちら側に来なければならないという決まりはございません故に」
一方、アルは平然としている。まるで事前に知っていたかのように……。
「あなた知っていたわね!」
イリニは紙をグシャっと握り潰しながらアルをキッとにらむ。
「いえつい最近知ったのですよ。前話した時は知りませんでした」
「嘘をつかないで!あなたはいつもいつも……!」
イリニの頭の中は怒りでいっぱいだった。思わず言ってはいけないことを声に出そうとしてしまう。しかし、言葉にはならなかった。なぜなら、アルの次の言葉により一瞬で冷えるのだから。
「その先を言ってもよろしいのですか?」
アルの言葉はイリニの頭を冷やすのには十分だった。
「私は別にこのことをサポートする必要はないんですよ。本来ならあなたには他のことに時間を割いて欲しくはないのです。そんな中、私はそれを許し協力しているというのに……。最近あなたはよくやっていると思っていたんですけどね。残念です……」
イリニは何も答えることはできなかった。当たり前だ。アルが言うことは正しいから。私のわがままで仕事が遅れているのだ。
「あなたの立場がわかりましたか?この仕事が途中で終わって困るのはあなたなんですよ。あなた以外にもこの仕事ができる人はいるんですから」
「!それは……」
イリニは唇を噛んで言いたい事を飲み込む。そうでもしないとまた叫んでしまいそうだったから。
「……さて、私は仕事に戻ります。あなたもきちんと自分の役割を果たしてくださいね」
アルはイリニの返事を聞く前に去っていった。
「わかっています。私がやらなければ……」
イリニは誰もいない部屋でぽつりと呟く。
自分が決意したときのことを思い出す。この役目を果たすこと。そして、その原因である大切な人を失ったときの悲しみも思い出す。もう、あんなことは二度と起こさせない。私はそう決めたのだ。
そんなときだ。廊下から誰かの足音が聞こえてきた。そしてイリニの部屋の扉が開いた。
「大変です!賊が城に侵入してきました!避難してください!」
ロクはドアを開けるやいなやそう叫んだ。そしてロクの体には剣で斬られたような傷があった。